「創造的な観光」ってなに?クリエイティブツーリズム解説

サスタビでは、一つのテーマに対して複数のライターが様々な角度から探求する特集を組んでいます。今回のテーマは、「クリエイティブツーリズム」です。
オーバーツーリズムが叫ばれる今、「旅人=迷惑な存在」と感じている方がいらっしゃるでしょう。
自分の暮らす街にやってきて、ごみをポイ捨てしたり、道を混雑させたり……地域の方に「来てほしくない」と思われる行動をする旅人も、少なからず存在しています。
しかし、旅人は本来、地域の方にポジティブな影響を与えられるはずです。旅人が旅先の地域や文化を消費するだけではなく、地域住民と一緒に新しい価値を生み出す。
そんな新しい旅の姿勢について考えていきます。

クリエイティブツーリズム(創造的な観光)とは?

今日、サステナブルツーリズムとの関連において注目を集めているのが「クリエイティブツーリズム(創造的観光)」です。今回の記事では、このクリエイティブツーリズムについて解説します。

クリエイティブツーリズムの定義と発祥

クリエイティブツーリズムについて、発祥や定義を見ていきましょう。

この概念は、2000年に、UNWTO(世界観光機関)のグレッグ・リチャーズ氏と、ニュージーランドの観光コンサルタントであるクリスピン・レイモンド氏により生み出されました。その後、ユネスコを中心として、参加型の観光として推進されてきています。

「マスツーリズムの弊害を避け、地域固有の文化資源を生かした新しいタイプのツーリズムであり、ツーリストと地域住民とが感動や体験を共有することにより新たな価値を生み出し、地域の持続的発展に貢献するものである(佐々木 2017)

日本では、クリエイティブツーリズムはこのような定義・議論のもと展開してきました。

クリエイティブな仕事とクリエイティブツーリズム

「クリエイティブ」という語には、「クリエイティブ産業」や「クリエイティブクラス(創造階級)」といった言葉として研究されてきた文脈があります。

クリエイティブ産業とは、ファッションや文化的コンテンツ、デザイン、工芸品、建築や芸術、映画やビデオや写真、ソフトウェア、ゲームといったひろく「文化」に関連する「創造的」な産業・業種を指すもので、それが21世紀の新たな成長牽引産業としての可能性を秘めていることが注目されてきました(Scott, 2004)。「文化的・芸術的・娯楽的な価値と結びついた財・サービスを共有する産業」という定義もあります(Caves, 2000: 1)(註1)。

経済学者のリチャード・フロリダは、クリエイティブ・クラスと呼ばれる「知識労働者」階級に注目し、知識や新しい価値を創造的に生み出すクリエイティブな人材を製造業やサービス産業などにおいて増やしていく必要性を主張しました。とりわけデジタル産業の展開が著しい今日において、一人ひとりの知識と創造性をデジタル技術を用いて増大させていくこと、ならびに知的創造産業に携わる人材を増やしていくことが、AI時代の人間社会に求められるといいます。

創造的な場所は都市に限られない

クリエイティブツーリズムの概念は、上述してきた従来のクリエイティブクラスやクリエイティブ産業の議論が、あまりにも「都市中心的」な思考に偏ってきたことへの批判から展開してきた側面があります。従来、クリエイティブな職は「都市」という情報や資本や技術の「ハブ」において生起すると考えられてきたため、農村地域など都市以外の場所におけるクリエイティブ産業の可能性は議論されてこなかったのです(Richards 2009)。

しかしいわゆる「デジタルシフト」と呼ばれる、デジタル技術やオンライン技術の展開にもとづく働き方や生き方の多様化は、新しい動きを生み出しています。ワーケーションや多拠点生活が現実的に展開を見せている今日、クリエイティブクラスの人びとを地方や農村地域に呼び込もうとするアイデアが広がっているのです。

とくに、日本では「クリエイティブクラス」の人びとを地方創生に役立てようとする政策が展開しています。オンラインで働くことのできるクリエイティブクラスの人びとを「ワーケーション」や「多拠点生活」に誘うことで、関係人口増加や観光・地域振興と結びつけようとしています。また、そうして都市の知的創造階級を地域に呼び込み、地域の人びとやコミュニティと一緒にさらに「新しい何か」をクリエイティブしてもらおうという狙いがあるようです。

クリエイティブツーリズムも、そうした「都市から農村への人の移動」に特徴づけられてきました(佐々木 2017)。都市の知的創造階級の人々が、農村地域の「日常生活」や地域に根付いた文化・芸術に触れ、交流をつうじて相互に新たな発想を創造(クリエイティブ)していくような観光のあり方です。日本では石川県金沢市などを事例に研究がはじまっています(竹谷 2021)。

日常的な創造性を発見する旅としてのクリエイティブツーリズム

クリエイティブツーリズムとは、言葉を換えれば、「日常が創造性に満ちている」ということを再発見するための旅ともいえます。地域で紡がれてきた生業や文化、工芸やアートや娯楽、文学や音楽などの「日常的な創造性」(Richards 2021)に光を当てるための概念だといえるでしょう。創造性は、煌びやかな都市や最先端の流行にのみ見いだされるわけではないのです。

マスツーリズムやオーバーツーリズムのような問題を回避しながら、地域を新しい仕方で「再発見」しようとする、サステナブルな旅としてのクリエイティブツーリズム。地域の日常的な創造性に触れること、そして旅行者自身も、単に文化や「伝統」を消費するのではなく、旅を通じてワークショップや体験型プログラムに参加したり、何かを学んだりしようとすることが目的となるような旅ですね。そして地域の工芸や文化や体験学習に触れることをつうじて、地域の人々とも関係性を紡ぎ、文化の持続可能性にも寄与する可能性に開かれた旅ともいえます。

特集「クリエイティブツーリズム」の記事の第二弾は、下記からご覧いただけます(2025年1月11日公開)

  1. ここでは踏み込むことができませんが、言うまでもなくクリエイティブ産業をめぐる議論は「文化産業」批判との距離を無視して論じることはできないでしょう(アドルノ 1996)

参考文献

  • アドルノ, T. W. (1996)『プリズメン:文化批判と社会』渡辺祐邦・三原弟平訳、筑摩書房。
  • Caves, R. E.(2000)Creative Industries: Contracts between Art and Commerce, Harvard University Press.
  • Scott, A.J. (2004)“Cultural-Products Industries and Urban Economic Development: Prospects for Growth and Market Contestation in Global Context”, Urban Affairs Review, 39(4):461−490.
  • Richards, G. (2013). Creative Tourism and Local Development . In Wurzburger, R., Pattakos, A. and Pratt, S. (Ed.), Creative tourism: a global conversation. Sunstone Press, pp.78-90.

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