ジオパークによる隠岐の魅力発信とサステナブルツーリズムの実現にむけて

ジオパークとは

ジオパーク隠岐

ユネスコの正式事業であるジオパーク

みなさんは「ジオパーク」という言葉を聞いたことがありますか?地球の記録を留める大地の遺産(地質資源)の保全・保護を行いながら地域振興、教育振興、観光振興に取り組む世界的な活動で2004年にユネスコの支援によって始められ、2015年にはユネスコの正式事業となっています。

日本では2007年から具体的な活動が始まり、現在、日本国内では56地域がジオパーク活動に取り組んでいて、その内44地域が日本ジオパークに認定されており、更に隠岐を含む9地域がユネスコ世界ジオパークに認定されています。

7地域で始まった活動が14年ほどで一気に広がったのは新たな地域振興、観光振興の手法として認識されるようになったからだと考えています。

ジオパークが認知されていない理由

ただ、ジオパーク活動が日本で紹介された当初「世界地質公園」と訳されたことや地質学者が中心となって活動が推進されたことによって、「ジオパーク=地質」という印象が先行してしまったことが残念です。

ジオパークは地質遺産(大地)だけではなく、大地の上に成り立つ歴史・文化や生態などを含めた「大地の公園」と訳されるようになりましたが、ジオパークを一言で表す良い言葉が見つからないため「ジオパーク」という言葉を今でも使っています。これもジオパークが一般の方に広がって行かない要因の一つにもなっています。

ジオパークの楽しさは、その地域の歴史・文化や動植物などはその地域の地質、地形、地理などによって生み出されたものであり、それぞれの関係性(つながり)を紐解くことによって、その地域の魅力をより深く発見することです。

隠岐を取り巻く環境の変化

隠岐の島

離島ブームにより観光客で賑わった1960-1990年代

隠岐は島根半島の北40~80kmの日本海に点在する4つの有人島と180余りの無人島によって構成されている諸島で、国賀海岸を代表とする雄大で美しい海岸景観などによって1963年に大山隠岐国立公園に指定されました。

古事記、日本書紀の国生み神話において三番目あるいは五番目に誕生した島でもあり、後鳥上皇、後醍醐天皇などが配流となった歴史的背景によって1960~1970年代の「離島ブーム」や1990年頃の「太平記ブーム」の頃は観光客で賑わっていました。

観光客のニーズ変化により観光客が現象

しかしながら、1998年以降観光客のニーズの変化によって、団体旅行から少人数のグループ旅行へ、物見遊山的な観光から体験型観光、更には自分の知識を広めるための修学的旅行(大人の修学旅行)への変化に対応できず隠岐の観光客数は年々減少し、島の玄関口である港周辺も空き店舗が目立つようになってきています。

また、島の経済を支えてきた公共事業も財政状況の悪化から年々減少し隠岐を取り巻く環境は悪化の一途を辿ってきました。

こうした状況に対して、これまでも観光協会や商工会などが中心となって地域活性化の取り組みが行われていましたが、それぞれが単独での事業で成果が得られないまま「島が沈むのを見ているだけ」というような諦めの雰囲気に包まれていました。

ジオパークによる隠岐の魅力発信

隠岐は小さな島ですが、様々な資源が凝縮して詰め込まれていて、隠岐で隠岐の事を知るのではなく、隠岐の成り立ちを知ることによって日本海や日本列島の形成過程や地球規模の環境変化、地球の内部の事を知ることができます。

また、隠岐の不思議な植物分布を知ることによって日本列島の植物分布の変遷を知ることができ、隠岐産の黒曜石を通して3万年前からの日本の歴史の始まりを知ることができる、まさに地球の縮図のような場所です。

こうした隠岐の魅力をジオパークという活動を通して一般の方にも広く知っていただくために、「大地の成り立ち」「独自の生態系」「人の営み」の3つのテーマに分けて紹介し、それぞれのテーマの関係性について考えてもらい、隠岐の謎を紐解いてもらっています。

【大地の成り立ち】

隠岐はユーラシア大陸の縁辺であった時代、湖の底の時代、深い海の底の時代を経て約600万年前の火山活動によって誕生し、海面の上昇によって約1万年前に現在のような離島になりました。

それぞれの時代の証拠となる地質資源を道路脇で簡単に確認することが出来るため、隠岐の成り立ちを知ることによって日本列島の成り立ちを推測することが出来るのです。

また、発見されたワニの化石やホタテ貝の化石によって地球規模の環境変化を推測することができ、海岸にあるマントルゼノリスによって地球の内部がどのような物で形成されているのかを知ることができます。

【独自の生態系】

隠岐は1万年前に現在のような離島となったこともあり、他の離島に比べて固有種の数も少なく(約30種類)生物学的にあまり注目されていませんでしたが、植物を主体とした生物の分布状況が近年注目されるようになってきています。

北方系のハマナスと南方系のナゴランが共存し、亜高山性のオオイワカガミやクロベなどが海岸の遊歩道沿いで観察することができ、大陸系のダルマギクが紫色の花を咲かせ、12月まで色鮮やかなアジサイを観察することができます。

こうした不思議な自然環境は隠岐諸島の成り立ちや対馬暖流の影響を受けやすい場所に位置しているからなのです。

【古代から続く人の営み】

隠岐島の歴史

隠岐は後鳥羽上皇、後醍醐天皇が配流となった場所として広く知られていますが、なぜ、天皇が二人も隠岐に配流となったのでしょうか。その謎を紐解くヒントが隠岐のアワビにあります。

平安時代以降天皇の即位式には隠岐のアワビが供えられ、大臣クラスのボーナスは隠岐のアワビで知事クラスになると隠岐のアワビはもらえませんでした。また、日本全国の神社は隠岐のアワビをもらって初めてお祀りができるなど、最高ブランドとして用いられてきました。その理由に隠岐の方角があります。

その当時の都であった奈良・京都から見て隠岐は北西の方角に位置し、の方角、吉兆をもたらす方角とされていたからなのです。討幕運動を起こした天皇なので簡単には帰って来られない離島や陸の孤島が遠流の地とされましたが、天皇を流すわけですから良い方角に位置する隠岐が選ばれたことが推測できます。

また、隠岐は古事記(712年)の国生み神話において「隠伎之三子島(おきのみつごのしま)」として3番目に誕生し、神亀元年(724年)に遠流の地として定められています。隠岐が如何に重要であり、どのような場所なのかが古代から知られていたからこそ、こうした場面で登場するのではないでしょうか。

ちなみに、本州側から見て手前側にある3つの島を島前(どうぜん)、後ろ側にある円形の島を島後(どうご)と呼びますが、島前の3島にはそれぞれ「西ノ島」「中ノ島」「知夫里島」と島の名前があるのに対して島後には島の名前が無いのも謎となっています。島後は地名であって島の名前ではないのです。

隠岐が古代から歴史上に登場する背景として隠岐産の黒曜石があります。旧石器時代から刃物などの石器の材料として用いられてきた黒曜石の産地は日本国内でも100ヶ所ほど知られていますが、その質の良し悪しから主に使用された黒曜石の産地は隠岐を含めて6か所しかありませんでした。

隠岐の黒曜石は遥か3万年前から中国地方を中心として幅広く運ばれたことが知られており、隠岐の黒曜石を中心とした人・文化の交流があったからこそ神話や天皇の配流の地となったと考えられています。

サステナブルツーリズムの実現に向けて

私たちは、ジオパークという手法とユネスコブランドを活用して隠岐地域の観光振興に取り組んでいますが、活用だけでは持続可能な地域社会の実現はできません。保全・保護があってこその活用だと考えています。隠岐の雄大で荘厳な海岸風景は一瞬で形成されその形は日々移り変わっています。

隠岐は600万年前の火山活動で誕生しましたが、浸食によって削られたのは7千年前からなのです。風景は固い岩で出来ていることから不変だと思いがちですが、そうではなく風景は移り変わりいつかは無くなってしまうかもしれません。だからこそ、今、目の前に映し出される風景は貴重なのです。

また、地球上のすべての人々が私たちのような生活をした場合、地球は5個必要だと言われています。しかし地球は一つしかありません。地球を守るために私たちは何をすべきか。こうした考えに気づいてもらうのも、ガイドを含め私たちジオパーク活動に取り組む者の義務だとも考えています。

2021年7月にはジオパークの理念を盛り込んだホテルEntoが海士町に開業しました。今後はシーカヤックやE-Bikeによるごみ拾いやペットボトルを使用しないツアーの構築など、サステナブルツーリズムの取り組みを隠岐から発信し続けたいと考えています。

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