サスタビを知る「サステナブルな旅って、なに?」―そんな素朴な疑問について、さまざまな視点から考えます。

ホストとゲストのサステナブルな関係性を考える:「素朴さ」の可能性

ホストとゲストのサステナブルな関係性を考える:「素朴さ」の可能性

観光者を受け入れる人々はホスト、観光者のことはゲストとしばしば表現されます。観光について学術的に検討してきた観光研究の分野では、これらは重要なキーワードとなってきました。また一般的にも、馴染みのある表現なのではないでしょうか。

今回の記事では、「ホスト/ゲスト」の理想的な関係性、あるいはサステナブルな関係性とはどのようなものであるのかという点について、考えてみたいと思います。

ホストとゲスト:抜き差しならない関係性

観光が地域社会に与えうる社会的・経済的・環境的・文化的な影響はとても大きいものです。

良い面としては、観光収入による地域の経済的活性化や地域開発の進展、交流人口の増加などが挙げられますね。観光を通じて地域の文化が新しくつくられたり、「伝統」の継承に結びつく例もあります。またエコツーリズムのように、観光客=ゲストの来訪それ自体が地域社会のエコシステムの進展に貢献するような観光形態の模索も進んでいます。

反対に、良くない影響も数多く指摘されています。自然環境への負荷や、外部資本の参入による利潤の流出、多すぎる観光客の来訪(オーバーツーリズム)による地域住民の日常生活への負担‥‥‥。また、「観光によって伝統文化が観光商品化され、消費されている」といった問題提起も少なくありません。

「ホスト」と「ゲスト」という呼び方が(少なくとも学術的に)登場してきた理由のひとつは、そうした観光の正負の影響をより詳細かつ具体的に把握・検討する必要性がひろく認識されてきたからなのです。とくに、文化人類学や社会学をはじめとする人文社会科学の観光研究で立ち上がってきた問題意識と言えるかと思います。

ホストは、観光客=ゲストと出会い、ダイレクトに関係性を結ぶ人びとです。そして観光とは、ホストとゲストのあいだの不均衡な力関係が可視化される瞬間にほかなりません。たとえば、ホストはつねに観光地で「見られる側」であり、ゲストの人たちはつねに「見る側」である、といったように。

ホストとゲストとの接触の場面(コンタクト・ゾーン)への着目は、両者が不均衡な権力関係のなかでどのような関わり合いや交渉をしているのか、その空間ではどのような社会的・文化的な影響が生じているのか、あるいは、ホストの人びとがいかに主体的にゲストと向き合っているのか、といったことがらを分析可能にしてきました。

「見られる/見る」から、「見せてあげる/見せてもらう」の関係性へ?

学術的な動向はさておき、ホストとゲストの関係性をどのように改善していくかという問題は一般的にもさまざまに検討されてきたものだと思われます。

「ホスト=見られる/ゲスト=見る」の関係を終わらせて、ホストは地域社会のことを観光客に「見せてあげる」立場となり、反対にゲストは観光地のことを「見せてもらう」側となるべきだ、という意見があります。みなさんも一度は、こうした意見を聞いたり、考えたりしたことがあるのではないでしょうか。

とくに観光客/旅人の側としては、観光地に「お邪魔させてもらう」ような謙虚な姿勢を保つことが重要であるという点は、おそらく否定できませんし、そのような意識はすでに一定の広がりをもっていることでしょう。

「見られる/見る」の関係から、「見せてもらう/見せてあげる」の関係へ。たしかにそれは、従来のホストが置かれていた立場を脱し、逆にゲストに対して優位に置きなおす、画期的な考え方にも思えます。また、謙虚さや節度の観点が反映された、ひじょうに道徳的な考え方だということもできるでしょう。

「みせてもらう観光」のその次へ:上下関係をゆさぶる

しかしながら、これはあくまでこの記事を執筆している私個人の見解に留まるものではありますが、ホスト/ゲスト関係を「見られる/見る」から「見せてあげる/見せてもらう」の関係へと転換させることにも、一定の課題が残されているように思えてなりません。

なぜなら、上述の転換が果たされたとしても、そこには「上下関係そのもの」が温存されてしまうからです。「見られる/見る」の関係ではホストよりもゲストが優位に置かれていますが、「見せてあげる/見せてもらう」の関係はそれをひっくり返し、ゲストよりもホストに主導権あるいは優位性を位置づけたものとなっています。

述べたようにこの転換には非常に重要な意義がありますが、しかしながら、ホストとゲストのいずれかに優位性が残されるような、不均衡な関係性そのものを解体するような可能性はないのでしょうか。ゲスト優位でもなく、ホスト優位でもない、第3の道。すなわち、ホストとゲストとが対等に向き合うことや、両者が同じ方向へむかってともに歩むことを可能にするような関係性は残されていないのでしょうか。

「見せたい/見たい」の素朴な関係性は可能か?

この問いに答えを見いだすことは簡単ではありません。それはホストとゲストとが観光や旅をつうじて向き合い、コミュニケーションを重ねるなかで試行錯誤され、模索されていくものだと思われます。

ただし、ひとつの可能性となりうるアイデアならば挙げることができます。これまで述べてきた「見る/見られる」「見せてあげる/見せてもらう」の図式的な例を引き継ぐならば、それは「見せたい/見たい」という素朴な欲求同士が対面するような関係性です。

観光や旅には、何かを見たい、食べたい、してみたいといった素朴な動機や欲求が存在するでしょう。サステナブル・ツーリズムや責任ある観光のようないわゆる「真面目な観光」のなかにも、何らかの素朴な欲求や、楽しさに対する純粋な気持ちが存在しているはずです。

そしてホストの側においても、経済的な利益になるからというそれだけの理由で観光に従事している人は、限られているのではないのでしょうか。どこかに素朴な楽しさや興奮があるからこそ、つづけることができているのではないでしょうか。

だとすれば、ホストとゲストの関係も、双方が抱く素朴な欲求をお互いに表現しあえるという意味での「対等さ」において実現できる可能性はないでしょうか。「見たい」と「見せたい」はその素朴さにおいて対等な地平に置かれているように思われます。お互いが見たい/見せたいものを相手に提示し、お互いにそれを受け入れ(ときには交渉し)、ともに楽しみを得る。そんな関係性がもし実現可能ならば、ホストとゲストの関係をサステナブルなものとし、ひいては観光/旅それ自体をサステナブルにしていくことができるかもしれません。

 

この記事を書いた人

石野 隆美

立教大学大学院観光学研究科、博士課程後期課程に在籍中。専門は文化人類学、観光研究。北海道札幌市出身。論文に「ツーリスト・アクセス――「アクセス」概念が拓くツーリスト像の検討に向けた理論的整理 」(『観光学評論』9(2)、2021年)など。また分担執筆に『よくわかる観光コミュニケーション論』(ミネルヴァ書房、2022年)、『アフターコロナの観光学――COVID-19以後の「新しい観光様式」 』(新曜社、2021年)など。

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