サスタビを知る「サステナブルな旅って、なに?」―そんな素朴な疑問について、さまざまな視点から考えます。

読みこなし、読み替える:サステナブルの基準の多様化へ向けて

読みこなし、読み替える:サステナブルの基準の多様化へ向けて

持続可能性をめぐっては、さまざまな認証基準や評価制度が整備されつつあります。よく知られる国連の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の17の開発目標や、国際非営利団体であるグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(Global Sustainable Tourism Council)が定める、観光産業界向けの持続可能な観光基準(GSTC-I:Global Sustainable Tourism Criteria for Industry)および観光地開発向けの同基準(GSTC-D:Global Sustainable Tourism Criteria for Destination)などが代表的ですね。

そこでは、持続可能な観光(地)の開発において遵守すべき数値的な基準や指標、重視すべき目標が明確にされています。何が果たされればサステナブルな観光開発となるのか、いかなる基準を満たせば持続可能な観光といえるのかについて、世界で共有されるべき認識がまとめられています。

こうした基準のおかげで、わたしたちは持続可能な社会の実現に向けて具体的な方策を考えることが可能となっています。持続可能な社会とはどのようなもので、具体的に何を心がければ貢献できるのか。基準や指標は目指すべき目標を可視化し、背中を押してくれる重要な役割を担っています。

排他と競争化のリスク

しかしながら、基準はときにデメリットを生みます。例として、ここでは「排他」と「競争化」という2つを挙げてみたいと思います。

まずは排他のリスクです。基準や目標は、その水準に満たない人びとや取り組みを「遅れている」と認識させるきっかけになってしまう危険があります。本来ならば、基準に達しないことそれ自体は何ら問題ではなく、重要なのはその基準をクリアするために試行錯誤をしたり、みんなで目標を乗り越えようと努力したりすることのはず。ですが、ときにそれは、「あの人は基準をクリアしていないからダメだ」といった排他的な他者評価に容易に横滑りしてしまいます。

こうした考え方は、競争化に行き着く危険があります。「自分は努力して基準をクリアした。まだクリアしていない人たちは怠けている」というふうに。競争は、たとえば価格競争のように、競り合えば競り合うほど良い結果に至ったり、技術が向上したりする側面も確かにありますが、一方で、それは本来であれば協働的になされるべき努力を個人化してしまいます

サステナブルな社会の実現はみなで手をとり合ってゴールを目指すべき二人三脚やリレーであるはずなのに、いつの間にか個人短距離走のレースになってしまうのです。

サステナビリティは、資本主義的で競争的な社会がもたらしてきたことに対する危機感から生まれてきた概念であったはずです。それなのに、サステナビリティを追求するその仕方が資本主義的で競争的であったら、根本的な問題は何も変わらなくなってしまうでしょう。

正解はひとつではない

「サステナビリティとは何か」「どのような持続可能性を重視するか」といった点に対する考え方は多様にありえるものであり、地域や人びとがそれぞれのやり方でこれまで培ってきたものだと思います。ならば、サステナビリティをめぐる「違い」あるいは多様性を、何らかの「ひとつの基準」へと統合してしまうことは、問題含みかもしれません。

サステナブルな旅とは何か。何をすればサステナブルな旅となるのか。この問いも同様だと思います。

そもそも旅は、「違い」や「多様性」に対する前向きな気持ちを出発点とした営みだったのではないでしょうか。旅とは、正解がひとつではない歩みを進める営みにほかならないのではないでしょうか

知らなかったことをもっと知りたい、見たことのない景色をもっと見たい、初めてのことをたくさん経験したい……旅の根底には、差異に対するポジティヴな動機がきっと存在していることでしょう(もちろん、「異文化」への偏見に満ちたまなざしの生産など、ネガティヴな側面も無視することはできませんが)。

サステナブルな旅をひとつの定義にまとめようとしたり、全世界の全ての旅人に等しく適用できるような指標や基準を設定しようとするのではなく、全世界にいる旅人のひとりひとりが自ら考え、発信していくような、多様化を許容する仕組みづくりが重要なのだと思います。

たたき台として:読みこなし、読み替える

ガイドブックやレビューは、旅において非常に参考になりますし、こんにちでは旅の事前にインターネット等で目的地や宿泊先について情報を得ることは当たり前になってきました。

他方で、ガイドブックや事前に得られる情報は、つねに正解というわけではありません。それは「指針のひとつ」なのであり、それらを組み合わせながら自分だけの旅を作っていくのは、旅人であるあなた自身にほかなりません。旅が上手い人は、きっとガイドブックを読みこなし、それを自分の経験と交えながら読み替えることをつうじて、自ら旅を創造しているのだと思われます。

わたしは、サステナブルな旅をめぐる「基準」も、ガイドブックのような存在としてあるべきなのかもしれないと考えています。基準を正解とするのではなく、ガイドブックのように「読みこなし、読み替える」対象として捉えなおすことが重要です。

基準や指標は確かに重要で、必要不可欠ですが、旅人は国際機関や組織によって「与えられた基準」にそのまま従う受動的な存在としてではなく、その基準を「たたき台」にして、それを読みこなし、旅人のひとりひとりが自分の経験や素直な気持ちに基づいてそれを主体的に読み替えていくことが大切なのではないでしょうか。基準や指標はサステナブルな旅と社会の実現を支える骨子となるものですが、そこに血肉を与えていくのはひとりひとりの旅人なのです

その結果として、旅人や社会にゆるやかに共有される共通認識のようなものが、基準なのだと言えるかもしれません。基準は人を縛ったり、規定したりするものではなく、迷った時の指針に、そしてそこから新しく何かを創造していく際の足掛かりとなるものでしょう。

サステナブルな旅人とは何か。その基準はきっと旅人の数だけあり、またそれは経験に応じてつねに修正され変わっていくものなのかもしれません。旅人がそれぞれ考え、発信し、旅人同士で一緒にサステナブルな旅を考えていく。その営みが、サステナブルな旅を作っていくのだと思います。

サスタビでは、みなさんが考える「サステナブルな社会」「サステナブルな旅(旅人)」のアイデアを募集しています。また、その発信が可能となるようなプラットフォームをFacebookグループのほか、TwitterInstagramにて準備しています。わたしたちサスタビも、旅人のみなさんと一緒に考えつづけていきたいと思っています。ぜひ、みなさんの考えも教えてください。

この記事を書いた人

石野 隆美

立教大学大学院観光学研究科、博士課程後期課程に在籍中。専門は文化人類学、観光研究。北海道札幌市出身。論文に「ツーリスト・アクセス――「アクセス」概念が拓くツーリスト像の検討に向けた理論的整理 」(『観光学評論』9(2)、2021年)など。また分担執筆に『よくわかる観光コミュニケーション論』(ミネルヴァ書房、2022年)、『アフターコロナの観光学――COVID-19以後の「新しい観光様式」 』(新曜社、2021年)など。

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