サスタビでは、ずっと考え続けているもののなかなか答えが出ない問があります。それが、「サステナブルな旅って何だろう」です。「○○をすればサステナブルだと言えるだろう」と具体例は出せるものの、もっと根源的なコンセプトを言語化することができておらず模索中です。
そんな中でも「旅を通じて出会った人や文化から、多様性を学ぶこと」は、サステナブルな旅にとって必要不可欠ではないかと考えています。現在は社会的にもダイバーシティとインクルージョンが重要視されていることもあり、旅にもこういった要素を取り入れることが大切になるのではないでしょうか。
サスタビでは、「旅は人を育て社会を創る」と信じています。多様性を学び「自分と違うこと」を受け入れられるようになることで、自分と違う考えや感覚、文化を持つ他者に攻撃的な姿勢をとらず、相手の考えや感情に寄り添うことができるはずです。ひいては、それが平和な社会につながると考えています。
そんな中、私は夫と世界一周の旅に出ました。そこで、旅先で日本との違いを見つけ、多様性を理解するために考えたことをレポートしていきます。
今回訪れたのは、中国です。
日本と中国の違いは「リスクへの考え方」
中国でもっとも強く感じた日本との違いは、「リスクの捉え方」です。日本では、「万が一のことがないようにしよう」「念のため備えておこう」という考えを持つ人が多く、たくさんの仕組みや制度が「リスクを抑える」方向にむいていると感じます。しかし、それゆえに無駄が発生したり、「本当にここまでやる必要はあるのかな?」と疑問に思ったりしたことも、みなさん一度や二度はあるのではないでしょうか。
一方で中国は、「ちょっと危ないかもしれないけど、こっちの方が大きな・多くの人の利を得られる」ということが優先されると感じました。ということで、このような考えに至った経緯を、
・デジタル化でITが苦手な層を置き去りにするリスク
・高速エスカレーターで転ぶリスク
・動物園内のシャトルバスで怪我人を出すリスク
という3つの具体例と共にご紹介します。
「デジタル化についてこなけりゃ、洗濯だってお断り」
日本で暮らしていると、「2024年の今、どうしてこんなアナログなことを!?」と辟易する瞬間が多々あります。「なぜ手書きの書類でしか提出できないの!?」「現金でしか払えない!?」「FAXで送ってくださいって、本気で言ってます!?!?」などなど。もう若者とは言えない平成初期生まれの私ですら、デジタル後進国ぶりに驚くことが多いです。
デジタル化が進まない理由は多くありますが、「デジタル化についていけない人が置いてけぼりになるという、リスクを避ける」という考えもあるのではないでしょうか。例えば、世の中すべてのレストランがオンライン予約のみ受付になったら、スマホやタブレットを使えない方は二度と予約が取れません。そういう層を置いて行かない、優しさ溢れた姿勢です。
一方で、オンライン予約システムを導入すれば、「お店の営業中は仕事で忙しくて電話をかける暇がない、夜ならかけられるが営業が終了している」「そもそも電話が苦手だからオンラインで予約したい」などなど、新しい層を取り込み売上が伸びる可能性があります。
事実、私は飲み会の幹事というポジションになることが多いのですが、いくつかのお店を比較して、そのまま食べログなどのプラットフォームやSNSから予約を取ります。その際「予約は電話のみ」との表示があれば、すぐに別の店を選びます。
また、電話での予約の場合、聞き間違えが起きたり、予約表に書き込むのを忘れてダブルブッキングしてしまったりといったヒューマンエラーが起きます。予約システムを導入していれば、こういった人的なうっかりミスは起きません。それ以外にも、デジタル化がもたらすメリットは誰もがたくさん思いつくことでしょう。
一方で、オンライン予約のみにした場合、ネットが使えない方は置き去りにされます。これによりクレームが起きるかもしれませんし、「スマホなんか使えないのに、あの店は年寄りを差別している」なんて言われてしまう可能性もあるでしょう。
「そういったリスクを回避するために、デジタル化がもたらす恩恵すべてを捨てる。だって、万が一のことがあると困るし」。これが、お店や行政がいまだにアナログな手法を選んでいる理由の一つではないかと感じます。
そんなデジタル後進国から飛び出し訪れた中国は、日本とはまったく異なる様相を呈していました。中国には1か月ほど滞在しましたが、ただの一度も現金を使っていません。すべての支払いは、アリペイというQRコード決済アプリで行いました。
観光客だけでなく地元の方もほとんど現金を使わないので、中国元は一度も目にしていません。若者だけではなく、牛歩のごときスピードでしか歩けないおばあちゃんも、スマホで決済をしていました。北京ではなく成都や昆明といった地域ですら、デジタル決済が徹底的に浸透していたのです。
もっとも驚いたのは、ゲストハウスに置かれた共用の洗濯機もQR決済しか対応していなかったことです。「中国はデジタル社会と聞いてはいたけど、ここまでか……」と、汚れた衣服を両手に思わず考え込んでしまいました。
潔いほどに、「デジタルに対応していない人がいたらどうするの?」というリスクは一切無視。もしかしたら、現金システムから切り替わるころはそれなりに問題もあったかもしれません。その代わり、今となってはすべてのお店がデジタル化による恩恵を受けています。観光客としても、慣れない紙幣を一枚ずつ数えたり、お釣りをちょろまかされたりすることはありません。
どちらが良い・悪いということではなく、リスクに対する考え方が違うんだな……と感じました。
君は安全に移動できるか?高速エスカレーター
私は日本を出る前は浅草に住んでおり、駅直結の百貨店・松屋をたまに利用していました。おいしいお野菜が買えたり、エリアの中では大きな書店があったりとお気に入りでしたが、一つだけどうしても耐えがたいことがありました。
エスカレーターの速度が、信じられないくらい遅いのです。近くにお住まいの方は、ぜひ一度見に行ってほしいほど。わけを聞いたことはありませんが、おそらくメインの顧客が高齢者であることが理由ではないかと考えます。ゆっくりであればあるほど、健脚ではない方がうっかり怪我をするリスクは抑えられるでしょう。
一方で、足腰に何の問題もないすべての顧客もこのスピードに付き合わなくてはなりません。百貨店あるあるですが、エレベーターも来るまでに時間がかかるので、いずれにせよフロアの移動をスピーディに行うことは不可能です。
それに比べ中国のエスカレーターは、びゅんびゅん進みます。このスピードに慣れないのに歩きスマホなんてしようものなら、真っ逆さまに落ちかねないほどに。もちろん場所によってスピードは変わりますが、いずれにせよ「速いな」と感じることが多くありました。
一部の方が怪我をするかもしれないというリスクよりも、多くの人が効率的に素早く移動するメリットを選んだ結果が、あの高速エスカレーターなのでしょう。
轢かれれば大怪我必至の爆速シャトルバス
動物園や遊園地などに行くと、園内をシャトルバスが走っていることがよくあります。広い敷地を楽に移動できるため、子連れの方も安心です。このシャトルバス、あくまで「人のたくさんいる園内を走る」ことを考慮したスピードで走っていますよね。
しかし、中国で動物園を訪れたときのこと。園内シャトルバスが、日本では考えられないスピードで発進したのです。日本のシャトルバスを想定していた私は、思わずとっさに手すりをつかんだほど。公道を走る車とほとんど変わらないスピードと、「発車します、手すりにおつかまりください」といったアナウンスが一切ないことに、「外国だ……」とつぶやきました。
もちろん、園内にはたくさんの人がいました。小さい子どもが親の手を離れ、一人で歩いる光景も目にしました。いつどこで人が飛び出てくるかわかったものではありませんが、お構いなしにすいすい進みあっという間に停留所に到着。
誰かが怪我をするかもしれないリスクを無視しているわけですが、スピードが速い分、どんどん園内を循環します。このシャトルバスは有料のため、さっさと人を運んだ方が売上が伸びることは間違いありません。来場者としても、早く次の目的地に着いた方がより長く動物を楽しめます。こういったメリットを享受するため、「怪我人が出るかも」というリスクを無視した姿勢に、日本との差異を感じました。
違いを優劣に置き換えないこと
多少のリスクは承知の上でより大きなメリットを獲得するか、リスクを抑えて安全に進めるか。どちらにもメリット・デメリットがあり、正解・不正解がわかれるものではありません。大切なことは、違いを単なる違いとしてとらえるニュートラルさです。
日本ではSNSなどを中心に中国に対するヘイトが見られることも多々ありますが、今回ご紹介した違いを「中国人は考えなしの馬鹿だ」「日本の方が色々と考えられていて成熟している」という結論に帰結させることは、思慮に欠けた幼稚な思考プロセスです。
特に、自分の暮らす街を離れ異なる県や国に出た旅人は、「“違い”を“優劣”に置き換えない」ことが重要です。サスタビではサステナブルな旅を実践するため、旅先の地域を尊重し、相手を理解しようとトライすることを大切にしています。私も一人の旅人として、国ごとの違いをフラットにとらえて日本との差異を楽しんでいきます。
中国は、世界でも社会でのデジタル化へのスピードが速いですね。自動運転の公道での実験も早かった、取り敢えずなんでもやってみるのが早いですね。
日本は、なんでも慎重ですね。
国家間の文化の違い違いをみつつ、人間の共通項の様なものも感じたら教えてください。