これからの観光のあり方を大きく変えていくことが予想され、非常に注目が集まっている「スマートツーリズム」。
【前編】では、このスマートツーリズムを理解するうえで重要なキーワードとして「ICT」「IoT」「5G」「観光DX」「API化」という5つを紹介しました。
今回の記事では、さらに押さえておきたいキーワードを5つ紹介します!
ぜひ、【前編】から通してご覧ください。
マイクロモビリティ
マイクロモビリティとは、「小型電動」であることを特徴とした移動手段(=モビリティ)のことで、具体的にはモーターを内蔵したキックボードや自転車、そして1人~2人乗りの小型自動車などが挙げられます。
消費電力も少なく設計されており、かつ自由度や小回りの利く「小さな」設計が徹底されているマイクロモビリティは、たとえば駅やバス停からホテルや観光地などの目的地へと移動する場合(いわゆる「ラストワンマイル」の移動)などに重宝されます。
マイクロモビリティの導入は訪問者・地域の事業者・地域の環境それぞれにメリットがあります。
まず訪問者にとっては、地域を自由かつ気軽に移動できる手段となりますし、多くの場合マイクロモビリティはどこでも乗り捨てが可能になっていて便利です。これは位置情報がアプリ上でリアルタイムに共有されているために実現しています(前編のIoTを参照)。
また地域の観光事業者にとっては、マイクロモビリティを導入することで、たとえば「送迎バス」などを手配する必要がなくなり、コストカットが期待できます。また宿泊施設が立ち並ぶ温泉地などでは、大型・中型の送迎者が駅前などで混雑を呈するような機会も減ることが期待できそうですね。
そして地域の環境に対しては、マイクロモビリティは排気ガスやエネルギーの負荷が一般の車両と比べて極めて少ない(多くは電動)ため、環境に優しい移動が可能となりますね。
マイクロモビリティについては、以前にも詳しく紹介をしていますので、ぜひ以下の記事もご覧ください
スマートパーキング
マイクロモビリティの導入・進展と併せて考えていく必要があるのが、「駐車場」の問題。
都市部を運転する際は、空いている駐車場を探すことに一苦労することもあります。駐車場を求めて周辺をグルグルと移動しつづけることはストレスにもなりますし、エネルギー消費の面でも良い事はありません。
スマートパーキングは、センサーが設置された駐車場の空き情報が特定のアプリ上でリアルタイムに確認できるようになる駐車場です。現在地から最も近い駐車場を探すだけでなく、混雑状況もわかり、さらに入庫・駐車・出庫・決済などの一連の手続きがスマートフォン上で完結させることもできるようになってきています。駐車券や精算機なども削減することができます。
オーバーツーリズムの関連でいえば、スマートパーキングはマイクロモビリティと並んで、混雑や渋滞の削減に貢献することができそうですね。また地域側としても、駐車場にかかる設備費削減が見込まれるとともに、データ通信を活用した効率的な駐車場稼働によって経済効果も期待できます。空いているのに利用者が見つけてくれない駐車場が減り、増収や無駄のない運営ができますね。
デジタルサイネージ
サイネージとは、「看板」のことを指します。観光地やショッピングモール等で、タッチパネル式のディスプレイに表示された広告や案内表示を目にしたことがあるかと思います。それらがデジタルサイネージです。
ポスターや広告看板などの従来型のサイネージと異なり、デジタルサイネージは掲載情報を自由に変更・更新することができます。また、タッチパネルを用いて、利用者側が自由に見たい情報を検索・表示させることもできます。
近年では、たとえば観光地のデジタルサイネージでは、近隣交通機関や観光スポットの混雑状況がリアルタイムで反映されたり、利用者側が個別にもつ観光ニーズに合わせて最適な観光ルートをその場で作成・表示させたりすることができるようにもなりつつあります。まさにスマート化ですね。
将来的には、顔認証やAIをさらに活用し、デジタルサイネージの前に立った人の年齢や属性などに合わせて表示内容を変化させ、よりパーソナライズされた情報提供を行うことができる設備の導入も期待されているようです。
チャットボット
人間に代わってコンピュータやAIが問い合わせに対応してくれるコミュニケーションツールとして広まりを見せているのが、チャットボットです。
チャットボットがあれば、24時間365日、知りたい情報を問い合わせることが可能になります。やりとりも即時的ですぐに回答を得ることができます。相手はコンピュータやAIなので「ちょっとした疑問」でも気軽に質問がしやすい利点もあります。
チャットボットは近年では実にさまざまなサービスやHPで使用されてきています。FAQ(よくある質問)や、回答がおおまかに定まっている質問に関する顧客対応はすべてチャットボットに任せ、込み入った顧客対応にのみ人的リソースを割くことができるという点で、多くの業種・サービスにとって応用的な利点があります。人員削減や対応の効率化も期待できるほか、チャットボットと顧客のやりとりを「ビッグデータ」として再利用することで、ユーザーの傾向把握や顧客満足度の将来的な向上へと活かしていくことも期待できます。
シティカード(スマートカード)
観光では、さまざまな施設に足を運んだり、複数の交通機関を利用したり、レストランや宿を予約したりと、たくさんの場所や移動手段を利用しますよね。「この博物館はネットで予約して、新幹線は○○で電子チケットを買って……レストランは電話で予約して……」と大忙しになることもしばしばです。
スマートカードやシティカード、またはスマートデバイスと一概にして呼ばれるものは、そうした旅先での細かな煩雑さを解消してくれます。旅先で訪れる各種チケットや搭乗券、レストラン予約情報、決済機能などが一枚のカードやひとつのデバイスに集約され、それをかざすだけですべての施設を利用することができるとしたら、とても便利ですよね。
たとえば米国オークランドのウォルト・ディズニー・ワールドリゾートでは、「MagicBand」と呼ばれるリストバンドが、パークの入場チケットからホテルのルームキー、アトラクションの優先入場券などを担います。またクレジットカード情報を登録しておくことで、テーマパーク内のお土産屋や飲食の支払いを、直営ホテルのチェックアウト時にまとめて清算することができるそうです。パーク内の混雑回避と、利用者の満足度の両立が果たされていますね。
またオランダ・アムステルダムの市内で導入されている「シティカード」は、市内にある美術館への入場や市内交通機関の利用を一括して行うことができる、旅行者向けのいわば「ワンデイパス」となっています(1日有効のものから、5日有効のパスまで種類があるようです)。
このシティカードには「FRID(Radio Frequency Identification)」と呼ばれる技術が組み込まれています。これは交通系ICカードや高速道路のETCカードと同じもので、非接触の無線通信によって情報のやり取りや決済ができるものです。アムステルダムでは、これを利用者の回遊情報、すなわち移動経路や滞在時間のビッグデータ収集と分析に活かすことで、市内混雑やオーバーツーリズムの回避を進めています。
スマートツーリズムを試してみよう
前編と合わせて、10個の「いまさら聞けない?」キーワードを紹介してきました。しかし説明を読むだけでは、イメージが湧かなかったり、そもそも本当に便利なのかがよくわからなかったりするかもしれません。
ぜひ、今回の記事で知った技術や設備を旅先などで発見したときには、実際に触ってみたり、利用したりしてみてください。
「上手く使えるか不安」「よくわからない」と思っても大丈夫です。なぜなら、多くのスマート・デバイスやスマート技術は、「直感的」で「誰でも使える」ということをコンセプトに作られているからです。
スマート技術の今後の展開は、実は、【一人でも多くの人がそれを利用してくれること】に懸かっていると言っても過言ではありません。なぜなら、多くのスマートデバイスや技術が、人びとの利用によって生まれる「ビッグデータ」をもちいて改善・精緻化されていくからです。
サステナブルな旅や観光を「スマートに」実現していくためには、今述べたような「試しに使ってみる」といった泥臭いチャレンジ精神が不可欠なのかもしれません。ぜひ、旅先などで探してみて、見つけたら利用してみましょう。
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