本記事は、観光地と旅行者の関係に頭を悩ませているすべての人へ向けたものです。2026年6月に京都で開かれた第5回ツーリストシップサミットでは、観光客を管理するのではなく、愛される旅行者を育てるという発想が語られました。その熱気あふれる議論の中身をお届けします。
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訪日観光客4000万人時代を迎えた今、日本各地の観光地はにぎわいを見せる一方でオーバーツーリズムや分断も叫ばれています。2030年には6000万人を目指す––そのように国が発表する中、旅先に配慮したり貢献しながら、交流を楽しむ姿勢や行動「ツーリストシップ」を発信する一般社団法人ツーリストシップが20...
はじめに|「対策」という言葉では足りなくなってきた

2026年の観光地が抱える課題は、オーバーツーリズム対策という一言ではとても片付けられないほど多様化しています。混雑、ゴミ、騒音、文化の行き違い。どれも背景が違い、関わる人も違います。
そんな中、キャンパスプラザ京都で「第5回ツーリストシップサミット」が開催されました。今回のテーマは「観光マナー発信の共創」です。
ここで興味深いのは、ただ注意を呼びかけるという発想から一歩踏み出していた点です。旅行者と地域がどうすればより良い関係を築けるのか。そのコミュニケーションのあり方そのものが議論の中心でした。現場の最前線に立つパネリストたちによって、熱い言葉が交わされていきました。
サステナブルツーリズム(持続可能な観光)をテーマに活動してきた立場としても、今回の視点の転換は見逃せないものでした。一緒にその中身を追っていければと思います。
言葉が「文化」になり始めた5年間

冒頭、一般社団法人ツーリストシップ代表理事の田中千恵子氏から、これまでの活動報告が行われました。
この活動は2019年、京都大学在学中に設立されたものです。それが今では大きな広がりを見せています。
たとえばメディア掲載は、第1回サミット時の17回から、現在は100回以上にまで増えました。教育の現場への浸透も進み、中学校の公民の教科書や大学入試問題にも「ツーリストシップ」という言葉が登場しているといいます。さらに全国24の自治体や観光協会と連携し、マナー発信を強化しているそうです。
田中氏が掲げるのは、ツーリストシップを「パスポートと同じくらい当たり前の言葉にしたい」というビジョンです。スポーツにスポーツマンシップがあるように、旅をする誰もが旅先への思いやりを当たり前に持つ。そんな社会を目指すという力強い言葉でした。
言葉が広まるというのは、単なる流行ではないのかもしれません。
教科書に載り、入試に出る。それは「文化」として根を張り始めているということではないでしょうか。海外を旅していると、その国の人が当たり前に共有している価値観に何度も助けられてきました。ツーリストシップも、いつか日本を旅する人にとってそういう「当たり前」になっていくのかもしれません。
畳にスリッパ、竹林の落書き。現場のリアルな摩擦

続くパネルディスカッションでは、宿泊、商店街、観光振興という異なる立場から、現場の「リアルすぎる課題」が共有されました。
綿善旅館のおかみである小野氏は、数年前のインバウンド急増期に直面した、文化の違いによる摩擦を振り返ります。
「玄関で靴を脱ぐ習慣がわからず、畳の上をスリッパやキャリーバッグで移動してしまい、畳がボロボロになってしまうこともありました」
環境に配慮して設置したアメニティを、お土産と勘違いして大量に持ち帰られてしまうという話もありました。悪気があるわけではない。ただ前提となる文化が違うだけ。だからこそ難しいのだと感じさせられます。
一方、嵐山商店街会長の石川氏は、地域のシンボルである竹林の落書き問題への挑戦を語りました。
「厚い竹垣を設置することで、これまでの落書きを物理的に隠し、新たな落書きを抑制することに成功しました」
行政のゴミ箱が撤去された後には、商店街でスマートゴミ箱を導入したそうです。地域住民と協力して清掃や維持を行う仕組みを、自分たちの手で作り上げていったといいます。
注意書きを貼るだけでは解決しない問題に、現場はこうして知恵と手間で向き合っていました。海外でゲストハウスの運営に関わっていた頃を思い出しても、文化の違いから生まれる小さなすれ違いは、貼り紙一枚ではなかなか埋まらないものでした。だからこそ、こうした現場の工夫の積み重ねには頭が下がります。
マナー発信はコストか、それとも未来への投資か
議論の核心になったのは、マナー啓発にかかる手間や費用をどう捉えるか、という問いでした。
日本観光振興協会理事長の最明氏は、清潔で安心安全な街を維持するには相当なコストがかかるのは当然だ、と語ります。そのうえで、そのコストを新しい仕組みや投資へとつなげていく重要性を強調しました。
他の登壇者はさらに踏み込み、「短期的にはコストですが、長期的には投資です」と断言します。
「トラブルが起きるたびに注意書きを作り直すのは大変なコストです。けれど、それを仕組み化して、旅行者に旅先の文化へのリスペクトが根づいていけば、最終的には地域の価値を守る投資になります」
また観光地は住民がいてこそ成り立つと語り、観光の収益を地域のお祭りやコミュニティバスの運営など、住民の利益に還元する仕組みを作ることこそが、持続可能な観光の鍵だという考えです。
マナーを伝えることを面倒なコストと見るか、未来をつくる投資と見るか。その視点の差は、想像以上に大きいのかもしれません。
京都から世界へ。「愛される旅行者」を育てるという役割
サミットの終盤、田中氏から提案されたのは「観光地が旅行者を育てる」という視点でした。
「あなたの町を汚してしまった旅行者は、他の町でも同じことをしてしまうかもしれません。日本での体験を通じて、他者への配慮ができる旅行者を育てて送り出す。それが観光地の新しい役割ではないでしょうか」
これはなかなかにスケールの大きな発想だと思います。目の前の一回の摩擦を防ぐだけでなく、その人の旅そのものを少し良い方向へ変えてしまう。観光地が旅人にとっての学びの場になるという考え方です。
若者に普段から旅を広める活動をしており、旅が人を育てるという感覚にはとても共感できるところがあります。旅先で受けた小さな親切や注意は、不思議と次の旅先でも自分の振る舞いに残っていくものです。
さらには高い対価を払う層には特別な体験を提供し、その利益を地域に還元する「ファーストクラス理論」というアイデアも飛び出しました。一律に我慢を強いるのではなく、価値と還元のバランスで持続可能性を設計する。そんな前向きな提案でした。
まとめ|地球市民として旅を楽しむために

来賓として登壇した松井孝治京都市長は、「市民や旅行者の運動としてこの言葉が広がるのは非常にありがたい」と話していました。
ツーリストシップは、決して旅行者を縛るためのルールではありません。旅先を尊重し、交流を楽しみ、また戻ってきたいと思える関係を築くための「思いやりの心」です。
第10回サミットを迎える2031年には、世界中で「ツーリストシップ」という言葉が当たり前に行き交っている。そんな未来を予感させる、熱気あふれる一日となりました。
旅は、する側と迎える側の両方がいて初めて成り立つものです。次の旅では、訪れる土地への思いやりをほんの少しだけ意識してみる。それがツーリストシップの第一歩になります。サスタビが掲げる20ヶ条も、そのヒントとしてのぞいてみてください。あなたの旅が、行った先で愛される旅になりますように。
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立命館大学大学院修士課程修了。専門は情報理工。NTTデータ入社後、大規模システム開発の維持管理やビッグデータを用いた観光分析を担当。世界一周後、場所にしばられずに働くを追求してITに特化した現代版なんでも屋を起業。チェコ親善アンバサダー、銀河高原ビールアンバサダー。通称、シャンディ。




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