泊まるほど好きになる街、香川県・琴平。サステナブルな旅は1泊から

本記事は、中長期ワーケーションで各地をめぐる筆者が、何度も通う香川県琴平町を題材に、日帰りでは見えない街の魅力と、1泊で変わる環境・社会・経済のサステナブルな効果をお伝えするものです。

サステナブルツーリズム(持続可能な観光)の実践として、筆者は中長期のワーケーション(働きながら旅先で過ごす滞在スタイル)をおすすめしています。最近では、愛知県の離島でのワーケーションについてこんな記事も書きました。

そんな筆者が今回ワーケーション先に選んだのが、香川県の琴平です。1週間ほど滞在してきました。

この記事は、ワーケーション目的の方はもちろん、はじめて琴平を1泊2日で訪れてみたい方にも読んでいただけるように書いています。

何度目かの訪問でよく知った土地ではありますが、通うたびに「また来たい」と思わせる魅力がたっぷりあります。今回は、何度も通っている目線でその魅力を紹介していきます。

「日帰り観光地」のイメージで終わらせていた琴平

琴平といわれて多くの方が思い浮かべるのは、やはり「こんぴらさん」ではないでしょうか。

こんぴらさん(金刀比羅宮)は「一生に一度はこんぴら参り」という言葉で知られる場所です。御本宮まで785段、さらに奥社まで登ると1,368段にもなる石段でも有名です。

江戸時代、人々は自由に他の藩へ行くことを禁じられていました。そのなかで、代理での参拝が認められていた数少ない行き先がこんぴらさんだったといわれています。そうした背景もあって「一生に一度は」という言葉が生まれたようです。

そんな琴平ですが、何度目かの訪問のときに地元の方からこんな話を聞きました。香川に遊びに来た人の多くは、こんぴらさんにお参りして、ほかの場所へ行ってしまう。琴平には泊まらない、と。

ただ筆者は、何度も通っているからこそ思うことがあります。琴平ほどワーケーションに快適な場所はない、と。その理由をこれから書いていきます。

こんぴらさんと讃岐うどんで完結する半日プラン

日帰りになってしまう理由は、大きな観光という目線で見ると分かりやすい気がします。こんぴらさんへ参拝して、讃岐うどんを1杯食べて、次の場所へ。これが多くの方のイメージではないでしょうか。追加したとしても、うどん作り体験くらいまで。

琴平は、日本で一番小さい香川県の、なかでもコンパクトな街です。だからこそ「半日あれば十分」となってしまうのだと思います。

このコンパクトさこそが、ワーケーションに最適だと筆者は感じています。

「観光客は来るけど泊まる人は少ない」という地元の声

こんぴらさんには、年間約300万人ともいわれる参拝客が訪れます。

それだけの人が来てくれるのに、泊まる人はほとんどいない。人が集まるポテンシャルはたくさんあるのに、もったいない。これは実際に地元の方から聞いた話です。

言われてみればたしかに、参道も昼間はにぎやかでも、夕方になるとふっと人が減ります。多くの人が参拝とうどんで1日を完結させて、帰路についているのでしょう。

1泊してはじめて見えた、もうひとつの琴平

筆者は逆に、初めて琴平を訪れたときからずっと宿泊しています。そのおかげで、見えてきたものがたくさんありました。

たしかに夜になると開いているお店は少なくなります。それでも、夜にしか見られない景色があり、地元の人と関われる時間があります。1泊してよかったと思う瞬間が、本当に多いのです。

こんぴらさんの参拝も、朝の時太鼓を聞きながら、静かな時間帯にお参りするのが筆者は好きです。昼間に来て日帰りで帰るよりも、ずっと心に残る時間になります。

1泊で変わる、3つの軸|環境・社会・経済

ただ「楽しいから1泊以上したほうがいい」と言っているわけではありません。サステナブルツーリズムの観点からも、1泊以上することには意味があります。

ここでは環境・社会・経済の3つの軸から、その理由を整理してみます。

環境|移動と滞在で変わるCO2

琴平のサステナブルさを支える大きな要素は、街そのものが公共交通機関だけで完結することです。

しかも2026年6月1日からは、コトバス(琴平バス)が大阪・神戸からの直行便で「KOTOLINK biz(コトリンクビズ)」というサービスを始めました。

車内で通話やWEB会議をしてもいい、移動しながら働ける便です。Wi-Fiや膝上テーブル、PCモバイルバッテリーの貸し出しもあります。大阪梅田から琴平まで約4時間、片道4,500円。乗り換えなしで来られます。(往復で予約するともっと安くなります)

レンタカーで高速道路を走るのと比べると、ひとりあたりのCO2排出量を大きく抑えられます。街に着いたあとも徒歩で完結するため、滞在中の車利用はゼロ。公共交通だけで行ける街というのは、それだけで環境にやさしい旅先になります。

経済|地域に落ちるお金は、宿泊で何倍にもなる

観光庁の旅行・観光消費動向調査によると、1人あたりの消費額は宿泊旅行で69,362円、日帰り旅行で19,533円。

およそ3.5倍もの差があります(出典:観光庁 旅行・観光消費動向調査 2024年年間値)。

日帰りで琴平に来ると、参拝、うどん、お土産で旅は終わります。

1泊するだけで、これに夕食、朝食、カフェ、夜の一杯、もうひと品のお土産が加わります。しかも宿泊費は、ホテルやゲストハウス、地元の旅館など、街の事業者にダイレクトに落ちるお金です。

同じ100人が来てくれたとしても、日帰り100人と1泊100人とでは、街全体に流れるお金は何倍も違ってきます。

観光地がこの先も続いていくために、泊まることで見えてくるものはたくさんあります。あせらず、ゆっくり。そんな旅を選んでみてほしいです。

社会|短時間では生まれない、街の人とのつながり

3つの軸のなかで、いちばん体感しやすいのがこの社会軸かもしれません。

日帰りで街を歩いていると、お店の人とのやり取りは「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」だけで終わります。

1泊して滞在時間が長くなると、同じ商店街を朝・昼・夕方と歩くことになります。

最初は会釈だけだったお店の人が、夕方には「お、また会いましたね」と声をかけてくれる。この距離感の変化が、1泊することの社会的な意味だと思います。

そしてこの関係が「次もまた来よう」という気持ちにつながり、関係人口(住民でも観光客でもない、街と継続的に関わる人)の輪が広がっていきます。

同じ香川県では、農泊を通じて関係人口を育てる取り組みもこちらの記事で紹介しています。

環境|公共交通と徒歩で完結する街

ここからは、3つの軸が琴平という街でどう実現しているのかを、もう少し具体的に紹介します。まずは環境軸です。サスタビ20ヶ条の「公共交通機関を使おう」という項目を、ムリなく実践できる街だと感じています。

JR土讃線・ことでんで行ける立地

琴平には、JR琴平駅と琴電琴平駅という2つの駅が並んで建っています。どちらの駅からも、街の中心、こんぴらさんの参道入口、宿泊施設まで徒歩圏内です。

街に着いてからの移動は、基本的に歩くだけで足ります。

街の中心は徒歩で1周できるスケール

主要な場所が固まっているため、徒歩でまわれます。筆者も車がないときはこのあたりで過ごしていますが、とくに不便なく暮らせます。

「もっと遠くにも行けばいいのに」と言われるかもしれません。でも滞在中は、本当に500〜600メートルの区間を行ったり来たりしているだけで、十分に満ち足りていました。

長めに滞在するなら、mobi(モビ)という相乗りのオンデマンド交通も便利です。1日乗り放題で1,000円。運営はここでも琴平バスです。車を持ち込まなくても、足にはまったく困りません。

関西からも東京からも、バスで直行できる

さきほど紹介したKOTOLINK bizをはじめ、コトバスは大阪・神戸・東京などから琴平への直行便を走らせています。

移動の時間そのものを公共交通にあずけられるので、運転の疲れもなく、到着後すぐに街での時間を始められます。

働きながら移動して、降りたらそのまま街に溶け込む。そんな来かたができるのが琴平の強みです。

経済|うどん・クラフトビール・地酒を地元から買う

次は経済軸です。サスタビ20ヶ条には「地域の特産品を地元の企業から買おう」という項目があります。琴平には、その土地の人が情熱を注いでつくるものがそろっています。

地酒として有名なのは、金陵(きんりょう)と凱陣(がいじん)。金陵は表参道に「金陵の郷」という資料館があり、観光客にも知られているお酒です。

凱陣は、地元の人に愛される入手困難な地酒で、地域の商店などで出会えます。クラフトビールでは、最近DONZO Brewingが登場しました。

讃岐うどんを地元の小さな店で食べる意味

琴平は、歩いてうどん巡りができるのも魅力です。ほかの地域では車がないと回れないことが多いのですが、琴平ならかなりの店舗を徒歩でまわれます。

香川県には500軒以上のうどん屋さんがあるといわれており、この豊かな食文化を未来へ残すためにも、いろんなうどん屋さんに足を運んでみてほしいと思います。

DONZOブルーイングのクラフトビール

DONZO Brewingのクラフトビールは、幕末の志士ゆかりの「呑象楼(どんぞうろう)」という建物に由来しています。

こんぴらさんのある象頭山(ぞうずさん)を眺めながら飲めるお酒として生まれました。背景を知ったうえで味わう一杯は、ぐっと深くなります。食事も琴平産のものを使ったものが多く、地産地消を堪能できます。

動き始めている、移住者たちの琴平

DONZO Brewing以外にも、ベーグル店では日本初のヴィーガン認証をとったBagel House KOTOHIRAができたり、一棟貸しの宿GOKAN Kotohiraができたり、コワーキングスペースを併設したKotori コワーキング&ホステル琴平ができたりと、ここ最近の動きが目覚ましいです。

麻心(まごころ)Bar Don’t tell Mama(ドンテルママ)Sando Sand Standなど、移住者がつくったお店も増えています。筆者はそのどれにも、毎回のルーティンのように足を運びます。

「琴平といえばうどん」という方ほど、うどん以外も食べたくなったときの選択肢や、夜に一杯飲みたいときの行き先を知っておくと、滞在がぐっと豊かになります。

日帰りではなかなか辿りつけない、宿泊する人だからこそ出会えるお店たちです。

社会|「お帰り」と言われる距離感

3つめは社会軸です。琴平の人とのつながりには、参拝客をもてなしてきた門前町ならではのあたたかさがあります。

同じ人に何度も会う、コンパクトな街のリズム

500〜600メートルのなかで生活圏が完結してしまうこともあり、滞在中は本当に多くの方に会います。

とくに琴平に来ることを伝えていなくても「帰ってきてたんだ、おかえり」と声をかけられます。コワーキングスペースも数が限られているので、同じくワーケーションをしているメンバーと作業ルームで顔を合わせることも多いです。

定期的に琴平へ通う人もいるため「あ、また帰ってきたんですね、ご飯でも行きましょうか」という会話が自然に生まれます。

2度目の訪問から「お帰り」に変わる距離感

徒歩で生活していると、滞在中に同じ人と何度も会います。

最初は「こんにちは」だった商店街の方が、3日目あたりから「あら、また来たね」になり、その先には「お帰り」に変わっていく。この変化が、なんとも嬉しいのです。

観光地にいるはずなのに、ふと故郷に帰ってきたような第二のふるさとのような気持ちになる。これは日帰りでは絶対に味わえない琴平の魅力でしょう。

参拝客をもてなしてきた門前町の文化に触れる

観光地によっては、観光従事者以外の方が観光客を歓迎しないこともあると聞きます。

でも琴平は違います。長年こんぴらさんへの参拝客を迎えてきた歴史があるからか、外から来る人への壁がそもそも低い。街全体が、旅人に優しいのです。

Kotori コワーキング&ホステル琴平|地元バス会社が運営する宿で過ごす

ここで、筆者がいつも拠点にしている宿を紹介させてください。サスタビ20ヶ条の「地域に根ざした宿に泊まろう」という考え方とも、ぴったり重なる場所です。

滞在中はコトリ コワーキング&ホステル琴平を拠点にしていました。

表参道沿いにあるコワーキング併設のゲストハウスで、ドミトリーなら1泊3,830円ほどから(税込)泊まれます。コワーキングは一般利用で1日1,500円ですが、宿泊者は無料。高速Wi-Fiも会議室もモニターもそろっています。

琴平バスが運営するゲストハウス×コワーキング

運営は、地元のコトバス(琴平バス)です。交通会社がゲストハウスを営んでいるというのが、面白いところだと思います。

これまで地域の足を支えてきた会社が、今度は「滞在する理由」のほうをつくっている。地域の交通とまちづくりが、ひとつの会社のなかでつながっているのです。

バスを降りたら、そのまま作業を始められる

運営がコトバスなこともあり、バスが到着したら、そのまま駐車場の裏からチェックインできてしまいます。

KOTOLINK bizで車内のミーティングを終えて琴平に着き、そのまま流れるようにコワーキングへ移って作業を続ける。移動と仕事と滞在が、なめらかにつながっていきます。

観光しない1日を、コトリで過ごすという選択

ワーケーションに来たのに観光ばかりして、仕事をさぼってしまう人も見かけます。でもそれは、きっと滞在が短い人たちです。

リモートワークができて平日に仕事がある人なら、土日に移動して、平日はランチと晩ごはんだけを楽しみ、また土日に観光して帰る。そんな9日間のワーケーションが、筆者は個人的にいちばん心地よいと感じています。

平日は本当に何もせず、ふだんどおりの1日を過ごす。

昼間は徒歩圏内のうどん屋さんへ行き、夜は居酒屋やブルワリー、香川名物の骨付鳥(丸亀発祥の、鶏のもも肉をまるごと焼いた料理)を食べに行く。

「何かしなくちゃ」という思い込みを捨てることが、ワーケーション成功のコツだと思います。

はじめての琴平モデルプラン|まずは1泊2日から

ここまでワーケーションの話を中心にしてきましたが、そうでない方もこの記事を読んでくださっていると思います。そこで、大阪から来ることを想定したモデルプランを紹介します。

琴平モデルプラン1日目

大阪からKOTOLINK biz(KOTOBUS EXPRESS)にて琴平に直行。

到着したら、まずはうどん屋さんへ。筆者の個人的なおすすめは、徒歩で行ける「いわのや」さん。冷やしのとりてんぶっかけが推しです。

うどんを食べたら、Kotoriにチェックイン。スタッフさんにおすすめを聞いてみるのもいいと思います。そのあとは表参道を軽くぶらぶら散策。おいりソフトクリームをはじめ、食べ歩き用のお店がたくさんあります。お肉屋さんのメンチカツも人気です。

タイミングが合えば、69段目の右手にある池商店あたりまで登ってみてください。奥の座敷でゆっくり、ひやし飴をかけたソフトクリームを食べられます。店内で食べられることが分かりにくいので、個人的には穴場スポットです。運がよければ28代目の方に会え、琴平の歴史をたくさん教えてもらえます。

そのあとは足湯スポットで少し休憩。晩ごはんは、DONZOブルーイングで地元のビールを楽しみながら、地元の食材を使ったメニューを味わうのがおすすめです。

もう少し飲みたい夜は、ドンテルママへ。1,000本以上のウイスキーがそろっていて、ここに来るために琴平へ泊まりに来る人もいるのだとか。

琴平モデルプラン2日目

翌朝は、こんぴらさんの参拝開始を告げる太鼓が鳴る少し前に、早起きをして参拝へ。365段目で待っていると、108の太鼓の音とともに参拝が始まります。早朝の静けさのなかで御本宮の785段を登りきると、迎える景色がまた格別です。

帰りは、登ってきた道とは別の「裏参道」と呼ばれる道があります。そちらにチャレンジしてみるのもいいでしょう。

参拝のあとは、宿でまた少しくつろいで、チェックアウトまでゆっくり。そのあとはうどんをもう一杯食べてもいいですし、散策で見つけたお店をのぞいてみるのもいいと思います。Tea roomのベーグルサンドや、麻心のカレーなんかもおすすめです。

最後はSando Sand Standでお茶をしながらバスの時刻を待ち、また大阪までKOTOLINK biz(KOTOBUS EXPRESS)で帰る。そんな1泊2日いかがでしょうか。

「もう1日泊まりたい」が、次のサステナブルな旅の始まり

街がコンパクトな分、はじめての方は1泊2日からで充分に楽しめます。いきなり1週間とは言いません。

そして1泊を終えるとき、もし「もう1日泊まりたいな」と思えたら。その気持ちこそが、あなたの琴平の始まりです。

日帰りで通り過ぎていた街に、もう一度帰ってくる。その小さな選択が、街にお金を残し、人とのつながりを生み、環境への負荷を抑える、サステナブルな旅の第一歩になります。

次に琴平を訪れるときは、ぜひ1泊から。Kotoriに宿を取り、KOTOLINK bizに揺られながら、ゆっくり街のリズムに身をあずけてみてください。きっと「また帰りたい場所」が、ひとつ増えるはずです。

旅先で地域と深くつながる旅のかたちに興味がわいた方は、筆者がクリエイティブツーリズムについて考えた記事も、あわせて読んでみてください。

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