元国連世界観光機関職員
㈱JTB総合研究所 グローバルマーケティング室長
熊田 (Jack)順一
先月に引き続き「ツーリズムを楽しむ際に今日からみんなに意識して欲しい6つの考え方」を紹介していきます。
1.旅先に住む人々に敬意を払い、地球上の私達の共有遺産を大切にしよう
2.私達の地球を守ろう
3.地域経済をサポートしよう
4.安全に旅しよう
5.旅先の情報に通じた旅人になろう
6.デジタルを賢く使おう
今回は6つ基本的な骨子の3つ目、「地域経済をサポートしよう」です。
3.地域経済をサポートしよう
1)地元で作られた工芸品や製品を購入しよう。 適正な価格を支払うことで地域の販売者や職人の生活を尊重しよう。
Jack解説: 「地元で作られた工芸品や製品」とは一体どんなものをイメージされますか?観光地で売られているお土産物屋さんの陳列を思い浮かべてみましょう。お菓子、飲み物、陶器や織物等の手工芸品、マグカップやTシャツ、観光名所のミニチュア、マグネット等多岐に亘りますよね。お土産物は多くの人の手を経て、観光地の店先に並びます。
工芸品や製品は、必ず誰かの人の手を経て①原材料の確保、②工芸品・製品の企画・デザイン、③原材料から工芸品や製品への加工、④店頭での販売という流れを経ています。あるものは海外で作られ、輸入され、そのまま陳列されているもののもあれば、観光地域の原材料を使って、地域の人たちの手で作られるものもあります。訪問者・旅行者の多くは地元工芸品や製品を求めます。
ただグローバル社会において、原材料・デザイン・製作までを一貫して地域で完結している工芸品や製品に出会うことは難しいのも現実です。そこで提案としては少なくとも上述の4つのステップ(①原材料、②デザイン・アイディア、③加工、④販売)の内、③の加工を基本に①・②・④のいずれか一つが実践されているものを地域で作られた工芸品や製品と考えたらよいかと思います。
また「適正な価格とは何か」と考えれば、まずは自身がその工芸品や製品に対して感じる価値(対価)になるのだと思います。その価値は旅行者が日常の生活で得られるものですから、自分の暮らしの中で、この工芸品にだったらどのくらい払うかなと考えて、値段を設定することが大切だと思います。よく観光地で「そんなに高く払ったの?もっと値切れたのに」なんていう言葉を耳にします。適度な買い物の交渉も旅のコミュニケーションの一環ですが、自分の価値観にあった予算を提示することが大切です。その上で、地域の物価水準や、この土地や機会でしか買えないというプレミアムを勘案して交渉する値段を考えていくことも大切なことだと思います。また日々の生活で興味のある文化・アートに関わる製品についての値ごろ感を鍛えておくことも、楽しい買い物をするコツかもしれません。
せっかく、その地域を訪れたのだから「その地域ならでは」「その土地の人々が作った」工芸品や製品を購入し、その地域の人たちの努力に応えて欲しいものです。
2)偽造品や、国や国際規制によって禁じられた製品を買うのはやめよう。
Jack解説: 偽造品とは真正品が定める品質や材料に対して「偽り」があることです。よく国際空港の税関で時計やブランドファッション品等の偽ブランドの購入への注意をご覧になった方も多いのではないでしょうか。偽造品はメーカー製品だけでなく、文化領域の絵画や工芸品、宝飾等の模倣品等にも及びます。真正製品はメーカーのオフィシャルショップで購入する等の行動で偽造品を購入するリスクはかなり低下します。
また芸術品や宝飾品については鑑定書等の第3者認証をキチンと確認すること等も重要でしょう。また遺跡地域の観光地においては、露店などで販売されている遺跡からの出土品や品物は、販売をしていても基本的には海外への持ち出しは禁じられています。アジア地域では遺跡に関連する本物の仏像の仏頭やレリーフ彫刻等は、自宅や会社の装飾品として飾りたくなるものかもしれません。しかしながら、それらは本物である以上、遺跡が存在する地域にあるからこそ輝いていることを忘れてはなりません。一方で、その遺跡や芸術品を模したレプリカも多く観光地には見られます。そのレプリカを買うことで、地域の文化遺産が守られるなどの取り組みも最近はありますので真贋を確認してから購入することが良いでしょう。
また、その土地で特色のある岩石や動植物等を原料とする製品(木工彫刻や革製品)等の自然に関わるお土産品についても、その土地ならではとお土産物として自国へ持ち帰れば大変、話題になるのかもしれません。しかしながら観光客全員が同じことをしたら、いつかはその土地の特色であった岩肌は削られ、動植物は採り尽くされ、持ち去られて絶滅してしまうのは誰もが判ることです。また日本国内で流通が許されている象牙製品などは海外には持ち出すことはできない等の規制があることも忘れてはなりません。
3)その土地について深い知識を持っている地域のガイドを雇って案内してもらおう。
Jack解説: 私は日本でも海外でも必ず地域周辺に住んでいらっしゃる地域ガイドさんを雇うことを心がけています。ガイドさんとのお話を通じて、地域が観光とどのような関係なのか、お話を伺いながら観光を楽しむ際にどんな行動を観光客として取るべきかを考え、何を買うべきかを考えたりします。
地域のガイドさんが見つからない場合はタクシーの運転手さんや入場箇所の受付の方とお話をしますと大体、地域で作られているものなどが判ります。もちろんガイドブックを見ながら、自分で観光地を巡ることも旅の醍醐味ではありますが、地域に昔から続く和菓子屋さんや、地域の人々が大切にしている景色を眺めるには地域のプロにお話を伺うのが一番だと思います。また、個人事業主であるガイドさんを雇う上での料金ですが日本の賃金水準や毎日仕事がある訳ではないこと等を考えると、1日(8時間)で3万円以上、1時間で3千円以上/ガイドで、一般のサラリーマン並みの対価となることも忘れてはなりません。
4)多様性や格差是正につながるビジネス(公正な取引/フェアトレード等)を支援しよう
Jack解説: 多様性につながるビジネスとは具体的に何かと言えば、地域の女性や若者、障害者の方々が関わっている製品や商品や地域の先住民や少数民族の方々が関わっている製品や商品を販売するビジネスを指します。このメッセージが伝えたいことは何かといえば、社会は多様な人々で構成されているということを旅行者・訪問者の皆さんも理解をしていくことです。
日常社会を支えているメインストリームの労働者だけでなく、社会的脆弱者である人々にも光が当たるチャンスを観光する時だけでも、包摂的で、より良い社会にしていくために一般の人々が消費を通じて行動ができることなのだと思います。日本で言えばアイヌやうちなんちゅう文化に関連する工芸品や、道の駅で売っている地域の女性が作っている食材等をイメージするとわかりやすいと思います。
また格差是正については地元の都市部と地方部の物価差、先進国と開発途上国の物価差等を勘案して、地方部でも都会と同様の適切な対価を観光地で販売されている産品や食事・お土産品に対して支払うことを意識することや、その地域にしかない工芸品・産品であれば都心部よりも高い価格で値付けられて、消費サイクルが回っていくことで、実現ができるのだと思います。
5)ゆっくりと、人があまり訪れていないエリアを訪れよう。
Jack解説: 旅行者が観光地をゆっくりと訪れることで滞在時間が伸びます。滞在時間が伸びれば、観光地で食事を取ったり、宿泊をしたりと消費活動が発生します。また主要な観光施設の周辺には自然と人が集まりますが、宣伝されていない場所や人が少ない場所を訪れることで、観光の経済的効果を他の地域に分散していく効果も生まれます。
ただ人があまり訪れていないエリアについては、受け入れ体制・態勢(キャパシティ・ビルディング)が整っていないケースもあります。未開拓の観光地域を訪れる際には、過度な観光体験を期待せず日常の暮らしを、地域の人々の生活の流れに身を任せるくらいのつもりで訪問することが重要だと思います。具体的にはエコ・ツーリズムが進めてきた、地域の町や自然散策路を歩いて廻ることで、自ずと滞在時間・日数やリピーター度が増していくのだと思います。
次回は「4.安全に旅しよう」です。
出典:UNWTO世界倫理委員会制作より筆者作成
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