いま、旅の在り方は多様化し日々求められるニーズも大きく変化しています。SDGsにもうたわれている「だれひとり取り残さない」社会を目指すことは旅行・観光分野においても重要で、取り組みが進められています。
障害の有無、年齢、国籍、LGBTQ、宗教……旅における障壁をなくすことを目的としたツーリズムの中から、今回はダイバーシティやインクルージョンに関わる「アクセシブルツーリズム、ユニバーサルツーリズム、インクルーシブツーリズム」の3つにスポットをあてそれぞれの概要や違い、取り組みなどを見ていきます。
ユニバーサルツーリズム=アクセシブルツーリズム?
だれもが楽しめる旅を表すツーリズムに「ユニバーサルツーリズム」と「アクセシブルツーリズム」があります。ユニバーサルツーリズムとは、高齢や障害等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめることを目指す旅の在り方。
高齢者、障害者、子ども、妊婦などに対し観光地や宿泊施設、公共交通機関や施設などにおいて障壁をなくす(=バリアフリー設計を推進)ことや、言語や習慣の異なる訪日外国人に対する多言語表示やツールの導入なども含まれます。
一方、アクセシブルツーリズムとは障害者や高齢者など、移動やコミュニケーションにおける困難さに直面する人々のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組みのこと。「あれ、なんだか似ているな……」と感じるかと思います。実際、同様の意味で用いられることも多い2つのツーリズムについて、それぞれの成り立ちや背景を知ることが違いを理解するヒントとなります。
ユニバーサルツーリズムは、いわゆる「ユニバーサルデザイン」など物理的な環境を整備するハード面が発展してきたことに由来する日本独自の言葉。対してアクセシブルツーリズムは「ACCESSIBILITY」(アクセスしやすい、利用しやすい)に由来した言葉であり欧米で一般的に用いられている言葉。移動やコミュニケーションなどに困難を持つ人々へ寄り添うことはアクセシブルツーリズムと同様ながら、当事者の主体性に重きをおいたもので、自立支援を中心とした欧米の考え方に由来しています。
インクルーシブツーリズムとは
インクルーシブツーリズムとは「あらゆる形態の疎外された人々や組織が観光の倫理的な生産または消費とその利益の享受に関与し参画する変革的な観光」と定義され、ユニバーサルツーリズムやアクセシブルツーリズムの概念を含みつつ従来排除されてきたマイノリティの人々や観光の経済や社会的な側面にも「包括的」に取り組むもので、以下の7つから構成されます。
インクルーシブツーリズムの概念は、2013年ミャンマーで開催された世界経済フォーラム(WEF)東アジア会議で提唱され、地域やコミュニティへの公正な利益配分や女性の社会進出などに言及されたそう。また、「疎外されたきた」人々や集団は少数民族、一次産業に従事する労働者、LGBTQ、貧困層などその地域によって事情が異なることをおさえておきましょう。
DEIなツーリズム事例や取り組み例
ここからは、具体的な取り組みから3つのツーリズムについて見ていきます。
大阪・関西万博のユニバーサルツーリズムプロジェクト「LET’S EXPO」
2025年4月13日から開幕する大阪・関西万博の会場とオンライン上でアクセシブルサポートが実施されます。万博に”簡単に行けない方”の参加を実現するユニバーサルツーリズムプロジェクトLET’S EXPOは、およそ1,200万人の身体に不自由を抱える方(要支援要介護認定を受けている方、障害者手帳をお持ちの方)のうち3%にあたる35万人の方々にリアルおよびバーチャル両面で万博を楽しんでいただく事を目指し展開。
会場内サポートでは、全国から集まった延べ1,000名のボランティアスタッフとともに「車いす移動サポート」「視覚障がいのサポート」が、バーチャル体験サポートでは現地訪問が難しい方向けにバーチャル万博のオンラインツアーが提供される予定となっています。
奄美大島のバリアフリーなリゾート「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」
奄美大島にある「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」は、障害者も健常者も共に安心・安全にマリンスポーツを楽しむことができるマリンアクティビティリゾート。宿泊施設、自社船、プールすべてがバリアフリー設計で専門スタッフによるサポートも受けられるそう!
シュノーケリングやSUPなどの人気のマリンアクティビティから、ヴィラの目の前の海岸で手軽に楽しむビーチダイビングから外洋で行う本格的なダイビングまで、サポートスタッフの動向や水陸両用の車いす「ヒッポ」や簡単な着脱の「ユニバーサルウェットスーツ」など専門装備もあるのでどなたも海を存分にエンジョイできます。
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これからの旅は「すべての人と共に」
今回着目した3つのツーリズムをめぐっては、確実に追い風が吹いています。例えば、観光庁の2024年度予算では新規事業として「地域一体となったインクルーシブツーリズム促進事業」に8000万円を計上。観光のステークホルダー全体でベジタリアン・ヴィーガン、ムスリムなどの多様な訪日外国人へ向けた環境整備が始まっています。
また、国内におけるユニバーサルツーリズムの市場規模においても2035年まで市場規模は拡大が見込まれている他、潜在市場規模は現状の1.4倍となるとされているなどの可能性も秘めています。
すべての人ともに、旅を楽しむことが当たり前となる時代がとなることをより一層期待したいですね。
参考:
ユニバーサルツーリズムの推進 | 新たな交流市場の開拓 | 国内交流拡大戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁
アクセシブル・ツーリズムとは・観光用語集 – JTB総合研究所
観光庁の2024年度予算が決定、前年度比1.6倍、デジタル活用高度化は6倍、地方インバウンド誘客1.7倍、ガストロノミー等の新規事業も|トラベルボイス
【寄稿 学術論文】インクルーシブツーリズムの概念を含むユニバーサルツーリズムの更なる概念提示 JTBトラベル&ホテルカレッジ講師・旅のユニバーサルデザインアドバイザー 竹内 敏彦


フリーのライター/エシカル・コンシェルジュ。学生時代、100本以上のドキュメンタリー映画を通し世界各国の社会問題を知る。事務職を経て独立後、ソーシャルグッドに関連する記事を執筆。都会暮らしからはじめるエシカルな暮らしを実践中。
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