元国連世界観光機関職員
一社)日本サステナブルツーリズムイニシアティブ 常務理事
株式会社JTB総合研究所 主席研究員(サステナビリティ担当)
熊田 (Jack)順一
先月に引き続き「ツーリズムを楽しむ際に今日からみんなに意識して欲しい6つの考え方」を紹介していきます。
1.旅先に住む人々に敬意を払い、地球上の私達の共有遺産を大切にしよう
2.私達の地球を守ろう
3.地域経済をサポートしよう
4.安全に旅しよう
5.旅先の情報に通じた旅人になろう
6.デジタルを賢く使おう
今回は6つ基本的な骨子の6つ目、「デジタルを賢く使おう」です。
6.デジタルを賢く使おう
この行動指針は2016年にUNWTOによって「レスポンシブル・トラベラー像」が最初に描かれた際には含まれていなかった指針でした。インターネット環境やスマートフォンのグローバルかつ急速な普及拡大によって、「デジタル✕観光」いわゆる「観光に関わる情報や機能」と上手に旅行者も向き合うことの大切さをUN Tourismも大切に考えるようになったのだと思います。
1) 旅の開始前にレビューやブログをチェックしよう。
インターネットとスマートフォンの普及により、観光地に精通している人しか入手できないような観光情報がデジタル化(テキスト化や映像化)され、誰もが旅行代理店やツアーガイドなどの専門家が知る情報を、たやすく旅行者が閲覧できるようになってきています。タビマエに観光地の情報は安価かつ手軽に調べる環境が整備されてきています。訪問地の法令、条例や慣習や食品や工芸品といった地域の名産品、地域の人々が大切に想う文化遺産や自然遺産について渡航前に確認をすることで、旅の楽しさは大きく変わります。
しかしながら情報の発信元によって、その情報の信憑性、正確性、真正性を見極めることも難しくなったのも事実です。
2) 旅を終えたら正直なコメントをSNSに投稿し、旅行体験をプロモーションしよう。
タビマエに観光地について調べた情報は、誰かが事前に記事、ブログやSNSに投稿をした内容だったはずです。同様に、未来の訪問者にむけて、より良い現地の滞在の仕方を是非、投稿をしていきましょう。ここで言う「より良い現地の滞在の仕方」とは、これまで紹介をしてきた5つの行動指針をよく考えた内容であるべきです。
具体的には「1.旅先に住む人々に敬意を払い、地球上の私達の共有遺産を大切にしよう」「2.私達の地球を守ろう」「3.地域経済をサポートしよう」「4.安全に旅しよう」「5.旅先の情報に通じた旅人になろう」といった視点で発信をしていきましょう。旅行者の皆さんの情報発信が、持続可能な観光地づくりにつながっていくことは、観光地・事業者・旅行者が連携した持続可能な観光地プロモーション体制づくりにつながることと同様です。また観光地や観光事業者に対してネガティブな評価やコメントについてはSNSではなく、できるだけお問い合わせ先やお客様対応窓口などへアドバイスをしていくことが望ましいと考えます。旅行者・事業者・観光地がより良い観光地を一緒に創っていくという気持ちを持って、建設的でポジティブな方向性につながるコメントを心がけていきましょう。旅行者一人ひとりが、より良い観光地づくりにむけた意識をもって観光地に対する情報を発信していくことが重要です。
3) 写真を投稿する前に写っている人の気持ちも考える配慮を持とう。相手の立場になって投稿をしよう。
スマートフォンが普及する現代において誰もが素晴らしい写真や動画を撮ることができるようになりました。またその撮影した素材を簡単にSNS経由でプロモーションすることができます。一方で意識しなければならないことは、被写体である観光地や地域の人々は、地域の人々が普段から暮らす生活の場所であり、その場所で日々を暮らす一般生活者でもあるという事です。
旅の途中で、特徴的な衣装や風習を垣間見ることは旅の大切な醍醐味でもありますが、それは地域の人々にとっては大切な時間であることを忘れてはなりません。撮影をする際、「寺社仏閣を含む観光客受入施設においては、撮影が許可されている場所や収蔵物なのか?」「被写体が人である場合は、撮影前に写真を撮ってよいか?」等、コミュニケーションを取りながら進めていくべきでしょう。くわえて撮影した写真をSNSへ投稿する場合も撮影時に合わせて確認を取っていくことが大切です。
4) 旅先であなたが知った非営利プロジェクトやコミュニティプロジェクトの取り組みについてSNS等を活用して広めよう。
皆さんが訪れる訪問地は、皆さんが暮らす生活地と同様に様々な社会や環境問題を抱えています。その問題を解決すべく課題を設定し、解決をしようとする非営利プロジェクトやコミュニティに根差したプロジェクトが観光地周辺には多くみられます。また、観光は脆弱な立場にある人々が、比較的手軽かつスピーディーに社会経済のフレームの中に包摂し、一人ひとりをより良い暮らしに転換することができる素晴らしい仕組みでもあります。
具体的には、観光地内や周辺の文化遺産や自然遺産の保護や保全や、二酸化炭素の排出の削減、混雑を改善する分散化に対する取組み、旅行者の行動変容への啓発、観光地における廃棄物やフードロス削減への取り組み、地域の教育レベル向上につながる取り組み、このような活動はツアーや地域貢献を考える革新的な宿泊施設や食事箇所、ツアーオペレーターといった地域事業者からの紹介を通して参加・知ることができます。皆さんが共感するプロジェクトがあれば、その取り組みについてSNS等を通じて、活動の輪を広げていきましょう。
5) 不公正、搾取、差別などがあったらレポートしよう
不公正、搾取、差別を無くすことは、人類の永遠の課題であり、観光セクターにおいても同様です。特に非日常性と季節性を伴う観光事業において、旅行者は自身の常識や根差す価値を基準とした判断が価格、品質やサービス内容に対して、難しいという側面があります。それは売り手側が悪意を持ては高値で品質の低いモノを販売することもできる環境にあるとも言えます。一方で旅行者は生活必需でないことから、非常識な価格交渉等に入ることもあります。地域の事業者の皆さんは「値札などをキチンとつける」、「地域の人々が丹精込めて作った地域の名産品であることを伝える」、「購入が地域の伝統文化を継承することにつながり、支えていることを伝える」等の努力をされている場合、旅行者の皆さんが持つ普段の価値に照らし合わせた上で、その地域を支えていく付加価値を考慮した上での購入判断が大切になると思います。
もう一つの課題は雇用や調達についてです。観光地の多くは季節波動があり、雇用や調達が安定しないことが多々あります。そのような認識を旅行者も共有した上で、地域一次生産者との安定的な調達への努力や、年間を通じた安定的な雇用へ取り組んでいる事業者の取り組みに触れた際には積極的に評価してあげて欲しいと思います。具体的には農業等の一次産業と観光業の兼業のフレームを構築していく地域における6次産業化の取り組みは、引き続き大切な考え方だと思います。また閑散期の雇用づくりは地方部の観光地の課題です。一方で観光産業は中小零細事業者で構成されている、まだまだ脆弱な産業であり、働くものの生活保障や昇進・昇給、DEIB等への取り組みがなかなか進められないことも事実です。くわえて脆弱であるがゆえに職場内外でのパワーハラスメントやカスタマーハラスメントも様々なシーンで発生しています。このようなシーンに遭遇した際には、対象事業者や地域の観光局のお客様相談窓口に通報し、観光セクターで働く人たちを守ることにも旅行者は貢献することが可能です。
また、日本ではあまり見られませんが児童労働や人身売買による搾取労働等についても、世界各国では旅行者が気づいたら通報することが推奨されています。今後、観光人材不足が懸念されている中、外国人労働者や未成年労働者等の就業にあたって日本においても留意が必要な観点だと考えます。
次回は、これまで論じてきた「UNWTO国連世界観光機関が提案する責任ある旅行者:レスポンシブル・トラベラー像」の“まとめ”と、サスタビ20か条とUN TOURISM レスポンシブル・トラベラーの共通項」について考えてみたいと思います。
出典:UNWTO世界倫理委員会制作より筆者作成
https://webunwto.s3.eu-west-1.amazonaws.com/s3fs-public/2020-07/Tips-for-Responsible-Traveller-WCTE-EN.pdf
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