いまさら聞けない?おさえておきたいキーワード10選【前編】#スマートツーリズム解説

スマートツーリズムの盛り上がり

ビッグデータやAI、そしてスマートフォンやアプリを活用した観光である「スマートツーリズム」は、私たちの観光旅行をさらに快適にしてくれると同時に、オーバーツーリズムの防止やサステナビリティ向上にも有意義なものとして、近年とても注目が集まっています。

前回の記事では、スマートツーリズムの「スマート」という言葉が意味するものについて解説をし、スマートツーリズムが単なる「最新技術を活用した観光」ではないということをみてきました。ぜひ前回の記事から続けてご覧ください。

カタカナ/英語のキーワードが多い?

スマートツーリズムを理解するためには、近年のデジタル技術や情報通信技術の革新と関わるたくさんのキーワードや専門用語について知る必要があります。ですがそれらのキーワードの多くは「IoT」や「FRID」「観光DX」といった略語・アルファベットで表記されたり、「マイクロモビリティ」などカタカナでそれ自体に複雑な意味合いがある用語がたくさん出てきたりして、そうした文字列を見たとたんに「う……」と感じてしまう人も多いかもしれません。

スマートツーリズムは、一側面では、いわゆる「Z世代」や「ミレニアム世代」と呼ばれる若年層の人びとがこれからの時代の旅人になっていくことを念頭に置いているところがあります。生まれたときからデジタル技術やインターネットに触れて育ってきた人びとのことを「デジタルネイティブ」と呼ぶことがありますが、これからの観光まちづくりや観光のマーケティングはそうしたデジタルネイティブたちに対応していく必要があると考えられています。

しかしスマートツーリズムは、「若者」のためにのみ存在するものではありません。情報通信技術やデジタル技術の活用によって、地方農山村の人びとの移動や生活を便利・快適にすることや、少子高齢社会における諸問題の解決を目指していこうとする取り組みもまた進んでいます。自動運転車の開発はその最たる例かもしれません。

そして持続可能な社会の実現においてもスマートツーリズムは大きな役割を果たすことが期待されています。省エネルギーでありながら快適な観光移動をすること、地域やコミュニティに対する負荷を可能な限り縮減する観光のあり方を実現すること、観光産業が必要とする資源や食品、物品の物流を効率化することなどの多くの事柄において、デジタル技術や情報通信技術の活用が鍵となっています。

そのため、「スマートツーリズムは若い人のもの」と考えたり、「自分にはよくわからない」とあきらめてしまったりすることは早計かもしれません。まずはスマートツーリズムに関連するキーワードを知るところからはじめてみるとよいでしょう。

スマートツーリズムのキーワード10選【前編】

ICT

ICTとはInformation and Communication Technologyの略称。「情報通信技術」という意味です。

情報を送信・受信し、連絡やコミュニケーションをとるための技術や方法全般を含む広い意味の言葉で、メールやSNSなどのコミュニケーションツールやWi-Fi、ソフトウェアやアプリなど、インターネットを介したもののほとんどが情報通信技術に属するものと言ってよいでしょう。

IoT

ICTとよく似ている言葉、IoT。これはInternet of Thingsの略称で、日本語でいえば「モノのインターネット」を意味する言葉です。

先ほどみたように、インターネットを介して情報の交換やコミュニケーションをとるための手段や技術をICT(情報通信技術)と呼びますが、これまでのICTはパソコンや携帯電話やスマートフォン同士のやりとりが主だったといえます。しかし近年では、財布やカバンに入れておけば位置情報をスマホに送信してくれたり音を鳴らしたりしてくれる小型の「盗難防止タグ」や、自宅などで声だけで部屋の電気を消灯・点灯したり家具を操作したりできる「スマートリモコン」「スマートデバイス」(SwitchBotやAlexaなど)が流通し、気軽に使えるようになってきています。

従来であればスマホやパソコンなどの電子機器だけが存在していたインターネットや電波のネットワークに、リモコンやカバン、トイレや湿度計などのいわゆる「モノ自体」も組み込まれつつあるということを意味します。利用状況が可視化されるスマートトイレや、到着時刻や混雑状況がスマホでリアルタイムに確認できるスマートバスなど、これまでICTのネットワークの外にあったモノや道具、建物などもまたインターネットにつながっています。スマート○○と名の付くモノや商品もどんどん登場してきていますね。

5G

5Gとは、「第5世代移動通信システム」のことであり、インターネット通信速度の「超高速化」、タイムラグの無いリアルタイムな情報通信を可能にする通信の「超低遅延化」、そして、スマホや監視カメラやセンサーや電子機器などの多数のデバイスを一度にネットワークに同期する「同時接続化」という3つの特徴をもったものです。

「スマート」という言葉の意味として前回の記事で挙げた「リアルタイム化」、そして複数の機器を同期させる「ネットワーク化」がここでも登場しましたね。このように、スマート化やIoTの実現にとって5Gは必要不可欠な要素となっています。5Gの通信システムが導入されることで、モノをインターネットにつなげることや、自動運転や電子機器の遠隔での操作、それからVR(ヴァーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)技術を観光サービスに組み込むことが可能になります。

観光DX

こうして様々なインターネット技術やデジタル技術が発展していくなかで、観光産業もまたそれらを活用していく方向性をとってきました。旅行・観光ではインターネットやデジタル技術が大活躍しています。おそらく最も中心的な役割を果たしてきたのは、宿や移動手段の「予約管理」システムかもしれません。インターネットを介して宿側も情報発信をし、旅行者側も自ら情報検索をして直接ウェブサイトで宿泊施設や移動手段を予約するといったことは今では当たり前になりつつあります(実店舗を持たず、インターネットのみで旅行商品を販売する旅行会社のことをOTA:オンライントラベルエージェンシーと呼びます。Expediaや楽天トラベルなどですね)

さらに近年では、観光地やそこでの移動手段の混雑状況事前に確認したり、そのうえでオンライン上で最適な旅程を組み立てたりすることがスマホ1つで可能となっています。また、「○○(目的地)、観光」などと検索すれば、容易に人気観光スポットを発見したり、他の観光者がどこを訪れているのかを知ったりすることが可能ですね。これらはビッグデータの収集・分析によって可能となっています。

観光分野においてこうしたデジタル技術やインターネットが展開し、観光それ自体のあり方も変容していく動きのことを、観光DX(観光デジタルトランスフォーメーション)と呼ぶことがあります。とくに観光庁は、旅行者の利便性向上や観光産業における生産性向上、ならびに地域間・観光事業者間の連携をつうじた地域活性化や持続可能な経済社会の実現を目指すためのデジタル技術の活用を図っていくために、「観光DX推進事業」に取り組んでいます(観光庁「観光DXの推進」

API化

APIとは、Application Programming Interfaceの略称で、あるアプリやシステムを利用する際中に別のアプリやシステムを同時並行的に使うための仕組みを指すものです。この例でもっともイメージしやすい例はGoogle mapsだと思われます。

飲食店やホテルや観光スポットを検索するために、ランキングサイトや観光地紹介サイト、それからたとえば「Hotels.com」などの予約アプリを閲覧していると、多くの場合にそのウェブサイトやアプリ上でGoogle mapsの地図を見ることができます。このようなことは、Googleが、Google以外の企業やアプリでもその機能を使用できるようにGoogle mapsのインターフェースを公開(販売)することで可能となっています。

このように、自社のサービスや機能を他の企業や個人に使用してもらうための「窓口」を自社アプリやソフトウェアに設けることを、API化と呼びます。これによって、API化する企業側は自社サービスをより多くの企業や個人に利用してもらうことで収益を得たり自社サービスの認知度を広げたりすることが可能になります。またAPIの提供を受ける側としては、自社でサービスや技術を開発する代わりに既存のサービスを利用することで容易に事業を展開できるなどのメリットがあります。

現在、観光地では、GPSを用いた位置情報提供アプリをGoogle mapsとAPIで接続することで、バスの現在地情報や到着所要時間などの情報を旅行者や観光者に提供することが広まっています。

APIの活用事例はほかにもあります。たとえばオランダのゴッホ美術館では、美術館が開発した独自のチケット販売システムをAPI化してOTA(オンライントラベルエージェンシー)に提供することで、入館者の人数や来場時間の把握・コントロールを可能にしたという事例があります(経産省「スマートリゾートハンドブック」)。

美術館や博物館の場合、日本ではまだそれらの施設のウェブサイトで直接予約をすることが一般的です。しかしたとえば旅館を予約しようとするとき、旅館のウェブサイトでの直接予約とネット予約サイトでの予約という、2種類の予約方法が存在することに気が付きます。このとき、【旅館サイト側ではチェックイン時間を指定できるのにOTA予約サイト側ではそれができない】といったふうに、予約サイトによって入力情報や予約内容が異なってしまうケースが多々あります。旅館側にとっては、自社ウェブサイトで予約をしてくれたら詳細なチェックイン時間が把握できて便利なのに、OTAの予約サイトではそれが把握できなくて不便、といった事態が起きることになります。さきほどのゴッホ美術館の事例は、そのギャップを解消するために自社サイトの予約システムをAPI化してOTAに提供し、どのサイトからでもゴッホ美術館の予約システムで予約ができるようにした(=それによって来館時間の把握・混雑回避など美術館側が求める情報を管理できるようにした)というものだったということですね。APIの活用はこうした事例に役立ちます。

【後編】では、以下の5つについて解説していきます!

  • マイクロモビリティ
  • スマートパーキング
  • デジタルサイネージ
  • チャットボット
  • シティカード

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    • はる

    よく耳にするけれど実はよく知らないキーワードでした。ふむふむ。
    【後編】も楽しみにしています。特にデジタルサイネージに興味があります。

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