結果の出ないことに向きあう:スローなサステナビリティのアイデア

すぐに結果が出ないことへの不安と虚無感

エコバッグを使う。旅先のホテルや施設では節水や節電を心がける。タクシーをガマンして公共交通機関での移動を検討する。そうしたひとつひとつの、そして一人ひとりの「小さな心がけ」の積み重ねが、サステナブルな旅と社会を広げていくためには必要です。

しかし、みなさん一度は次のようなことを思ったことはないでしょうか。

「これって本当に意味あるのだろうか」「この我慢は、本当に地球に役立っているんだろうか?」

この記事を書いている私も、旅先や日常生活ではできるかぎりのサステナブルな行動ができるよう意識しています。しかし正直な胸の内をここで打ち明けるならば、サステナブルな行動を行っているとき、しばしば私の胸には上に書いたような一抹の「不安」がよぎります。

それは、自分の行動の結果がすぐに出ないことへの不安だと自己分析しています。一歩踏み出したのに、それまで見えていた世界の景色に何ら変化がないことへの不安。自身の行動と世界の状態との直接的な結びつきへの信頼がふと揺らいでしまうような、数分後には忘れてしまうと直感しているにもかかわらず瞬間的に深く胸に刻み込まれてしまうような、不安です。

他業界に比べて後れを取っていることが指摘され続けてきた旅行産業ですら、いまやサステナビリティに配慮した企業実践や商品開発は「当たり前」の事柄となって久しく、そして小学生ですらSDGsを学校で学ぶことが珍しくない今日的な状況においても、サステナブルな行動や実践に対して半信半疑な気持ちを抱いている方は少なくないのではないか。サステナブルな行動の大切さを否定するわけではないが、その意味や、自らの生との実存的な関係性を見いだせずにいる人は一定数いるのではないか。もしそうだとすれば、先ほど示したような実直な「不安」に向き合うことが必要なのではないか?この記事は、そのような筆者の直感から記述されようとしています。

サステナブルな行動をするときに一種の不安や虚無感を覚えたことがある人はぜひ、最後まで読んでいただけたらと思います。

スロー・バイオレンスをヒントに考える

サステナブルな行動を実際に実践しようとするときに胸をよぎる「不安」や、「こんなことして何になるのだろうか」という一種の「虚無感」。サステナビリティの重要性が社会的に広く認識されてきているとしても、そのような不安や虚無感が存在する限りは、一定以上の歩みに繋がらない可能性があります。

この問題について、一見するとまったく無関係に見える話題からヒントを探ってみたいと思います。それは「暴力」をめぐる問題です。

暴力の時代

20世紀以降、社会は近代化の歩みを進めてきました。科学技術や社会の「豊かさ」は前進し、「自由」「平等」など、社会的・理性的に人びとが「生」を歩んでいく際の指針となる普遍的理念が国際的に構築されてきた時代です。

しかしながらこの時代は、特筆すべき「暴力」の時代でもあったはずです。2度の世界的な戦争。そこで多くの命を奪った重火器や兵器の飛躍的進化。人種や差別、信仰などの理由にもとづく大量虐殺。きわめて「理性的」そして効率的に人が殺められてきた(あるいは、殺められはじめた)「暴力」の時代ともいえます。

構造的な暴力

「暴力」というと、殴る蹴る、そして血が出るといった、直接的で身体的な暴力行為が連想されると思います。しかしながら暴力には、そうした「直接的」な暴力のみならず、より構造的に、静かに、しかし確実に他者を抑圧していく類のものも存在します。それは「構造的暴力」です(1969)。

この概念を提示し、平和学の展開に大きく寄与したヨハン・ガルトゥングの議論に深く踏み込むことはしませんが、暴力は明確な主体(暴力をふるう加害者)と明確な客体(暴力を振るわれ、身体的・精神的に直接的な結果を可視化させる被害者)との関係だけではないという点が、ここでのひとつのポイントです。様々な人びとや制度や関係性の組み合わせによって結果的にそして間接的に誰かが抑圧されてしまうという状況もまた、暴力の一つの形式です。

スローな暴力

そしてこの構造的な暴力の最たるものとして、今日の地球環境の問題や気候変動の課題が議論されています。環境学者のロブ・ニクソンは、「緩慢な暴力」(スロー・バイオレンス)というキーワードを提示し、人間活動や国際的な政治活動(とくに「南北問題」をはじめとする西洋/非西洋の不均衡な国家的力関係を土台とした)によって生じた環境破壊を「暴力」の問題として議論したのです(Nixon 2011)。

それは殴る蹴る(そして血が出る)といった即時的で直接的な暴力ではありません。身近な例で説明すれば、「面倒だからとカップラーメンのスープをシンクについつい流してしまう」とか、「旅先だからと気が緩んでついついホテルの水道を無駄遣いしてしまう」といった、「その行為によってすぐに環境や他者へのダメージや悪影響があらわれるわけではないが、しかし確実にダメージを蓄積させる類の暴力」のことです。

今日の地球規模の環境問題はまさに、企業や国家、そして私たち一人ひとりの行為の蓄積としてあらわれているものです(もちろん、「サステナビリティ」を強調する際にしばしば「地球上全ての人を等しく責任主体に位置づけてしまう」ことは問題です。たとえば国家間のエネルギー消費量やCO2排出量の差異といった、既存の不平等を無視してしまうからであり、その皴寄せが、先進諸国と比較してエネルギーを消費していない非先進諸国に傾倒している点を見逃してしまうからです)。すぐに結果は出ないがしかし長期的にダメージを蓄積させる、一人ひとりの「ついつい」が、塵も積もれば山となって私たちに跳ね返ってきている状況です。

すぐに結果のでる「サステナブルな行動」はない

サステナビリティを危うくさせる問題が私たちの「スローな暴力」に由来しているとすれば、それに対する対処法もまた一種の「スロー」を必要とする可能性があります。「これをすればすぐに解決する」といった即時的=ファストな解決策やサステナブルな行動は、なかなか思いつきません。しかし、スローな暴力がじわじわと甚大なダメージを地球に与えてきたのならば、その反対に、じわじわと甚大な良い影響を地球に与えていくような「スローなサステナブルな行動」もまた可能性としてありうるはずです。

そして、「何の意味があるのかわからない」と思ってしまうような微々たるサステナブルな行動・実践は、まさに「スローな」影響をじわじわと生み出していくために必要不可欠なものであるはずです。エコバッグを一度使ったからといって、世界は変わりません。しかしそれは、未来の何かを変えるために確実に積み上げられていく必要のある「塵」の一つにほかならないのです。スローな暴力もスローなサステナビリティもともにすぐに結果は出ませんが、しかし確実にいつか結果に直面するのであり、ゆえに暴力ではなくサステナブルな事柄を積み上げていかなければならないでしょう。

「これって何の意味があるのだろう」「こんなことして何になるのだろう」。そうした不安や虚無感は、私たちに知覚可能なごく身近な未来に対する不安です。しかしサステナブルな社会を目指していくために必要なものは、その先の、今は知覚することができず想像力も届かないような領域を「予感」するようなある種の希望や楽観なのかもしれません。貯金箱に1円を貯めるような気持ちといえるでしょうか。いつか「こんなに貯まってた!」という喜びに満ちた驚きを味わいたいものです。

参考文献

  • Galtung, J. (1969).“Violence, Peace, and Peace Research”, Journal of Peace Research, 6(3), 1969, pp.167-191(邦訳は(1991)「暴力、平和、平和研究」『構造的暴力と平和』高柳先男他訳、中央大学出版部、pp.1-66.)
  • Nixon、R.(2011).Slow Violence and the Environmentalism of the Poor. Harvard University Press

 

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