スマートツーリズムの特徴―「スマート」ってなに?#スマートツーリズム解説

盛り上がりを見せるスマートツーリズム

インターネットとデジタル技術の飛躍的な展開によって、旅行のあり方は大きく変容しつつあります。

スマートフォンや便利なアプリが普及し、またビッグデータやAIを活用した大規模かつリアルタイムの情報整理が可能となってきました。

それらの技術は、たとえばオーバーツーリズムの予防(観光地の混雑状況をリアルタイムに観測・発信することで分散をうながす)や、移動の省エネ化(複数の移動手段のなかから最適な組み合わせを提案してくれるアプリなど)などにも活かされており、サステナブルな旅にも大きく関わるものとなっています。

こうしたテクノロジーを活用した観光形態をさす「スマートツーリズム」について、数回の記事にわけて解説をしていきたいと思います。

スマートツーリズムはどう新しい?

ところでみなさんは、「スマート化ってなに?」と聞かれてすぐに答えられるでしょうか。スマートツーリズムは2010年代ごろから注目が集まり、2020年代のいま大きく盛り上がっているものですが、たとえば地図アプリのGoogle mapsは2005年からリリースされています。Google mapsアプリを使った従来の観光と、こんにち注目されているスマートツーリズムはどう違うのでしょうか?

スマートツーリズムがいままでの観光と比べてどこが「新しい」のかを理解するためには、まず「スマート化とはそもそもどういう意味なのか」を考える必要があります。今回の記事ではその角度からスマートツーリズムの特徴に迫ってみましょう。

スマートとは?

まず「スマート」という言葉をみてみましょう。「スマート化」「スマート○○」といった言葉が広がっていますが、そもそも「スマート」とはどういう意味なのでしょうか。

この言葉は、様々なセンサーやビッグデータ、情報通信手段と結びついた技術的・経済的・社会的な発展を表すために用いられる「新しい流行語」となっていますが(Gretzelら 2015)、ただ単に技術が「新しい」からスマートであるわけではありません

重要な特徴は、それが①リアルタイムであること②個々のテクノロジーが結びついていること、の2つです。

まず、リアルタイムであること。スマート○○と呼ばれる技術は、過去の統計データや資料を分析するのではなく、現在進行形=リアルタイムの現実世界のデータを分析するところに大きな特徴があります(Harrisonほか 2010)。現在の状況を数値化・視覚化することで、「いま何が起きているのか」を誰もが理解できるようにしたり、その現在のデータを分析・共有したりすることを可能にしています。

つぎに、複数の技術が結びついていること。スマート化は、ひとつのアプリケーションやデバイスによって可能となるものではなく、複数のデバイスやテクノロジーが結びつくことによってはじめて力が発揮されるものとなっています。M. HöjerとJ. Wangelという研究者が強調するように、スマート化とは技術の進歩ではなく技術の相互接続を説明する言葉なのだという点が重要です(Höjer and Wangel 2015)。

混雑状況を観測するカメラ、そのカメラに映る人の数をカウントするためのコンピュータ、そしてそのカウントデータをグラフに変換するためのソフトウェア、そのグラフ情報をホームページや個人のスマートフォンに送信するための通信インフラ、そして、その情報をスマホ上で表示するアプリケーション。これらの一連の情報の変換と送信を可能にするためのネットワークが整備されることが「スマートになる」ということなのです。

異なる技術同士がネットワークをつくること、同期すること、相互接続すること。そして、そのうえで情報がリアルタイムに運用されること。それが、スマート化の本質的な意味にほかなりません

観光はいつもテクノロジーとともにあった

いま述べてきた「スマート」の意味を理解しなければ、スマートツーリズムの意味を適切に理解することはできません。スマートツーリズムはたんに「最新技術を使った観光」であるとか、「AIやビッグデータが活用されている観光形態」ということを直接意味するわけでは、必ずしもないのです。それらはもちろんスマートツーリズムの「特徴のひとつ」にはなりますが、本質ではありません。

スマートツーリズム=「テクノロジーと結びついた観光」ではないことは、たとえば観光がいつの時代もつねに「テクノロジー」とともに存在したことからも理解できます。

地形や方角を知らせる紙の地図も、高速で長距離を移動可能にする鉄道も、歩きやすくするための舗装道路も、ある意味で「テクノロジー」にほかなりませんでした。より現代に迫ってみても、携帯電話で旅の事前に宿の予約をするとか、紙の地図ではなくGoogle mapsで地図を見るとか、カーナビをつかって移動するなどの「テクノロジーと結びついた観光」はずっと存在してきました。

「スマート」が「新しい」のは、地図アプリやカーナビやタッチ決済といった個別の技術たちをネットワーク化したことであり、テクノロジーの複合的なネットワークを駆使した観光形態こそが、スマートツーリズムなのです。

スマートツーリズムの定義

「スマート」という用語はしかしながら、多くの業界・分野でバラバラな意味で用いられていたり、意味が曖昧になっていたりすることがあります。そしてスマートツーリズムもまた、明確な定義づけがないことが課題となっているようですが(Gretzek ほか 2015)、現存の定義をいくつか紹介したいと思います。

スマートツーリズムとは、①物理的なインフラストラクチャーや社会的なつながり、政府や組織、ならびに人間の身体や心理に関するさまざまなデータを収集・集約・活用するために観光地でなされる総合的な取り組みと、②効率性・持続可能性・充実した(観光)体験に明確に焦点化するかたちで、それらのデータを(観光地での)体験やビジネス価値の提案へと変換していくための先端的技術の活用によって下支えされている観光形態のこと(Gretzek ほか 2015:181)

スマートツーリズムは情報のリアルタイム化、個別化、ビッグデータをはじめとするデータの収集・活用、機械学習・AIの活用という性格を有する(澁谷 2022:61)

また、旅行形態が団体ツアーから個人旅行へと変化していることも念頭に置くべきでしょう。機械学習技術やスマートフォンアプリなどの情報通信技術は、ビッグデータの解析によってリアルタイムかつパーソナライズされた観光情報の提供にも役立っており、そうした側面をスマートツーリズムの特徴とみることも可能です(笠原 2019)。

次回の記事では、こうしたスマートツーリズムに深く関わるいくつかのキーワードについて解説をしたいと思います。IoT、ICT、スマートシティ、観光DX、マイクロモビリティなど、スマートツーリズムにはたくさんの専門的な用語が関わっています。これらのキーワードは今後もしかすると「いまさら聞けない」基礎知識となっていくかもしれませんし、実際に旅行でスマートツーリズムをしてみたいと思った時の情報収集に役立つはずです。

参考文献

  • Gretzek, U., M. sigala, Z. Xiang and C. Koo (2015). Smart tourism: foundations and developments, Electron Markets, 25:179-188.
  • Harrison, C., B. Eckman, R. Hamilton, P. Hartswick, J. Kalagnanam, J.Paraszczak and P. Williams (2010). Foundations for smarter cities. IBM Journal of Research and Development, 54(4), 1–16.
  • Höjer, M., & J. Wangel (2015). Smart Sustainable Cities: Definition and Challenges. In L. M. Hilty & B. Aebischer (Eds.), ICT Innovations for Sustainability, Advances in Intelligent Systems and Computing, pp.333–349.
  • 笠原秀一(2019)「地域におけるスマートツーリズム開発――観光情報サービス、データ連携、サービスポートフォリオ」『システム/制御/情報』63(1):2-7。
  • 澁谷和樹(2022)「スマートツーリズムにおける観光者の選択に関する考察」『立教大学観光学部紀要』(24):60-72

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