旅人の考えをアップデートし、地域にプラスを生み出す旅を実現する

必要なのは、旅人の意識をアップデートすること

サスタビでの活動を通して、「持続可能な観光を推進するためには、事業者側だけでなく、旅人側の変化が必要」だと感じるようになりました。旅によって生まれる環境や地域住民への負荷を軽減する責任は、事業者だけでなく旅人にもあるためです。特にコロナ以降、地域の方は、自分たちの暮らす街に配慮する旅人を求める傾向が強くなっています。地域作りの担い手であるDMOも、観光客ではなく地域の方に向けた開発に取り組んでいます。

そこで必要なのが、旅人が意識をアップデートすることです。現在、事業者である宿泊施設では、タオルやシーツの交換頻度を下げたり、使い捨てシャンプーなどのアメニティを減らしたりと、環境に配慮した取り組みをするケースが増えています。しかしそれを「ホスピタリティが足りない」と受け取り、クレームを出す旅人がいるのです。

そのため、トラブルを避けるため、無駄とわかりつつ必要以上のサービスを提供してしまう宿もあります。実際に私も、旅館に泊まったときに明らかに食べきれないほどの料理が出てきて、残してしまった経験があります。この時、他のテーブルを見ると完食している人はそれほど多くなく、「もったいない……」と思いました。

こういったミスマッチの責任は、旅人だけにあるわけではありません。事業者側にはアップデートの機会が設けられていた一方、旅人にはそういったきっかけがほとんど与えられていなかったためです。事業者に目を向けると、GSTC(The Global Sustainable Tourism Council)は持続可能な旅行と観光のためのグローバルな基準を設定していますし、観光庁からはJSTS-D(Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations:日本版持続可能な観光ガイドライン)が出ています。これらはどれも事業者向けのもので、旅人向けではありません。つまり、旅人が「サステナブルな旅をするにはどうすればいいか」を考える機会は、非常に少ないのです。

自分でできることは、楽しみながら自分でやる

サスタビは事業者さんへの情報発信もしていますが、主なユーザーは旅人の方です。そこで、旅人のみなさんがサステナブルな旅をするための指標となるものを発信しています。それが、「サスタビ20ヶ条」です。

20ヶ条と聞くとなんだか固そうなイメージがあるかもしれませんが、「地元食材を使ったレストランに行こう」「徒歩・自転車で、ゆっくり旅先の土地を楽しもう」など、旅の楽しみ方にフォーカスして作っています。新しい旅の楽しみ方を知り、それを実践することで地域や環境への負荷を軽減できるなんて、一石二鳥ですよね。

どのように活用できるのか、ここでは「アメニティを持っていこう」を例に解説します。一般的にアメニティとして用意されているのは、シャンプーやコンディショナー、歯磨き粉、スリッパ、化粧水、クリームなどです。これらは使い捨てで、利用するとゴミが増えてしまいます。

そこでサスタビでは、これらを持参することを勧めています。「荷物になるな……」というデメリットに注目してしまうかもしれませんが、使い慣れたものを旅先でも利用できる点はメリットです。また、肌の弱い方だと初めて使う化粧水や洗顔料が合わず、赤みが出たりかぶれたりするリスクもありますが、それをゼロにできる点もメリットでしょう。

シャンプーなどは持ち運び用のボトルが100円程度で売っているので、それに移し替えれば大した荷物にもなりません。そう考えると、いつもと変わらないお気に入りのアイテムを旅先でも使えることが、魅力的だと感じませんか?

また、旅人が一定の負担を請け負うことで、コストを抑えるという仕組みも増えていく可能性があります。例えば飲食業界では、顧客が自分で食べ物を受け取って席まで運び、食べ終わったらごみを捨てて食器を指定された場所に片付けるという労力を払うことで、より安価に食事ができるファストフードという文化が確立しています。旅人が「自分でできることは、自分でやる」文化が出来上がれば、旅行業界でも新しい形のサービスが定着するかもしれません。

時間にゆとりを持ち、消費だけでなく何かを生み出す旅を

サステナブルな旅のヒントをもう一つピックアップするならば、「暮らすように旅をする」ことです。そもそも日帰りや1泊2日などの短期的な旅では、有名どころを巡るだけで終わってしまうことも多いでしょう。観光客が集まるところに足を運ぶのは、オーバーツーリズムの原因となります。また、時間が限られているため、効率性のみ重視して自家用車やタクシーを駆使しますが、これはCo2の排出や渋滞の発生という面で見てもネガティブな要素が多々あります。

一方、長期滞在の魅力はゆっくり時間を使えることです。徒歩やレンタサイクルなど負荷をかけない移動手段を用いて、地元の方の生活を知ることもできます。時間にゆとりがあるので、旅先を消費するだけではなく、地域に何かを生み出すサービスも利用できます。例えば、地域の方の農作業を手伝い、報酬として収穫したものをもらえるというプランを提供する事業者も増えています。

サスタビとしても、今後はサステナブルな旅人を増やす活動に注力していきます。事業者の方々や地域の方々とコラボして、新しいサステナブルな旅のマーケットを創っていきたいです。これには旅人のみなさんの協力も必須ですが、まずは「食べきれないほどの食事」や「使いきれないアメニティ」といった、無駄をなくすことが第一歩になりそうです。みなさんも次の旅行では、当たり前に受け取っていたものに対して、「これって、本当に必要?」と考えてみてください。それだけで、新しい旅の形が生まれるかもしれません。

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