「文化の画一化」に抗する旅【前編】2種類の画一化

文化の多様性

今回の記事では、「文化の多様性」について考えてみたいと思います。

グローバリゼーションの展開により、商品や価値観、企業活動の世界的な流通が進んでいます。グローバルなチェーン産業が世界中に進出した結果、「どこかで見たことのある風景」が世界のいたるところで(とくに「都市」において)生まれています。

こうした動きは「文化の画一化」「文化の多様性の縮減」と捉えられています。以前の記事で紹介した「マクドナルド化」はその典型的な議論だといえるでしょう。

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商品やモノづくりが規格化・標準化され、サービスもマニュアル化された「効率的」な仕組みが世界に広がっていく。その結果、文化的な景観や、私たちの食や振る舞いもまたグローバルで均質化されたものへと変容していくという見方です。

一側面では、こうした「グローバリゼーションによる文化の画一化」はリアリティをもった現象ですね。

グローカリゼーション

他方で、グローカリゼーションと呼ばれる現象が同時進行していることもまた指摘できます。

グローカリゼーションとは、グローバリゼーションによって展開した文化が、各地域の「ローカリティ(地域文化)」と接触し交わるなかで独自の変容をすることを指します。マクドナルドも世界的に店舗を拡大していますが、すべての国・地域の店舗がまったく同じメニューを提供しているわけではありません。日本では「テリヤキ」味がメニューにあるように、「グローバルなもの」は「ローカルなもの」と結びつくなかで、地域のある種の固有性を生み出していく側面ももっているのです。

「グローカリゼーション」とはすなわち、グローバリゼーションが「文化の画一化」と「新しいローカリティ(文化)の生産」という一見すると相反するような現象の同時的な発生を表現しようとした言葉だといえるでしょう。

もうひとつの「文化の画一化」

今回メインとなるお話はここからです。

これまで話してきた「文化の画一化」は、グローバリゼーションによって世界の文化の多様性が減じていく可能性や、そこに内在する新しい文化が生まれていく可能性に関するお話でした。もうひとつの「文化の画一化」は、いわば「「ローカリティ」のさらに内側で生じる文化の選別」として表現することができるものです。

今日の「観光まちづくり」や地域の観光活性化において、「地域らしさ」の創出や育成は必要不可欠で非常に重要なテーマとなっています。地域においてどのような文化や伝統が「地域らしさ」をうまく表現しているか。どのような文化が観光の目玉になるか。関係人口や観光客にむけて、自分たちの地域の「らしさ」を探し出し、選び出そうとする動きの広がりです。

 

観光は差異の創出とともに。

このような動きは、観光(産業)の基本的な活動内容とも重なる所があります。というのも観光は、基本的に「差異を求める」移動であるからです。何か自分とは異なるもの、これまで知らなかったもの、見たことない景色を求めて観光に行くのであり、日常から「非日常」へと移動することがその基本的な特徴といえます。

このとき、観光の産業側(もう少し抽象的に言えば、消費社会の側)が行うのが「差異の創出と商品化」にほかなりません。「○○地域といえば△△」「○○地域ならでは」といった言葉とともに「地域らしさ」や「観光スポット」「名物」などが提示されることになります。ガイドブックの表紙を思い浮かべてみてください。そこには地域名とともに、その地域を象徴するような場所や景観や食べ物などの写真が掲載されていることがほとんどです。

その地域のすべての要素が表紙やガイドブックの中身に掲載されることはありません。象徴的で有名な場所や、人気のある場所、新しい場所、歴史のある場所などが選び出され、ときには順位を付けられ、紹介されることになります。

「売れる文化」の勝ち残り?

こうした動きは、究極的には「文化の選別」と表現できるものです。地域のすべての場所、すべての要素を観光客に提示したり、見て回ったりしてもらうことは物理的に難しいですし、やはり他の地域よりも観光客に「行きたい」と思ってもらいたいという競争心から、より注目されやすいポイントをアピールすることも現実的な方策です。

とはいえ、それは「一部の文化や要素を選び出す」作用であることには変わりません。ともすれば、観光客をより多く呼ぶことができるような「売れる文化」ばかりが強調されていき、地域に存在するそれ以外の文化や伝統的な要素よりも優先されていくという事態も想定されうるものです。地域には本来、数え切れないほどの「文化や場所や人の多様性」があるはずなのに、人気のでやすい要素のみが選ばれて「○○地域らしさ」としてまとめあげられていくような「単純化」や「選別」には注意が必要だといえるでしょう。

これが2つ目の意味での「文化の画一化」です。地域の「目玉」として観光商品化しやすい文化ばかりが選ばれ、勝ち残っていくような画一化です。この場合、表面的には地域それぞれの文化や固有性が維持され多様性が満たされているように見えますが、その「地域」のさらに内側において、商品化しやすいものばかりが「地域らしさ」として残されていくという意味での画一化と選別、競争が激化している状況が存在する可能性があるということです。

多様性のために旅ができることとは?

ガイドブックやプロモーションに登場する「定番観光スポット」は、それが「商品化されている」という側面と分けて考えることはできません。観光客に人気が出やすい文化ばかりが優先されたり、観光客や旅人の側もまたそうして選別されたものだけを見て満足してしまったりすると、文化の真の意味での多様性は減じていってしまうかもしれません。

では、観光や旅を実践する側として、どうすればよいのでしょうか。後編に続きます。

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