「都市らしさ」とサステナビリティ:アーバンツーリズムの紹介

観光地としての都市

都市。そう聞いて、みなさんはどのような景色や場所を想像するでしょうか。都市とはどのような場所でしょうか。ビジネスの場所、買い物をはじめとする「消費」の場所、情報とテクノロジーの最先端の場所……。さまざまなイメージがあると思います。

アーバンツーリズムは、都市の利便性を下敷きにしながら、都市を複合的に楽しむことができる観光形態といえます。午前中は公園でのどかに過ごし、昼は素敵なランチを楽しみ、午後は買い物めぐり。夜は映画を観て、夜景を見ながら食事をして帰宅する……等々。

そのようにして「都市を渡り歩く私」というイメージを自らつくり、楽しむことも一興であったりします。「代官山でランチ」「渋谷で買い物」「浅草でレトロな体験」等々、都市がそれぞれもつイメージに自身を没入させることができるのも醍醐味でしょう。

今回の記事ではそんなアーバンツーリズムにおける「都市の経験」を考えてみたいのですが、そのためにまず、都市という場所が観光/旅の文脈でどのような位置づけにあったのかという点を整理してみたいと思います。都市を観光する、それもサステナブルに。今回の記事は、その方法をこれからみなさんと一緒に考えていくための準備作業のようなものだと思っていただけたらと思います。

まずは、都市と観光の歴史を(非常に簡単に、かつ部分的にではありますが)ひも解いてみましょう。

グランドツアー

都市は、古くから旅と観光の舞台でありつづけてきました。

その歴史はたとえば、近現代の観光の原点とも称される「グランドツアー」にも遡ることができます。

グランドツアーは、およそ18世紀のイギリスにおいて貴族や上流階級の子供・学生たちが実施した集団的なヨーロッパ大陸周遊旅行のことで、非常に噛み砕いて表現すれば「修学旅行」のようなものです。

学業の修了時(いわゆる期末や、卒業前後)の期間に、子弟たちの意思で自発的に実施されたといいます。

グランドツアーの目的は「国際人」としての教養や見識を深めることにありました。そのため、グランドツアーの行先の多くはフランスやイタリアの都市部のような、ヨーロッパの伝統的文化と最先端の文化の双方に触れることができる場所が選ばれました。

「アーバンツーリズム」という名前はどこかとても新しい現象かのように思わせますが、グランドツアーを想起するとその歴史はひじょうに長いということがわかります。

ゴールデンルート

都市という観光の舞台は、日本においても重要な位置を占めています。たとえばゴールデンルート。

ゴールデンルートとは、訪日外国人観光客(インバウンド観光者)に人気のある、いわゆる「日本の定番観光ルート」のことです。言い換えれば、ゴールデンルートには外国人にとっての「日本を代表する観光地」が示されているといえるでしょう。

特に代表的なルートは、東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪を巡るものとされています。東京都内を巡ってから、5日~10日程度の日程で箱根、富士山、名古屋を渡り、京都・大阪を観光して関西国際空港から帰国するというルート(あるいは関西から入国し関東へ向かうルートも)で、パッケージツアーも数多くつくられてきました。

こうしてみれば、ゴールデンルートは日本の主要都市を巡るツアーという側面も有していることがみえてきますね。ほかにも福岡や札幌など、日本の人気観光スポットと都市は密接に関連しています。

都市と観光目的地:日本の例

ここで観光の目的地としての都市の位置づけについて、日本の比較的近年の歴史をたよりに考えてみたいと思います。

日本で国内観光が興隆した時代として、高度経済成長期(1960年~70年代)は重要です。経済成長は人びとの可処分所得(余暇などに使える自由なお金)を増加させ、また同時期には高速鉄道網等の移動インフラの整備や政府による余暇施設の拡充も進んだことによって、人びとの個人国内旅行が広がりをみせていきました。

ディスカバー・ジャパン・キャンペーン:都市からの脱出

当時の注目すべき動きとして、国鉄(現在のJR)による「ディスカバー・ジャパン・キャンペーン」を挙げることができます。

1970年に行われた大阪万博後の10月14日(鉄道の日)から展開された同キャンペーンでは、「日本を発見し、自分自身を再発見する」というコンセプトが打ち出されました(キャンペーンの副題は「美しい日本と私」)。日本全国に存在する美しい自然や文化や歴史を「(再)発見」し、経済成長至上主義のなかで失われつつあった精神を取り戻そう……そのようなメッセージとともに、たとえば有名観光地以外の路線駅にも「駅スタンプ」を設置したり、日本の地方や田舎の魅力のプロデュース(テレビCMやポスターなど)を展開するなどして、「有名都市に限られない、日本の様々な地域への個人旅行を社会に広げたキャンペーン」といえます

加えて、キャンペーンの一環として、国鉄の提供による紀行番組『六輔さすらいの旅・遠くへ行きたい』が同年同月から開始されました(永六輔の降板後は『遠くへ行きたい』に番組名が変更)。同番組は2020年に放送開始50周年を迎えた長寿番組で、当時、永六輔が毎週旅をして日本各地の風土や食を堪能する姿は多くの人びとに地方への旅行欲を喚起したとされます。

団体旅行から個人旅行へ、ありきたりの主要観光地を訪れる観光から日本の様々な地域を目的とした観光へ。この時期は日本の国内観光の転換期といえます。ちなみに女性雑誌『an・an』や『non-no』が創刊され、多くの若い女性が一人旅に出始めたのもこの時期にあたります。

そして今回の記事との関連でいえば、ディスカバー・ジャパン・キャンペーンは、高度経済成長に伴ってその数が急増した都市住民たちが、都市を脱出し、日本の地方に隠された魅力を発見する(そして新たな自分を発見する)という図式として理解することができます。キャンペーンのマーケットの対象は都市の労働者や若者たちだったのであり、「都市から脱出すること」が商品化されていったのです。

そもそも、「日本を再発見する(そのために地方や田舎の風土を求める」という標語は、きわめて都市的な発想ですよね。都市の息苦しさや、都市での日々の労働や苦労からの解放が地方や田舎にはある、地方のゆっくりとした空気は都市で行き急ぎ疲弊した自分を癒してくれる……そのような期待や「まなざし」が都市から都市以外の地域へと向けられたのがこのディスカバー・ジャパン・キャンペーンにほかなりません。『遠くへ行きたい』という旅番組の名前に示されているように、特定のどこかへ行きたいというよりも、「ここ=都市を離れたい」「ここではないどこか遠くへ行きたい」という欲望が喚起されたという点、その背景には都市からの脱出という欲望があったという点が、今回の記事では重要なポイントです。

まち歩き:都市の再発見

他方、その後1980年代になると、それまで日本の地方(=すなわち都市の外)に向けられていた観光の「まなざし」は今度は都市へと向けられていくことになります。

よく知られているのは「谷根千」の例です。1984年に創刊された『谷中・根津・千駄木』という名のタウン誌は知らなくとも、「谷根千」のことはほとんどの方がご存じなのではないでしょうか。身近であり生活圏である都市を「まち歩き」し、その魅力を(再)発見する。そんな「まち歩き観光」のブームの先駆けともいえるのがこの事例です。

同時期、谷根千以外にも東京都内のさまざまな「下町」や「まち並み」が観光の対象として取り上げられました。浅草寺周辺の裏路地などがこの一例です。

ちなみに、こうして「近場の観光」や「まち歩きの観光」と聞くと、近年そのような観光のあり方が再度注目を浴びていることが思い出されますね。感染症や地球規模でのエネルギー問題があらわとなってきた昨今に話題となった「マイクロツーリズム」や「近場観光」においても、都市の再発見という観光のあり方をみてとることができそうですね。

都市での経験:固有?均質?サステナブル?

ここまで非常に大雑把にではありますが、都市が観光の文脈でどのような位置づけにあったのかを考えてきました。最後に、都市における観光の経験と、そこでのサステナビリティのあり方について考えてみましょう。私たちが都市を観光するとき、どのようなことを感じ、体験しているのでしょうか。

冒頭に述べたように、たとえば東京都内の都市を並べてみると、それぞれの都市はそれぞれ固有のイメージを持っているように思えます。渋谷は若者のまち、六本木は高級な場所、銀座は世界的に人気、うんぬん。「この場所に行けばこのような雰囲気を味わうことができそう」といったイメージを私たちはかんたんに想像することができるでしょう。別の見方をすれば、都市はそのようにして自らのイメージを戦略的につくりだしているともいえます。

他方で、都市は同時に、とても均質的な景観もつくりだしているようにみえます。同じようなビルが立ち並び、どこへ行っても人混みで、駅前にあるのはどこにでもありそうなチェーン/フランチャイズのお店や複合商業施設ばかり。均質で、どの都市を訪れても同じような経験をしてしまう……そんな気持ちを抱いたことはありませんか?

都市は固有のイメージを持っているのか、それとも均質的な場所なのか。おそらく、そのどちらでもあるのでしょう。というよりも、私たちはつねにすでに、都市の固有性と均質性とを複合的に経験しながら都市を歩いているというべきだと思われます。スターバックスコーヒーを片手にスカイツリーに登るといったふうに。また都市の均質性は、利便性の言い換えでもあります。どこへいっても同じような経験ができるというのはある意味では安心感をもたらすものでもありますし、便利でさえあるでしょう。

「サステナビリティ」を考えるにあたって、均質性をどう考えるか、均質性とどう向き合うかということは非常に重要な論点であると思われます。よく、場所の固有性が失われていき景観が均質化していくことに私たちは怒り、嘆きます。それを止めなければならない、固有性を守っていかなければならないと考えます。一側面では、ひじょうに共感のできることです。文脈によっては、そのようにして固有性を守ることがすなわちサステナブルであるとみなされることもあるでしょう。

他方で、都市を例にしてみると、均質性と固有性は切り分けて考えられないということが見えてきます都市においてサステナブルであるとは、どのようなことをいうのでしょうか。もちろん、都市開発のレベルで省エネルギーな都市をつくることだったり、私たちの旅のレベルで都市でも「サスタビ20ヶ条」を実践したり、といったことは重要ですが、まだまだ考えるべき軸はたくさんありそうですね。都市と一言でいっても、下町や郊外、港湾都市や工業都市、ビジネス街など、さまざまな性格があることも踏まえる必要があるでしょう。

都市はサステナビリティに様々なことを問いかけてくれる重要なテーマだといえそうですね。

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