「マクドナルド」と社会の関係
みなさんご存じ、マクドナルド。最近食べましたか?
1955年にフランチャイズ方式(後述)にて第1号店を出店したマクドナルド。その後またたくまに成長をとげ、世界100か国以上に数万件もの店舗を保有する一大チェーン店となっています。もはや知らない人はいないほどでしょう。
このマクドナルドの運営に特徴的に現れている「ある考え方」が、こんにちの社会全体に浸透しているのではないか――社会学者ジョージ・リッツァはそのように考え、「社会のマクドナルド化」という概念を発表しました。
その「ある考え方」とは、効率性や回転率を追求する「合理化」です。
社会のマクドナルド化。その変化について一歩立ち止まって考えてみることは、食やサービスのサステナブルなあり方を想像するヒントになります。ということで、今回の記事では「社会のマクドナルド化」を解説します!
マクドナルドの新しさ
合理的な運営のための工夫
少し、マクドナルドの歴史を振り返ってみましょう。
1937年、マックとディックという2人のマクドナルド兄弟は、カリフォルニア州パサディナにてひとつのレストランを開業しました。
そのレストランの営業の仕方は、当時のふつうのレストランとは一線を画していました。ふつうの飲食店におけるサービスはひじょうに個人的なもので、いうなれば「常連さん」と「馴染みの店主」という関係性が主たるものでした。メニューも柔軟で幅広く、客も長居することが半ば当たり前。料理法も「伝統的」なもので、職人のような料理人が熟練の技術を用いて料理をつくっていました。
そうした状況にあって、マクドナルド兄弟の会社が運営していたレストランは異彩を放っていました。その店の基本姿勢は「迅速」「ボリューム」そして「低価格」。狭い店内で客の多様な要望を聞き入れていては混雑や待ち時間の増加が生まれるため、メニューはかなり限定されたものに。客に対するサービスも常連–店主のような個人的関係のようなものではなく、一律のマニュアルによって定められた形式的な作法にもとづいたものでした。すべては、「速く」「安く」かつ「満足」してもらうため。
「ファストフード」の原型ですね。
そしてマクドナルド兄弟の革新的なアイデアがもっともあらわれていたのは、料理法の改革でした。新しいアイデアとは、「分業」、「マニュアル」「作業ライン方式」の導入です。
まず彼らがおこなったのは、分業体制を敷くことでした。「焼く人」「混ぜる人」「計る人」「揚げる人」「盛り付ける人」というかたちで「料理という一連の工程」を分解し、それぞれに担当者をつけたのです。それにより、従業員は一度に覚えるべき仕事内容がとても少なくなり、新人社員でもすぐに作業ラインに入ることができるようになります。また、一人一人の仕事は単純な反復作業なので(それはそれで集中力がもたないかもしれませんが)、全体としての作業効率のアップが期待されました。
また、従業員の業務マニュアルや規定をしっかりと作ったことも、マクドナルド社の特徴でした。キッチンや会社に初めてやってきた人でも、仕事内容を「手っ取り早く」覚えることができるようにするためです。最初に書いたメニュー制限もそれが理由です。料理の工程を分解することができるメニューや、新人でもすぐに覚えることができるようなメニューに限定されていたのです(ハンバーガーやフライドポテト、ドリンク等々)。そして客に提供する器も「紙」が主たるもので、ドリンクのコップや、バーガーやポテトの包みはすべて食後に捨てられるため、従業員が皿洗いをする必要もなくなりました。
こうしたことは、一言でいえば「合理化」の徹底だといえるでしょう。それが、マクドナルドが目指したものにほかなりません。「社会のマクドナルド化」の重要な特徴です。
チェーンとフランチャイズ
1954年。当時からすでに、レストランが営まれていた地域で一大センセーションを巻き起こしていたマクドナルド社。そこにやってきたのが、後のバーガーショップ・マクドナルドの創業者となるレイ・クロックでした。起業家であるクロックは、マクドナルド社の独自の業務体制に感銘をうけたとされます。教育された従業員。注文から数十秒で提供される食事。分業化された料理プロセス。不要な業務の削減(皿洗い等)……ビジネスチャンスを感じ取ったクロックは、マクドナルド社にチェーン方式での事業展開をもちかけます。
ところで、「チェーン店」と「フランチャイズ」の違いはご存じでしょうか。チェーン店には、大きく分けて以下の3つの種類の方式があります。
- レギュラーチェーン
- フランチャイズチェーン
- ボランタリーチェーン
チェーン展開のひとつの方式としてフランチャイズがあるということですね。
レギュラーチェーンは、そのお店を保有する会社本部によってチェーン店が展開される方式です。各チェーン店の経営・運営は本部が担います。スターバックスコーヒーや東急ハンズなどが代表的なレギュラーチェーン店として知られています。
フランチャイズチェーンは、本部と、その外部の個人や会社が「フランチャイズ契約」を結ぶことで展開されるチェーンです。ドトールコーヒーやコンビニ(ファミリーマート、セブンイレブン、ローソンも)、ホームセンターのカインズ、それから古本屋などを展開しているブックオフグループホールディングスなどが一例です。資本(お金)を持つ個人や事業主が、ドトールやファミリーマートなどの会社とフランチャイズ契約を結び、契約料やロイヤリティなどの料金をそれらの会社に支払うことによって、店舗の名前や商標、商品、レシピや店舗運営のノウハウを提供してもらうことができます。
レギュラーチェーンは「単一の経営主体」によって担われていますが、それに対してフランチャイズは、「会社を経営する主体(本部)と、出店しその店舗を運営する主体が異なる」というところに特徴があるようですね。
ボランタリーチェーンは、複数の異なる小売店同士が組織を作ることによって展開されるチェーン方式であり、レギュラーチェーンのような統一的な本部はいません。組合のような形態をとり、共同で事業を展開させていくことができるチェーン方式となっています。
さてマクドナルドに話を戻すと、合理的で当時先進的であったマクドナルド兄弟の店舗運営に感銘をうけたレイ・クロックは、マクドナルド兄弟の会社とフランチャイズ契約を結ぶことを決めました。契約にあたっては起伏に富んだプロセスがあったようですが(クロック・アンダーソン 2007)、1961年にマクドナルド兄弟の会社をおよそ270万ドルで買収、その後全米にマクドナルドを展開させました。1984年には世界に8,000店舗まで拡大、そして2007年の時点で世界119か国に約30,000店までその数を増やしています。
社会が「合理化」することをどう受け止めたらよいのか?
その店舗運営において徹底した「合理化」をめざし、「ファストフード」の原型をつくりだしたマクドナルド。そこからマクドナルドは、フランチャイズ方式のチェーン展開によって、世界全体へと広がっていくこととなります(ちなみに日本第1号店は1971年出店)。
なおフランチャイズ方式そのものは、歴史的には19世紀後半(南北戦争後)にはすでにみられ、また1935年はアイスクリーム事業のフランチャイズ展開が始まっていたとされます(長谷川 2019)。しかし、マクドナルドほどの展開をみせたフランチャイズはそうありませんでした。
そして「社会のマクドナルド化」を考えるときに重要なのは、マクドナルドというハンバーガーレストランの展開ではなく、むしろ「マクドナルド的」な経営・運営を行う飲食店(ファストフード)や業種が世界中に展開していったという点にあります。「マクドナルド的な働き方/考え方」=「合理化」がカリフォルニア州から全米へ、そして世界へと広がっていったプロセスを指して、社会学者ジョージ・リッツァは「マクドナルド化(McDonaldization)」と呼び、批判的に考察したということです(リッツァ 1999)。
しかし「合理化」という考え方自体は、必ずしも悪い事ではないように思えますね。物事を合理的に判断したり、無駄を減らしたりすることの大切さも、私たちは知っているはずです。ことサステナブルな文脈においては、たとえば交通機関のエネルギーロスを減らすことや、アメニティの提供を減らすといったこともまた広い意味での「合理化」に含まれるものでしょう。それもマクドナルド的/ファストフード的な思考の仲間なのでしょうか?
【後編】では、「マクドナルド化」についてもう少し理解を深めたうえで、「マクドナルド化」あるいはファストフード的な思考に代表される「合理化」に対する、サステナブルな社会における向き合い方を検討してみたいと思います!
参考文献
クロック、レイ・ロバート、アンダーソン(2007)『成功はゴミ箱の中に――世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 レイ・クロック自伝』プレジデント社。
長谷川公一(2019)「組織とネットワーク」長谷川公一・浜日出夫・藤村正之・町村敬志編『社会学 (新版)』有斐閣、pp.104-136.
リッツァ、ジョージ(1999)『マクドナルド化する社会』正岡寛司訳、早稲田大学出版部。
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