何をどうすればサステナブル?「フォーラム」として基準をみる

なにをどうすれば「サステナブル」?

地球規模の環境問題や社会的課題を前にして、サステナビリティ(持続可能性)に関心をもつ人びとが増えてきています。たとえばマイバッグを活用する、家庭でのフードロスの削減を意識するといった、日々の日常生活や購買行動においてできることを少しずつ実践する人も増え、そして企業や団体の活動においてもサステナビリティへの配慮が「当たり前」となりつつあります。

旅や観光においても、オーバーツーリズムの問題や、長距離移動におけるエネルギー問題や二酸化炭素排出の問題を意識し、地球環境や訪れた先の地域社会/自然環境に配慮した旅のあり方を検討する動きが業界や旅人の間で広がっています。サステナビリティに配慮した宿泊施設や移動手段を選択できるようになってきたり、自然や地域文化と触れ合うイベントやアクティビティも展開してきていますね。

しかしながら、みなさんふと思ったことはないでしょうか。「サステナブルな●●ってたくさんあるし、選択肢やすべきこともたくさんあるけど、あれもこれもサステナブルと言われて逆に「何がサステナブルなのか」がわからない!」といったことを。

たとえばサスタビでも、「サステナブルな旅」の実践のヒントとして、「サスタビ20ヶ条」を紹介しています。一度その一覧を見てみましょう。

  • 01 公共の移動手段を活用しよう
  • 02 人気の場所以外の新しい見どころを発見しよう
  • 03 事前に旅先の歴史・文化をしらべておこう
  • 04 徒歩・自転車で、ゆっくり旅先の土地を楽しもう
  • 05 マイバックを持参しよう
  • 06 マイボトルやカトラリーを持参しよう
  • 07 アメニティも持っていこう
  • 08 自然体験型プログラムに参加してみよう
  • 09 交流型体験プログラムに参加してみよう
  • 10 在来種を知ろう
  • 11 地元食材を使ったレストランに行こう
  • 12 地域の文化活動に参加してみよう
  • 13 食べ物を無駄にせず食べ切ろう
  • 14 節電や節水に気を付けよう
  • 15 旅先で暮らす方や自分自身の健康を守ろう
  • 16 伝統工芸品を応援しよう
  • 17 お土産は地元で作られたものを購入しよう
  • 18 歴史館や博物館などに訪れよう
  • 19 自然環境や地域社会に配慮したサステナブルな宿泊施設を選ぼう
  • 20 旅先で発見したサステナブルなサービスを友達とシェアしよう

詳しくは「サスタビとは」のページをぜひご覧ください!

たくさんありますね。そして、内容も多岐にわたっているように思います。マイバッグやカトラリーを持参して「ゴミや資源を無駄にしないこと」に関する項目もあれば、伝統工芸品を応援するといった「地域の文化交流」に関するものもあります。「歴史館や博物館を訪れよう」という内容や、「新しい見どころを発見しよう」という項目もあります。

自然やエネルギーや資源に関わるものもあれば、移動の方法に関わるものもあり、また博物館に行くといった文化的な事柄もあります。サステナビリティはこのように文化・自然・社会のあらゆることと関わり合っているのですが、じっさいに一覧で項目を見てみると、「これはどういう点でサステナブルなの?」といった疑問を抱いてしまうこともあるかもしれません。

「なにをどうしたらサステナブルなの?これって本当にサステナブルなの?どうサステナブルなのかわからない!何から始めていいかわからない!サステナブルの基準がよくわからない!」

そのような声があるかもしれません。今回の記事で考えたいのは、「サステナブル」の基準や種類がたくさんあることをどう考えるか(どう捉え直すか)という点です。

明確な基準はある?

持続可能性をめぐっては、さまざまな認証基準や評価制度が整備されつつあります。

などが代表的なものです。それぞれ、サステナビリティの数値的な基準や行動指針が示されています。何が果たされればサステナブルな観光開発となるのか、いかなる基準を満たせば持続可能な観光といえるのかについて、世界で共有されるべき認識がまとめられているといえるでしょう。こうした基準のおかげで、持続可能な社会の実現に向けた具体的な施策や国際社会のあり方を考えることが可能となっています。持続可能な社会とはどのようなもので、具体的に何を心がければ貢献できるのか。基準や指標は目指すべき目標を可視化し、背中を押してくれる重要な役割を担っています。

しかし、そうした基準を私たち一人ひとりがしっかりと読み込んだり、何か行動するたびにそれらと照らし合わせたりすることは大変です。また、そもそもこうした基準は複数存在するので、今度は「どの基準にしたがうべきか」という点が悩ましくなってしまいます。

別の記事でもすでに紹介しましたが(「読みこなし、読み替える:サステナブルの基準の多様化へ向けて」)、基準はときに「競争」や「排他」をうみ出してしまい、「基準をクリアするために試行錯誤をしたり、みんなで協働的に目標を乗り越えようと努力したりすること」という本来の「基準の目的」が見失われてしまう危険も存在します。

サステナブルな社会の実現はみなで手をとり合ってゴールを目指すべき二人三脚やリレーであるはずなのに、いつの間にか個人短距離走のレースになってしまうのです。サステナビリティは、資本主義的で競争的な社会がもたらしてきたことに対する危機感から生まれてきた概念であったはずです。それなのに、サステナビリティを追求するその仕方が資本主義的で競争的であったら、根本的な問題は何も変わらなくなってしまうでしょう(前掲記事から引用)。

正解があるのではない。あるのはたたき台だけ。

「どうしたらサステナブルな旅になるのか」。その答えはきっと、地域ごとに個別具体的に存在しているはずですし、状況に応じて変化するものなのではないでしょうか。地域がこれまで歴史的・地理的に培ってきた社会環境や自然環境がありますし、そのうえで地域社会には多様性があります。そこにさらに、出身の異なる多様な旅人が多様な目的のもと、様々な季節や時期にやってきて、その都度地域と関係性を結びなおします。またその多様性は、旅そのものの魅力を作り出してきた要素にほかなりません。

「サステナブルな旅」の基準も、そのような「多様性」や、状況ごとに臨機応変に変化するという視点を組み込んだものとして検討されていく必要があると思われます。当然、基準もつねに暫定的な「たたき台」として、つねにバージョンアップされていく必要があるでしょう。

テンプルからフォーラムへ

このとき参考になるかもしれない視点として、テンプルとしてのミュージアムからフォーラムとしてのミュージアムへ」という、博物館・美術館の展示をめぐる一連の議論から導き出されてきたアイデアを紹介したいと思います。

テンプルとしてのミュージアム

博物館といえば、世界各国の珍しい物品が陳列されたり、地域博物館であればその地域の民具や生業、祭礼などが展示・解説されたりする場所としてイメージされますね。博物館のもつ社会的機能は一般的には、「文化」を「収集」し、「保存」「調査研究」するとともに、その成果を「展示」「発信」することに置かれています。

たとえば日本の「博物館法」では次のような定義がなされています。

博物館とは,歴史,芸術,民俗,産業,自然科学等に関する資料を収集し,保管(育成を含む.以下同じ)し,展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーション等に資するために必要な事業を行い,併せてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(昭和26(1951)年制定、令和4(2022)年改正)

また、ICOM(国際博物館会議)では、

博物館は、社会に奉仕する非営利の常設機関であり、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈し展示する。一般に公開された、誰もが利用できる包摂的な博物館は、多様性と持続可能性を促進する。倫理的かつ専門性をもって、コミュニティの参加とともにミュージアムは機能し、コミュニケーションを図り、教育、楽しみ、考察と知識の共有のための様々な体験を提供する(2022年8月制定。ICOM日本委員会HPよる邦訳)

という説明がなされています。「楽しみ」や「レクリエーション」といった言葉も定義に含まれていますね。

モノを「保存」し「展示」するという基本的な博物館の役割と機能は、しかしながら近年再考を求められています。わかりやすく言えば、「観るべきものは何であり、どのような展示がなされるべきであるか」の決定権を博物館側のみが握ってきた歴史的経緯が問われ、展示をより社会に「開いた」ものへと変えていくべきなのではないかという議論が進められてきたのです。

博物館側(学芸員)によって「展示される価値のあるもの」のみが選定・取捨選択され、博物館の来館者はそうして価値を保証された「観るべきもの」を博物館の指示通りに確認して回る。それはさながら、絶対的な価値を顕示する「神殿」を人びとが仰ぎ見るような構図です。

キャメロン・ダンカンという美術史家は1970年代から、そのような「神殿(テンプル)」としての博物館のあり方を刷新する必要性を議論してきた代表的な人物です。

その背景には、博物館における「展示する側」と「展示される側」の不均衡なパワーバランスの問題があります。博物館(博物学)は、歴史的には、「西洋」による、西洋から見た「異国」の国々や地域の「珍品収集」と「展示」に端を発しています。西洋から非西洋へと博物学者が赴き(初期は博物学者本人ではなく、冒険家や収集家によってですが)、珍しいものや価値のあるものを一方的に選定し持ち帰る。そしてもともとその事物が存在した国や地域の人々の目の届かぬ・声の届かぬ場所で、博物館が一方的に展示方法や説明文句を決定する。そのような、植民地主義とも深く関係する非対称な関係性が存在してきたのです。

フォーラムとしてのミュージアム

「何を展示するか(しないか)」「どのように展示するか」「何が価値のある品か」を博物館側が一方的に決定し、来館者もまたその保証された価値を受容して満足するという「テンプルとしてのミュージアム」のあり方を脱却するために、美術史家のキャメロン・ダンカンが提示したもうひとつのミュージアムのあり方が、「フォーラムとしてのミュージアム」というアイデアです。ダンカンは次のようにテンプルとフォーラムを区別します。

フォーラムとは議論が闘い交わされる場所であり、テンプルは勝者が居座る場所である。前者はプロセスであり、後者は結果である」(To underline the point and to summarize for the moment, the forum is where the battles are fought, the temple is where the victors rest. The former is process, the latter is product. )(Duncan, 1971:21)

博物館はすでに決定され保証された価値を見に来る場所ではなく、その場所において人びとが対話し、議論し、新しい価値やアイデアを生み出していく創発的な場所となるべきであり、博物館という場所がそのような「プロセス」そのものとして広がっていく必要性があるということですね。

それが、テンプルとしての博物館が維持してきた「展示する側と展示される側の権力関係(そして来館者は前者に加担してきた)」を解きほぐし、沈黙を強いられてきた人びとが自ら語り、そして来館者も交えてそこでディスカッションと相互理解が始まっていく重要なチャンスを作り出すために必要なアイデアです。

サステナビリティの基準や定義も「フォーラム」として

少々強引な展開をしますが、「何がサステナブルなのか」「何をすればサステナビリティへの配慮になるのか」といった事柄もまた、「行政や世界機関が既に決定した価値」を私たちが追随するだけの「テンプル」型の理解を超えて、一人ひとりが対話とディスカッションのために声やアクションをあげていく「フォーラム」型で話し合われていく必要があるものだと思われます。

「何がサステナブルであるのか」は、その場の状況や環境のなかでつねに変化しうるものです。海と山では必要な行為や注意すべきことも変わるでしょう。絶対的な基準やルール、「これをすれば万事サステナブル」といった答えはありません。

基準はつねに「たたき台」なのであり、そしてもっとも重要なのは、私たち一人ひとりがそれを叩き続け、鍛え上げようとし続けることにほかならないのです。

フォーラムとしてのサスタビへ

サスタビもまた、「フォーラム」として存在していく必要があるでしょう。何がサステナブルなのかを考え、決定するのは私たちではありません。もちろんそのためのアイデアや提案を提供するために日々活動していますが、私たち自身も「何がサステナブルなのか」を試行錯誤し模索しつづけています。この記事も、スポット登録も、「テンプル」として展示・公開されるものではなく、「たたき台」として何かの出発点になっていくことを望んでいます。

またサスタビでは、定期的に「街歩き」イベントやサステナブルなアクティビティ体験を企画し、サスタビメンバーに加えてサスタビに関心のある方も一緒になって楽しむ場を作ろうとしています。これまでも埼玉県草加市での街歩きや、渋谷の街歩き、墨田川の納涼船体験などを実施し、街や体験のサステナブルな要素を楽しみながら、「サステナブルな旅」について考えることに取り組んできました。

サスタビはこのような取り組みを通じて、サステナブルな旅について一緒に考える「フォーラム」としてのコミュニティを作っていきたいと考えています。サステナブルな旅とは何か。それは地域ごとにどのように異なるのか。旅にはどのような可能性があるのか。サステナブルな旅を広げていくためには、そうした点について意見と考えを交わし合う場が必要です。

このサスタビのサイト自体もそのような「フォーラム」として、あるいはコミュニティとして存在していくことが理想的です。「サスタビスポット」では、みなさんが「サステナブルだ」と感じた「サステナブルな場所」や「サステナブルなアクティビティ」を投稿してもらうことが可能です。そしてみなさんがそれぞれ共感したものや興味を持ったイベントやスポットに実際に足を運んでもらったり、その感想をシェアしてもらったり(ぜひ「サスタビ」をメンションしつつ)してもらうことができたら、フォーラムとしてさらに前に進んでいくことができるでしょう。

参考文献

  • Duncan, Cameron (1971). The Museum, a Temple or the Forum. CURATOR: The Museum Journal. 14(1):11-24 (https://doi.org/10.1111/j.2151-6952.1971.tb00416.x)
  • 吉田憲司(1999)『「文化」の発見』岩波書店。

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