サステナビリティの根っこの意味
サステナビリティの「sustain」という部分には、「何かを下支えする」という意味があります。イメージとしては、土台となるものを下から支える、土台を盤石にする、といったものでしょうか。
少し、抽象的なイメージの話をします。
何かを持続させること、維持すること、守ることには、いろいろな方法やイメージがありそうです。先ほどの例とは逆に、力を持った者が「上から」全体を司るようなやり方もあることでしょう。あるいは、同じくらいのパワーバランスをもった力がぶつかり合い、均衡をとることによって一定の秩序が保たれているような状態。これもまた、ひとつの「持続」のあり方です。
では「持続可能な社会」の実現を目指そうとするときには、どのようなイメージが適していそうでしょうか。おそらく、最初に挙げた「下から」の方向性が大切になってくると思われます。持続可能な社会はまず、その社会が築かれる足場・土台がしっかりとしていなければなりません。言い方を変えれば、何かしらの「よき社会」が目指されようとする際には、それが自ら拠って立つ自身の足腰、いわば「社会の足腰」を鍛えることが重要となるのでしょう。
サステナブルな取り組み、それはいわば社会の足腰をつくるためのスクワットです。ひとつひとつの、一人一人の取り組みは些細なものかもしれませんが、それは筋力トレーニングと同じく継続と蓄積によって花を開かせるでしょう。
今回は、そのような「社会の土台をつくり、社会を下支えする」サステナブルな取り組みや、サステナブルな観光/旅について一考してみたいと思います。
減らす/保つサステナブル:ゼロマイナスへ
ところでサスタビは先日、ウェブサイトをリニューアルしました。同時に「サスタビの20か条」を公開しています。
サステナブルな旅人として自覚的たるべき、20の意識や取り組みがまとめられています。以下に並べてみましょう。
1 公共の移動手段を活用しよう(温室効果ガスの削減に繋がる)
2 旅先で、人気の場所以外の新しい見どころを発見しよう(人の分散)
3 事前に旅先の歴史・文化をしらべておこう(旅先の人達に敬意を払う)
4 徒歩・自転車で、ゆっくり旅先の土地を楽しもう(人との出会いや新しい発見が起こりやすい)
5 マイバックを持参しよう(プラスチックゴミ削減)
6 マイボトルやカトラリー(箸、ナイフ、フォーク、ストローなどのセット)を持参しよう(プラスチックゴミの削減)
7 アメニティ(洗面道具一式)も持っていこう(使い捨てアメニティゴミの削減)8 旅先で、自然体験型プログラムに参加してみよう
9 旅先で、交流型体験プログラムに参加してみよう
10 旅先の在来種を知ろう(その土地の動植物を守ることでその土地の生態系が保たれる)
11 旅先の地元食材を使ったレストランに行こう(地元の季節のものを選ぶことで、移動による温室効果ガスの削減ができる他、地元の経済活性化にも繋がる)
12 旅先で、地域の文化活動に参加して見よう
13 食べ物を無駄にせず食べ切ろう(食品ロスの削減のために、自分が食べられる量を頼み、食べきることを意識することもサステナブルに繋がる)
14 旅先でも、節電、節水に気を付けよう。(資源を無駄にしない)
15 旅先で暮らす方や自分自身の健康を守ろう。(旅先の地域の健康と安全を守る)
16 旅先の伝統工芸品を応援しよう(日本の文化の継承を応援することができる)
17 お土産は、地元で作られたものを購入しよう。(地域経済に貢献)
18 歴史館、博物館などに訪れよう(その土地の歴史を知る)
19 自然環境や地域社会に配慮したサステナブルな宿泊施設を選ぼう(サステナブル系の認証を受けている宿や、古民家の様な地域資源を活用した宿などに泊まる)
20 旅先で発見した、サステナブルな活動しているお店や、施設、商品・サービスを友達とシェアしよう
こうしてみると、サステナブルな取り組みとしてできることは幅広く、多岐に渡っていますね。
ただ大まかに分けると、炭素やゴミ等を減らしたりエネルギーの使用量を削減したりといった「減らすサステナブル」と、旅先で何かに参加する、何かを手伝ったり応援したりするといった、何かの削減や減少とは異なる目的性をもったサステナブルな取り組みという、2つの方向性がありうることが見えてきます。
サステナブルな旅の取り組みは、従来型の旅や観光のあり方に対する反省や批判から広がってきたといえます。観光客が大量に訪れ、環境負荷を高めたり、混雑を生じさせたり、社会文化的な摩擦・軋轢を数多く生じさせてきました。そうしたことへの反省から、「ゴミを捨てない」とか「自家用車で移動しない」とか、「大規模人数で訪問しない」といった点が意識されてきました。
この「~しない」型、あるいは「~を減らそう」型の取り組みは、サステナブルな取り組みにおいては一般的で、すでに馴染みある方も多い事でしょう。
観光や旅、移動は不可避に環境負荷を生じさせます。これを受け止めたうえで、その影響を可能な限り最小化しようとすること、自身の来訪前の地域の状態を維持したまま帰ること、ようするに、マイナスな影響をゼロに留めようとするためのさまざまな取り組みが考案・実践されています。
そのように、影響を可能な限り縮減しようとすることに意識が向けられたサステナビリティに名前を敢えて付けるとするならば、それは「減らすサステナブル」とか、「保つサステナブル」、あるいは「ゼロマイナス・サステナビリティ」などと呼べるでしょうか。従来から広く訴えられ、実践されてきているサステナビリティの特徴を強調するならば、そこには「減らすこと」や「ゼロマイナス」「現状維持」への意識が深く関わっていると言えるでしょう。
ポジティブ・サステナビリティ
サスタビが掲げようとするサステナビリティには、上述したような従来型のサステナビリティとはもう少し異なった特徴・意向が内在しています。
それは、ゼロマイナスや現状維持を目指すのではなく、より「生産的」「創造的」なサステナビリティを目指そうとするものです。敢えて名前を付けるならば「ポジティブ・サステナビリティ」と呼べるでしょうか(もちろん、従来型のサステナビリティが「ポジティブではない」とか「ネガティブだ」などと言うつもりはありません)。
これは、旅先で生じる自身のマイナスな影響(ゴミやエネルギー等)をゼロにしようとするだけではなく、自分がその場所を訪れることによって生じるポジティブな影響を最大化しようとする意識に支えられています。
たとえば、自分が訪れた地域で何か社会貢献につながる活動に参加してみることや、地域の文化体験に参加してみることなどが挙げられます(後者については、【後編】でとりあげます)。地域の人びとが観光にどう向き合っているのか、旅人に何を求めているのか、といったことを調べ、学ぶことも肝心です。
自分の「やりたい」と地域の「やってほしい」とがうまく結びつき、ともに手をとることで、観光/旅も楽しみながら地域の役にも立てる‥‥‥そのような旅のあり方は、“かっこいい”と思いませんか。
旅人も土台の下支えに加わるために
最初に、サステナビリティという言葉の意味について紹介しました。社会を「下支えする」こと、この役割はこれまで、旅人には与えられてこなかったものなのではないでしょうか。旅人は「ヨソ者」であり、一時的にしか滞在せず、好き勝手消費していくだけで帰って行ってしまうのですから。そうした行動は、社会の土台をむしろ揺るがしてきました。
そこで登場した「減らすサステナブル」あるいは「保つサステナブル」と表現できる従来型のサステナビリティは、社会の土台を尊重し、維持し、守ろうとします。自分が社会や土台に与える影響を可能な限りゼロに留めながら、楽しい旅をする。これが従来のサステナブルな旅と言えるでしょう。ただし、ここではまだ旅人は社会の土台を尊重しているだけであり(それだけで素晴らしいのですが)、それを「つくる」「下支えする」ような段階にはいません。
しかし、よりポジティブなサステナビリティを志向し、地域と協働作業を試みようとするサステナブルな旅人はもう一歩踏み込みます。地域が観光や旅人に求めているものを学び、自分も楽しみつつ、そこに貢献するような旅を目指し、歩みを進めていくことが、これからのサステナブルな旅のあり方である可能性があります。そしてサスタビは、そのようなサステナビリティを広げようとしています。
サステナブルな社会の実現は、そこを訪れる旅人もまたその環に加わることで、より近づくと考えられます。
次回の【後編】では、ここで挙げたポジティブ・サステナビリティの一例として、旅先で「体験」に参加することはなぜ大事なのかという点について、踏み込んで考えてみたいと思います。
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