すべての「食べる」人が対象の旅
皆さんは食べることが好きですか?
旅行に行ったら、ご当地グルメや地域の美味しいものに舌鼓を打つことが何よりも楽しみ、という方も沢山いらっしゃるのはず。
では、そうした料理や食材は、どこで、誰が、どんな風に作り、どんな想いが込められているのか、考えたことはありますか?
旅先に限らず、私たちは毎日ごはんを食べます。炊飯器の中のお米も、カフェで頼むサンドウィッチも、居酒屋の唐揚げも、〆のラーメンも、元を辿っていくと必ず、誰かが畑や農場あるいは海で育て、食べられる状態に加工して私たちに届けてくれています。
今回は、そんな食の生まれる“第1次産業”の現場へ足を運び、「食」が私たちの手元、そして口元に届くまでのプロセスを辿るツアー「食べるを辿る旅」の様子をレポートします!
食べるを辿る旅 in 渥美半島
旅の舞台となるのは愛知県・渥美半島。渥美半島がある田原市は、実は、北海道や長野を差し置いて、農業生産出荷額の全国1,2位を争う、国内有数の農業地域です。
春先まではキャベツやブロッコリー、大根の畑が広がり、初夏には名物のアサリ、夏はスイカやメロンが獲れ、全国へ向けて出荷されます。畜産も盛んで「田原ポーク」や「あつみ牛」などブランドのお肉も生産されています。
東京や大阪から約2.5時間の好アクセスながら、山あり、海ありで自然の恵みに溢れ、農業や漁業が盛んな地域だからこそ、食の原点を見つめるのにぴったり。
「食べるを辿る旅」は、単発での参加はもちろん、繰り返し参加することで「農業」「水産業」「畜産」の3つの食が生まれる現場と、「流通」という食を届ける現場の全てを順に訪れ、様々な視点から食について学ぶことができます。
今回は、第1回の「農業」をテーマにしたツアーの内容をご紹介します。
“Well-eating”(善き食)と向き合う1泊2日
第1回となる今回のツアーは、以前サスタビでもご紹介した「渥美どろんこ村」がフィールド。
オーガニックの米や野菜の生産と、平飼いで鶏や豚を育てる循環型農業を夫婦で営む小さな農園です。
はじめに向かったのは広いキャベツ畑。農薬や化学肥料を一切使わず、有機栽培で育てたキャベツはとても大きく、キラキラしていました!
しかしそんな美味しいキャベツも、売り先から「もう要らない」と言われれば、せっかく大事に作っても出荷されず、このまま畑で無駄になってしまいます。
売れないキャベツを収穫するにもコストがかかるため、そのまま廃棄になってしまいますが、どろんこ村では売り先のないキャベツは豚のごはんになります。
オーナーの小笠原さんが刈り取ったキャベツをぽんっと放り投げるのを、慌ててキャッチする参加者。畑の中を一列に並び、順々にキャベツリレー!
収穫したキャベツは、工場廃棄になるお菓子や、地元の魚屋さんで出るアラ等と一緒に大きな鍋で煮て、豚にあげます。
おいしそうにごはんを頬張る豚さんを見ていると「普段私たちが食べているお肉も、もとは生きている命なのだ」という当たり前の、しかし普段は意識していない事実を実感し、自分がいつも彼らの命=“食”とちゃんと向き合えているかと、考えさせられます。
命をいただく、命を返す
夕飯は少し前に出荷され、お肉になって戻ってきたばかりの豚のしゃぶしゃぶ。「いただきます」の挨拶に自然と気持ちがこもります。
お肉の他にも、自分たちで摘んだ野草や、どろんこ村で育てた野菜が食卓に並び、すべての食材が今いる場所で作られている自給率100%の食事!高級旅館の懐石料理とは違った豊かさを感じる食卓でした。
夕食の場には、どろんこ村の小笠原さんに加え、地元の農家さんにも来ていただき、一緒に地酒を飲みながら生産者のこだわりや想いを伺いました。
どろんこ村の渡部さんが仰っていた「命をいただくから、大事に食べましょうは当たり前。その先の、いのちの返し方をひとりひとりが考えることが大切ですよね。」という言葉が印象的。
作り手と食べ手の距離が広がってしまった現代だから、食のありがたさや本当の美味しさをつい見落としてしまっているような気がしました。
知っているようで知らない「お米」のこと
2日目は朝、畑で採れたばかりの野菜を使った朝食を食べながら、味覚とじっくり向き合うワークショップで1日がスタート。
その後は、半日かけて昼ごはんの主食である「ごはん」を炊くための準備をしました。というのも…
倉庫の梁に干されている稲藁の状態からスタートしたから…!一人一束の稲をもらい、これを食べられる状態に変えなければなりません。
はじめに行うのは、籾を一粒ずつ藁から外す作業。まずは手作業でトライするものの、なかなか作業が進みません。
そこから原始的な道具である「千歯こき」、さらには足ふみ脱穀機を貸してもらい、原始時代から弥生時代、江戸時代へ進化を体験。道具のすばらしさに感動します。
それでも時間がかかり、作業すること約1時間。最後は、エンジンで動くコンバインを使って、一気に仕上げます。文明の利器を実感するとともに、石油燃料を使い環境負荷と引き換えに便利さが生まれていることにも気づきます。
その後、もみ殻をはずして玄米の状態にする脱穀、そして玄米を磨いて白米に近づける精米を行い、いよいよ炊飯です。
お米を炊くのは、炊飯器でも土鍋でもなく、山から採ってきた竹。水分をたっぷり含んだ青竹を使った「竹飯盒」でごはんを炊きます。
気付けばお昼の12時を大きく過ぎていましたが、収穫されたお米がごはんになる過程をすべて、手間暇かけて調理したごはんは格別。インスタントの真逆をいく、効率の悪い、けれど実際に体験しなければ気づけないことをたくさん得られた半日でした。
「食べる」ことは1日3回の投票権になる
「食べるを辿る旅」のツアーを通じて、自分が普段いかにいい加減に食事を取っていたかや、食べているものの背景を知らないでいたかを感じることがたくさんありました。また、知識で知って終わるのではなく、実際に1次産業の現場や生産者の方を前にして学ぶことは、その場へ足を運んだからこそ得られる知恵になりました。
実際にはここには書ききれないほどの作業や体験があったのですが、それはぜひ実際に参加してみてください!
第2回は水産業がテーマで、日本初のサステナブルな循環型のサーモン養殖をしているプラントや、魚市場のセリ見学などが予定されているそうです。
1日3回ある食事の時に、どんな食を選ぶのかは、私たちひとりひとりの意思表示でありアクションです。まずは次に食べる食事から、その背景に目を向け、サステナブルな食を選択してみては。そこからあなたの「食べるを辿る旅」が始まるかもしれません!
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