脱「もらってばかりの旅人」宣言!アメニティと観光をめぐる豆知識

サスタビでは、サステナブルな旅をするための20ヶ条を紹介しています。

今回はその第7条、「アメニティも持って行こう!」に注目して、「アメニティ/アメニティグッズ」という言葉の背景や豆知識をお伝えします!

20ヶ条その7「アメニティも持って行こう」詳細についてはこちら!

アメニティを持参することには、単に資源削減に資するというだけの意味を超えて、これからの旅のあり方を180度転換させる可能性が秘められているのです。ぜひ最後までご覧ください。

アメニティ/アメニティグッズいろいろ

アメニティといえば、ホテルの客室にあるインスタントコーヒーや飲料水、洗面所にある歯ブラシセットや綿棒、洗顔料などが思い浮かびますね!ホテルのほかには、航空機内の簡易スリッパなどもあります。

それらは、使い捨てであることや、宿泊料金や座席料金を支払った利用者は(基本的には)無料で自由に使えることなどが特徴ですね。

もう少し視野を広げ、アメニティを「備え付けられているもの」として考えることもできそうです。その場合だと、宿にドライヤーがあるかどうか、タオルが何枚あるか、お湯は出るか、WiFiはあるか、といった設備的なものが意味に含まれてきます。とくにAirbnbや民泊、ゲストハウスでの宿泊や海外旅行だと、自分が希望する設備や機能がきちんと施設に備わっているかどうか………気になりますよね。

こうして考えていくと、サービスとアメニティはとても近い領域にあるような気もしてきます。高級ホテルや旅館に宿泊するとき、私たちは客室のアメニティもまた一定のクオリティの高さで提供されていることや、宿泊施設あるいは客室全体の雰囲気を邪魔しないような統一感のあるアメニティが用意されていることを、無意識に期待してしまっているところもあるかもしれません。アメニティは確実に、サービス、そして私たちの満足度の一端を担っています。

アメニティを持参するという心がけ

アメニティを持参することは、サステナブルな旅において重要です。自分が普段から使用している洗面道具を旅で持参すれば施設のアメニティを消費せずに済み、資源節約に役立てることができます。加えて、たとえば自分の肌・体質に合った化粧水などを持参すれば、慣れない旅先の地で身体のトラブルを引き起こすリスクを減らすことにもつながるでしょう。

コンビニエンスストアやドラッグストアにも「お泊りセット」等のアメニティ商品は販売されていますが、なるべく普段から必要最低限のアメニティを持ち歩くことを心がけることで、それらを購入する必要も減らすことができますね。

アメニティの意味

ここまで述べてきた例のように、旅/観光におけるアメニティは、宿泊や移動時に使用する日用品やケア用品(とくに消耗品)を指すことがほとんどです。「アメニティグッズ」という和製英語で呼ぶこともありますね。

アメニティ(amenity)は、もともとは「快適さ」「居心地のよさ」「住みやすさ」を意味する言葉です。旅/観光におけるアメニティがどちらかというと具体的な用品や道具そのものを指すことに比べて、より包括的な意味合いをもっていて、「住みやすい環境そのもの」を指してアメニティと呼ぶこともあります。

まとめるならば、アメニティは「住みやすい環境や居心地の良い場所のこと、あるいは場所や環境を居心地よくするための設備や要素」のことだといえるでしょう。

観光開発の視点からみたアメニティ

旅人の目線からみたアメニティは日用品などの具体的な道具やサービスのことでした。その一方で、観光地づくりをする行政などの視点からみるアメニティはまた違った内容を指しています。

それは「観光アメニティ」と呼ばれ、観光地に存在する「財」やサービス、施設、観光対象の総体を指します。どういうことでしょうか。

観光地は、たくさんの要素でつくられています。観光地に行くための交通インフラや、ホテル・旅館などの宿泊施設、温泉、テーマパーク、お土産屋さん、レストラン、地場産品、世界遺産や文化遺産……などなど。それら個々の要素を観光アメニティと呼ぶことがあるのです。要するに、「観光客がその観光地に来て居心地の良さを感じるため(=満足するため)の要素」のことですね。

観光地に行って何をしたいかは観光客ごとに異なるものです。地産の食べ物を食べたい、遺産を見学したい、お土産を買いたい、など、人によって多様な「やりたい」があります(多くの場合、それらは組み合わされて複合的に経験されます。例:美味しいご飯を食べて、夜は温泉に入りたい)。そのため観光地側も、そうした観光客の多様な欲求に応えようとします。そのとき、「いまこの観光地に何が有り、何が無いか」「何が有れば観光客は満足してくれるだろうか」といったことを考えるために、「観光アメニティ」の視点が導入されるのです。

多様な分野におけるアメニティの意味

ちなみに、アメニティは旅以外の分野でも使用される言葉です。いくつか例を見てみましょう。

医療分野におけるアメニティ

医療の分野では、アメニティは「衛生」に加えて「療養環境の快適性」を意味しています。入院する病室や治療室が患者にとって居心地の良い場所となっているか、療養に適した空間になっているかどうかを考えるための言葉です。

ちなみに医療におけるアメニティの重視は、比較的近年の問題意識であるようです。

というのも、医療/病院においてもともと優先されていたのは医療機器の整備・拡充や医師の技術向上であって、たとえば入院患者のベッドの広さや質、食事の味覚的な「美味しさ」のようなものはそこまで重視されていなかったのです。医師と患者とが良好なコミュニケーションを取れるようになることや、病室の環境の居心地の良さといったものはいわば「医療」の外側に置かれてきたといいますDonabedian 1980)。

しかし病気というものは、たとえば悪さをする原因(腫瘍など)を取り除きさえすれば完治するようなものだけではありません。慢性疾患のように何度も病院に通う必要がある病気もあれば、根本的な治療よりも患者の苦痛の軽減や発症の遅延を目的とした治療が重視される病気もありますよね。そうした観点から、次第に「医療」というものをより広い視点でとらえよう、病院の環境や患者の居心地の良さといったものも「医療」に含めて考え、その「全体」をまるごと良くしていこう、という考え方が広まってくることになりました(Donabedian 1980)。

そうした潮流と並行して、病院にもマーケティングが必要な時代になってきたことも関係します。つまり、治療のレベルだけで患者(≒お客さん)を呼び込める時代が過ぎ去り、患者からどれだけ評判を得られるか、患者にどのようなサービスを提供することができるか、といったことが病院経営にとって重要な課題となってきたのです。その結果、病室の快適さや医師との相談のしやすさ、病院食の多様性などが(治療の高度さに加えて)病院の質を左右する要素となり、アメニティ(患者の居心地の良さ、患者サービス)が意識されてきたというわけです。

農業開発や地域づくりにおけるアメニティ

この分野でのアメニティは、その地域で生活する人々が自らの地域の自然や景観、文化、歴史などに対して感じる「楽しさや心地よさ、美しさ」などの肯定的な感情を指しています。地域の人々が地域に愛着を感じたり、子供が地域の自然に触れて楽しい気持ちになったり、伝統的に維持されてきた景観を住民自身が守ろうという気持ちになったりすることを、「地域のアメニティの向上」などと表現することがあるということです。

ちなみに、「農業」それ自体にアメニティとしての機能があることも指摘されています。農業は、もちろん農作物という食料を生産するという行為・機能にほかなりませんが、じつは農業はそれ以外にもさまざまな機能を有しているのです(「農業の多面的機能」)

たとえば農業によって田んぼを作ることは、地域の防災機能の向上にも役立ちます。つまり火事の延焼防止に田んぼが役立ったり、田んぼの存在が洪水の被害軽減に関係したりすることが明らかにされています。ほかにも、農業にはレクリエーションの機能や教育機能(農業体験をつうじた環境意識の涵養や、伝統的な生業文化の継承など)、生態系の保全機能などがあるとされています。

それに加えて農業には「アメニティ機能」があるのです。農業のアメニティ機能とは、特定の景観を作り出す機能(田園風景の形成や、都市の緑化など)や気候緩和機能(農地の増加によって地域の気温を下げうること)のことで、地域の景観を良くしたり気温を下げたりすることで人々の居心地の良さや住みやすさの向上に農業が役立っていることを示すものです。

都市環境整備におけるアメニティ

アメニティは、地方だけでなく都市空間の開発においても重視される概念です。都市の生活環境をめぐる議論ではしばしば「都市アメニティ」という言葉が出てきて、いかにして人々が住みやすく働きやすい都市環境を整備するかが盛んに議論されています。建物や道路の構造を工夫することによって利用者の混雑を減らしたり、街灯を増やすことで安心して歩ける道を増やしたり、ほかにも無料のWiFiを拡充させたりといった、幅広く私たちの生活環境や労働環境の向上に役立つ要素(およびその総体)を、都市アメニティと呼ぶようです。

都市の緑化、都市農業などもかかわってきそうですね。

さてここまで、アメニティという言葉の様々な使われ方を紹介してきました。そのいずれもが、「人が快適さや満足を感じるための要素、およびその総体」という意味において共通しているようです。

旅人だけが快適であってよいの?

旅人を受け入れる人や、地域のためのアメニティはなぜ無い?

旅におけるアメニティには2つの側面がありました。ひとつは、旅先で使用する消耗品や日用品を示す具体的な「アメニティグッズ」。もうひとつは、観光地全体を俯瞰したときに見えてくるひとつひとつの施設や観光的な要素のことを指す「観光アメニティ」で、観光客がその観光地で感じることのできる満足度を考えるための言葉でした。

ここまで振り返ってみて気がつくのは、旅におけるアメニティにおいて問題になっているのは「旅人の満足度」ばかりであって、反対に「地域で観光客を受け入れるホストの人々や観光地の地域住民にとっての居心地の良さや満足度」がアメニティの問題から除外されているのではないか?ということです。

サステナブルな旅の実現をまなざすならば、「旅人だけが心地良い」ではなく「旅人も地域の人々もみなが心地良い」と感じることができるような旅のあり方を考えなければならないはず。

アメニティという言葉は、多様な分野で使用されてはいても、「環境の全体・総体をより良くする」という点で共通していたように思いますが、旅/観光におけるアメニティだけは「観光の全体・総体」よりも「旅人中心の世界」に囚われているような気がしてなりません。

いまこそ「旅人も快適で、かつ地域の人々にも資するような観光のあり方と、その全体」を示す概念として「観光アメニティ」を再構想していく必要があるのではないでしょうか。

「旅人がつくるアメニティ」へむけて

旅におけるアメニティはもっぱら、観光地から旅人に向けて提供されるサービスのことばかりでした。いいかえれば、旅人だけがギフトを受け取ってきたのです。旅人から地域や観光地に対して与えることのできるギフトはないのでしょうか。これは、これからのサステナブルな旅を考えるうえで重要になってくる問いでしょう(cf. 遠藤 2021)。

サスタビ20ヶ条その7「アメニティも持って行こう」はある意味、「観光地側から提供されるアメニティを利用しないことによって達成される、観光の総体的なアメニティの向上」に向けた目標なのだと思います。つまり、「これまで「もらってばかり」だった日用品などのアメニティを断るという行為によって従来の旅のアメニティの概念から脱却し、(地域住民なども含めた)観光地全体のアメニティを高めるような新たなアメニティの構想に資する」ための、重要な出発点になるということなのです。

「ギフトをもらうばかりの旅人」を脱却し、「ギフトを与えることのできる旅人」になっていくためには、まずはこれまで「当たり前」のように受け取っていたアメニティ(アメニティグッズ)をもらわないという選択をすることを始める必要があるでしょう。

旅でアメニティを消費せず持参するという行為は、一見するととても「微々たるふるまい」のようにみえます。しかし、それは単に使い捨て用品の資源削減だけに役立つだけのものではありません。それは、「旅人も地域の人々もみなが心地よい」という双方向的でサステナブルな未来の旅を現実化させていくための、非常に重要な意味を持ったふるまいにほかならないのです。

脱「もらってばかりの旅人」へ向けて。そして、「何かを与える旅」へ向けて。まずはアメニティを持参することからはじめてみませんか。

【参考文献】

Donabedian, Avedis. 1980. Exploration in Quality Assessment and Monitoring, Vol.1, The Definition of Quality and Approaches to its Assessment, Health Administration Press(=東尚弘訳(2007)『医療の質の定義と評価方法』NPO 法人健康医療評価研究機構)

遠藤英樹(2021)「「歓待を贈与する観光」へのディアレクティーク」遠藤英樹編『アフターコロナの観光学――COVID-19以後の「新しい観光様式」』新曜社、pp.24-39。

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