ネイチャーポジティブを知ろう!2030年に向けてできること

自然環境のポジティブな回復にむけて

「ネイチャーポジティブ」という言葉をご存じでしょうか。

これは自然環境へのネガティブな影響が高まり続けている今日において、その流れを止めるだけではなく「回復」というポジティブな変化へと転じさせていこうとする考え方であり、その合言葉となっている言葉です。日本語では「自然再興」と翻訳されています

「ネイチャー(自然)」という単語が先頭にありますが、ネイチャーポジティブは自然の保護だけを目的としたものではなく、人間社会や経済の視点も組み込んで総体的に地球の自然環境や生物多様性の保全にむけて変革を目指していこうとする「社会目標」です。とくに生物多様性の減少を食い止め、回復傾向に持ち直していくことで自然環境のポジティブな変化を進めていくことが目指されています

Nature Positive Initiativeが公開している2030年目標の図(https://www.naturepositive.org/)

 

ネイチャーポジティブの展開

今日、地球の自然環境の問題はきわめて深刻に現れています。そのため、人間活動による気候変動や自然環境への負の影響、生物多様性の減少などの問題に対処し、地球の持続可能性やエコシステムを維持していく方法が国際的に模索されてきました。

2021年6月に英国で開催されたG7サミットでは、この問題が重要な議題として取りあげられ、「2030年までに生物多様性の損失をとめ、反転させること」を世界的に目指す必要があるという共通認識が提起されています。そこでは、G7として世界を牽引していく際の指針として次のような「4つの柱」が構想されました(環境省「ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて

  1. 移行:自然資源の持続可能かつ合法的な利用への移行を主導すること
  2. 投資:自然に投資し、ネイチャーポジティブな経済を促進すること
  3. 保全:野心的な世界目標等を通じたものを含め、自然を保護、保全、回復させること
  4. 説明責任:自然に対する説明責任及びコミットメントの実施を優先すること

そして2022年12月にカナダ・モントリオールでひらかれた「生物多様性条約第15回締結国会議(COP15)」において、2030年までの新たな世界目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択。そこで2050年までの目標(「2050年ビジョン:自然と共生する世界」)と「2030年ミッション」が定められ、「ネイチャーポジティブ」の考え方が明確に打ち出されました。なおネイチャーポジティブはそれよりも前から国際サミットなどで言及され、重要性について認識が共有されてきた概念でした。

さらに2030年までのそのミッションを実現させていくために、「生物多様性への脅威を減らすこと」「人びとのニーズを満たすこと」「ツールと解決策を構想していくこと」という3つに分かれる、23の具体的な方向性が提起されました。

環境省「令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、第2章第3節」(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r05/html/hj23010203.html)

 

この国際的な新しい枠組みを踏まえ、その後は各国の具体的な戦略策定が進みました。たとえば日本では2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されています。

生物多様性国家戦略2023-2030の構造(環境省 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r05/html/hj23010203.html)

 

この枠組みのなかで、「生態系の健全性の回復」「自然を活用した社会課題の解決」「ネイチャーポジティブ経済の実現」「生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動」「生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進」という5つの基本戦略が定められました。後述しますが、私たち一人ひとりに直接関わりそうなのは、4つ目の「生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動」ですね。

それら基本戦略のなかでもとくに主要な目標と位置づけられているのが、国内の陸地30%、海域30%を生物多様性保全領域として確保することを目指す「30by30目標」です。現在の日本では、陸地の約20.5%、海洋の約13.3%が国立公園などとして保護環境の下にあるとされ(環境省)、国家と地方公共団体の協働によって里地里山のような人の手によって維持されてきた自然環境を保護したり、生物多様性に配慮した企業活動に訴えかけていくことが必要だと認識されていますが、今後はさらにそこに民間や企業のコミットメントを増やしていく必要があると考えられています。具体的には、民間でなされている環境保護や生物多様性保護の取り組みを支援し、その地域を「自然共生サイト」として認定する仕組みを進め、すでに保護地域とされている国立公園等だけでなく、それ以外でも生物多様性の保全に資する地域(Other Effective area-based Conservation Measures)を増やしていくことが目指されています.

グローバル・レビューの充実化と、統合的な展開へ

生物多様性の減少に対する国際社会の対応は、いうまでもなくそれ以前から模索されてきたものです。たとえば、2020年までの生物多様性に関する国際目標としてよく知られているのは「愛知目標(Aichi Targets)」です。2010年10月の第10回生物多様性条約締結国会議にて定められたものであり、20の個別目標・指針が掲げられました。

しかし「愛知目標」では、それを踏まえた各国の具体的な国別目標や指針にバラつきを生んでしまい、国際的な足並みをそろえることは上手くいきませんでした。そこで今回の2030年新枠組では、世界で一丸となって目標を達成するための各国相互の点検・評価の枠組み(グローバル・レビュー)を充実させることに力点が置かれました。

また国内レベルでは、政府だけでなく、地方公共団体や多様な主体による相互的・協働的なプロセスの進行を目指す必要があることが確認されました。加えて冒頭でも述べたように、社会・経済・自然の3要素を統合的に考えてネイチャーポジティブを目指していくことが共通認識とされました。ネイチャーポジティブに取り組むうえで、気候変動対策や循環型の経済構造への移行といった関連する取り組みも並行させていく必要があるということですね。下記の図のように、「脱炭素型社会への移行(カーボンニュートラル)」「循環型経済への移行(サーキュラーエコノミー)」と同時に「自然再興(ネイチャーポジティブ)」を進めていく必要があるということですね。

環境省「第6次環境基本計画に向けた基本的事項に関する検討会 第2回資料:環境・経済・社会の状況と環境政策の展開の方向性について」(2023年、https://www.env.go.jp/council/02policy/yoshi_kihonteki.html)

ネイチャーポジティブを考える旅や観光に向けて

生物多様性の問題を社会や経済の問題とともに検討し、自然環境の「再興」をめざすネイチャーポジティブという考え方は、2030年にむけて重要性を増していくものでしょう。そして私たち一人ひとりにおいては、現在の地球において生物多様性の問題がどのような状況になっているのか、そしてその改善のために一人ひとりにできることがないかについて、知り、考えていくことが大切になります。

環境省「生物多様性に迫る危機」(https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/biodiv_crisis.html)

この図では、日本の野生動植物において決して無視できない割合で絶滅のリスクが生じていることが示されています。「開発や乱獲による種の減少や生育地の減少」、「人口減少等による里山・里地の管理不足が招く生態系バランスの変動(シカやイノシシ等、特定の動物の個体数の増加など)」、「外来種の持ち込みによる生態系の攪乱や、化学物質による環境汚染」、そして「地球全体の環境変化」などが、生物多様性の減少に大きく影響を与えています。とくに、南米アマゾン熱帯雨林や東南アジアの森林地域、マダガスカルやガラパゴス諸島、それから各地のサンゴ礁といった、多様な生物種が生息している「生物多様性ホットスポット」が開発などの人間活動や気候変動によって危機にさらされているとされます。

生物多様性の保全をめぐる、このような課題を私たち一人ひとりが認識していくことがまず必要ですね。ほかにも、環境に配慮した商品や企業製品を選んで購入すること、海洋プラスチック問題などの改善のためにマイバッグ・マイボトルを活用することなど、基本的な「小さなこと」を積み重ねていくことが大切です。

それに加えて、自然と触れ合う機会を作っていくことも大切だと思います。私達の生活と自然がどのように結びついているのか、現在どのような問題を抱えているのかといった点について、旅や観光の自然体験プログラムに参加してみるなどの方法をつうじて触れることができると思います。それから私たちが毎日行い、かつ旅や観光においても重要となる「食事」を通じても、動物や植物と私たちの関係に目を向けていくことができると思います。

こちらの過去記事もぜひご参考に。

 

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