元国連世界観光機関職員
㈱JTB総合研究所 グローバルマーケティング室長
熊田 (Jack)順一
先月に引き続き「ツーリズムを楽しむ際に今日からみんなに意識して欲しい6つの考え方」を紹介していきます。
1.旅先に住む人々に敬意を払い、
地球上の私達の共有遺産を大切にしよう
2.私達の地球を守ろう
3.地域経済をサポートしよう
4.安全に旅しよう
5.旅先の情報に通じた旅人になろう
6.デジタルを賢く使おう
今回は6つ基本的な骨子の2つ目、「私たちの地球を守ろう」です。
私達の地球を守ろう
ここから、骨子の2つ目である「私たちの地球を守ろう」について解説します。
1)森の守護人となったつもりで、自然資源、環境への影響を軽減しよう。とりわけ森や湿地を保護は重要だ。
Jack解説: 森の守護人(ガーディアン)っていわれても何からしたらよいか…。英語をそのまま訳しているので少し構えちゃうかもしれませんが、そんなに難しいことを言っているわけではありません。動物にとって森林、草原や湿地は、人間にとっては町であり、住居であり、食事の場所であり、寝室にあたります。
その場所を支えているのが樹木や植物といった言葉を発しない生き物達です。二酸化炭素吸収の観点だけでなく、「生き物たちのゆりかご」として樹木や植物が繁殖する場所を守るということは、生き物たちの居場所を守るということなのだと考えると自ずと、その場所を訪れた際の行動が変わってくるのだと思います。
2)野生動植物の暮らしとそれらの生息地を尊重しよう。動物を利用したアトラクションは残酷と感じる。
Jack解説: 動物を観察するツアーは世界各国で大人気ですね。世界的に見ればガラパゴス島、アフリカ・ケニアやタンザニアのサファリツアーやオーストラリアやハワイのホエールウォッチングツアーなどが有名ですね。日本なら長野・地獄谷のニホンザルや、冬季に越冬するタンチョウヅルが観察できる釧路湿原などが有名です。
動物が生息する場所:サンクチュアリは人のちょっとした行動・活動で簡単に壊れてしまう程、繊細なバランスの上に成り立っています。できるだけ持ち込まず、持ち出さず、人の影響を最小限に。野生のままの環境をありのままに楽しむ気持ちが、旅行者には大切なのだと思います。動植物と残念ながら観察できなかったとしても。
動物を利用したアトラクションは身近なところに多くあります。誰もが思い浮かぶのはシャチやアシカなどの海獣を使ったショーやサーカス、東南アジアで盛んなエレファント・ライド(象に乗ったサファリ)、コアラやイルカをはじめとした珍しい動物を抱いたり触ったりした写真撮影等といったプログラムです。「動物福祉の観点で動物たちにとってストレスがないか?人間が同じことをされたらどうか?」といった観点で、動物を観察する距離の規定や回数制限する等、事業者においても対応方が改善されつつあります。
コロナ後の行動変容で観光活動が野外志向となる中で、野生動物観察と関連させたプログラムのルールを子供の頃から理解していく教育も含めた社会的な取り組みも重要になっていくでしょう。また自然地域だけでなく「ふくろう・カワウソ等のカフェ」、動物園、水族館や植物園などの野生動物を活用した都市部のアトラクションのあり方を考えていくことも重要です。
3)硬木(マホガニー等)の絶滅危惧種の動植物で作られていない製品を購入しよう。
Jack解説:見過ごされがちなのは、言葉を発しない貴重な植物や樹木への配慮です。山岳地域に自生する珍しい高山植物を勝手に採取することは、当然にやってはいけないことですが、デジタル時代の昨今、採取をしなくとも、それら希少種の自生地をジオタグ付きで写真でSNSへアップすることも、違法採取につながる可能性があり、十分に留意しなければなりません。
また地域の工芸品に使われている材料となる木材や植物、貝殻等の絶命危惧種が使われていないか、あるいは観光施設や宿泊施設で香りの演出をする場合も、その貴重な香木やインセンスや持続可能な調達がされているものなのか。そのような調達になっていなければ利用を遠慮するなどの行動も責任ある旅行者には求められているアクションなのだと思います。
4)保護地域では、許可された場所にしか立ち入らないようにしよう。立ち入り禁止区域にお金を渡して連れて行ってもらうような行為は慎むべきだ。
Jack解説:昔の話になりますが、私がタンザニアのサファリに行った際に、どうしても最終日までチーターを観ることができませんでした。残念そうに感じてもらったのでしょうか、サファリ・ドライバーさんが規制ルートを越えてチーターが生息している場所に連れて行ってくれました。ドライバーさんはお客様の喜ぶ顔を見たくてリスクを冒して対応をしてくださったのだと思います。お金は渡していませんでしたが、今でも心に引っ掛かる出来事です。
旅行者にとってみれば1回だけであっても、観光地からしたら毎日の話につながります。このように多くの観光地が、小さな悪い影響が積み重なり、保護地域にせざるを得なかったのだと思います。保護地域は、昔は存在しなかったのです。誰もがその場所にアクセスできた時代が必ずあります。ただ観光事業や発展する経過の中で、その場所が希少性や特異性を核にして人間が自身の欲や興味を高めたことで、大きな人流が形成され、それを設定しないと傷んでしまうとの危機感から先人が設定をした場所が保護地域なのだと思います。
よって保護地域は「立ち入りを許可できない場所」ではなく、「きちんと人流を管理していかなければいけない場所」なのだと考えます。その管理にかかる人的、資金的な運営負担をその地域や事業者だけに任せるのではなく、社会や消費者である旅行者も応分に負担をして次世代に引き継いでいくことが大切なのだと考えます。
5)ゴミ、使い捨てプラスチック製品、水やエネルギーの消費をできる限り事前に計画し、二酸化炭素排出量を削減しよう。
Jack解説:「日々の暮らしの中で出すゴミとは一体何か?」を観察してみてください。衛生、保存、シェア、軽量化、利便性といった観点を向上させるために多くの「1回利用で捨てられる製品/シングルユース・ディスポーザブル・プロダクト」が存在しています。
今一度、旅行者自身が問いかけるべき問いは、将来の世代に暮らしの基礎となる持続可能な地球環境を引き継いでいくことを考えた際に、「衛生、保存、シェア、軽量化、利便性」といった現代人の価値・嗜好の基準を修正し、少しでも資源消費やゴミの発生を抑制することにアクションが取れないものでしょうか? 不織布を利用したウェットティッシュ、持ち帰りのコーヒーカップ、ミネラルウォーターのペットボトル、小分けのキャンディやお煎餅等、コンビニのおにぎり・お弁当等、今は当たり前のように利用・消費しているライフスタイルも、ちょっと不便かもしれないけど旅をする時にこそ、再考していくことも大切なのだと思います。
また移動にあたっては二酸化炭素の排出をできるだけ少なくすることを考慮することも重要です。「Flight Shaming : 飛び恥」のような少し極論的な動きもありますが、二酸化炭素の削減に持続的に取り組んでいる航空事業者も含めた運輸事業者を旅行者は購買・消費活動を通じて応援できる存在でもあります。事業者の二酸化炭素削減への取り組みを、消費を通じて応援していく姿勢も責任ある旅行者の大切な要素だと考えます。
6)旅先にはよい印象以外、できるだけ何も残さないようにしよう。
Jack解説:何も残さないとは、「旅行者を起因とした悪い影響のこと」を指しています。立入ってはいけない場所に踏み込んでしまう影響、採取してはいけないものを持ち去ってしまうこと、旅行者が出すゴミ、遺跡や文化財に対する落書き、異文化を持ち込んでしまうことで地域の文化が変わっていくこと、観光地に住んでいる住民における観光客に対する悪い印象等です。
一方で良い影響は何かと考えれば、自然保全活動に観光地で関わったり、地域の自然保全活動を進めるプロジェクトに寄付をしたり、守らなければならない動植物や生態系に対する知識を深め、その重要性を周りの人々に伝え・教えて行ったりすることなのだと思います。その源泉となるがその地域に対する「よい印象」をその観光地に対して抱くことなのだと思います。
「友人の家に招かれた時、その家の慣習やもてなしに身を任せるように、訪問する場所に対してリスペクトをもって過ごすこと。それは自然地域の中でも同じだ」と考えてみると、みなさん自然に振舞えるのではないでしょうか?子供の頃にお父さんやお母さんから、教えてもらった社会のルールと意外に近しいものがあるのではないかと思います。
次回は「3.地域経済をサポートしよう」です。
出典:UNWTO世界倫理委員会制作より筆者作成
https://webunwto.s3.eu-west-1.amazonaws.com/s3fs-public/2020-07/Tips-for-Responsible-Traveller-WCTE-EN.pdf
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