観光は様々な問題をはらんでいますが、特に地域の方を悩ませているのがゴミ問題です。 旅人が持ち込んだゴミの処理費用が自治体にとって大きな負担になるため、ゴミ箱が撤去される観光スポットが増えています。 そのため、旅人はゴミを処理できず宿に帰るまで持ち歩き続けなければならなくなったり、ポイ捨てが増えて景観や衛生面でも問題を引き起こしました。 今回の特集では、このような現状をうけ、「旅とゴミ」について考えていきます。 |
旅行と「ごみ」
旅とサステナビリティがどのように結びつくかを考えたとき、じつは重要なトピックとなるのが「ごみ」です。
「旅行中に観光地でごみのポイ捨てを見てしまった」「食べ歩きした後、ごみをどうしていいか迷う」「ホテルで捨てていいかわからない」などなど、「ごみ」が旅行中の「小さな悩み」となっていることが少なくありません。
サステナブルな旅の実現と展開を考えようとするとき、「ごみ」は避けて通れない問題なのです。そこで今回の記事では、旅行者を対象としたアンケートのデータをみながら、「サステナブルな旅」と「ごみ」がどのように関わっているのか、その一側面をみてみましょう。
旅行者の意識調査
楽天トラベルが2021年に実施した「旅行・観光におけるサステナビリティへの意識調査」をみてみましょう。
この調査は「直近2年以内に宿泊旅行経験があ」り、かつ「自分自身で宿泊手配を行った」男女20歳~69歳、計1081名を対象に行われました。いくつかの調査結果を紹介します。
旅行先に感じる課題
まず、「旅行先や宿泊施設のサステナビリティ課題に、問題があると感じるか」という項目についてです。

https://travel.rakuten.co.jp/mytrip/howto/sustainability-survey2021
まず注目すべきは、「気になることはない」と回答した方は25.4%であることです。他のそれぞれの項目と比較すれば多い割合のようにもみえますが、逆にいえば反対に約75%の人は、旅行中にサステナビリティに関するなんらかの課題を感じたことがあるということになり、意識の全体的な高まりを推察することができますね。
そして、次に重要なのが、上位の項目の多くが「ごみ」と関わる事柄だということです。最も多い回答が旅行先の「ゴミ・廃棄物のポイ捨て」(41.4%)で、次に「食品の廃棄」(35.2%)が続いています。また4位の「宿泊施設での過度なサービス」に含まれる「アメニティ」も、「プラスチック等の廃棄」とつながる問題といえます。
このように、旅行者が観光中に意識を向けるサステナビリティの課題の多くは「ごみ」に関する事柄となっています。ということは、それだけ「ごみ」をめぐる問題が現実に生じているということであり、同時に、その問題をうまく対処することはサステナビリティの向上に大きく貢献するということでもあります。
旅行者の行動意欲
同調査の次の質問項目は「旅行や観光に関するサステナビリティの取り組みとして、どのような行動をしたいですか?」でした。これも、先ほどの課題に関する質問と深く関連した回答が寄せられました。

https://travel.rakuten.co.jp/mytrip/howto/sustainability-survey2021
旅行者が意欲を持ちやすい取りくみとして、1位が「ゴミ持ち帰りや清掃・廃棄・分別の心がけ」(47.8%)、2位「フードロスへの配慮」(44.9%)、次いで「宿泊施設とサービス(アメニティ含む)の調整」(32.6%)という順番でした。
現実に目立っている課題も、そして旅行者が取り組みをしたいと考える事柄も、みな「ごみ」に深く関わっているということがわかります。
塵も積もれば山となる
「ごみ」の問題の改善には、たとえば観光地のごみ箱や分別・収集制度の整備や、観光関連産業の生産・流通プロセスの見直しなど、企業や行政側の「大きな取り組み」も重要となってきますが、いっぽうで私たち一人ひとりの「小さな取り組み」もまた鍵を握っています。
「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」という考え方をご存じでしょうか。これは地域の治安悪化のプロセスに関する理論です。誰かが(理由はどうあれ)街の建物の窓ガラスを1枚割ったとします。その割れたガラスがそのまま放置されると、「窓ガラスを割ってもいいのだ」というサインになり、むしゃくしゃした人びとや犯罪者によって他の窓ガラスも続々と割られてしまい、最終的には街全体の治安悪化とさらに凶悪な犯罪の多発を招いてしまう、というものです(Kelling and Wilson 1982)。
これと似たものとして、「ごみがごみを呼ぶ」という問題を考えることができるように思います。誰かがポイ捨てをすると、その捨てられたごみが他の人びとのポイ捨てを誘引してしまう。誰かに捨てられたペットボトルやマスクを見ると、「自分も捨てちゃおう」と思ってしまう。ごみ箱からごみが溢れかえっていて、ごみ箱の周りにもごみがどんどん捨てられていってしまう。ごみが捨てられていると、「そこはごみを捨てていい場所」という認識を生んでしまうということですね。
なお、ごみ箱を単純に増やすだけでは、こうした問題は解決できません。まさにごみ箱がごみを呼んでしまうからです。ごみ箱のなかにごみが収まるならばそれで問題ありませんが、ごみ箱が一杯になったまま放置されれば、上の写真のようにごみ箱の周りにごみが捨てられてしまう問題が起きてしまいます。ごみの回収人員を適切に組織化したり、すべてのごみ箱の空間的な配置を工夫したりと、ごみ箱を設置する際の工夫が必要となってきます。
一人ひとりにできること
ごみ問題に対して私たち一人ひとりができることはいくつもあります。しかし、「単純にこうすればよい」と「答え」を提示できるものではありません。
たとえば、「ごみは持ち帰る」ことは大事ですが、かといってそのごみを「持ち帰った先のホテルで捨てる」ことは、どこか別の課題を生んでいるように思えます。また、もしごみが生ゴミで、旅行から帰宅するまでまだまだ時間がある場合はどうすればいいのか。飛行機にごみを持ち込むことは大丈夫なのか?……等々、旅行の個別具体的な行動によって、ごみへの対処は変わってきてしまうのです。
したがって、その場その場で適切な処理を見いだすためのリテラシーも必要となるでしょう。観光地のごみ箱がどこにあるか調べたり、食べ歩きをする事前にまずごみの捨て方を一考する意識をつけたり、もし目の前のごみ箱が一杯になっていたら別のごみ箱を探したり。状況に応じて判断していかなければなりません。
少なくとも、「ごみがごみを呼ぶ」現象に追随してしまわないように気を付けることは大事だと言えそうです。他の誰かがポイ捨てしていたり、目立たないところやごみ箱の周りにごみを捨てていたりしても、「自分はそれはしないぞ」と一歩立ち止まることが大事です。「ごみがごみを呼ぶ」という連鎖を断ち切る事は、とても重要な行動だと思います。「観光地に着いたらまずごみ箱を探してみる」という意識も重要ですね。
みなさんが旅先で実践している、ごみに関する工夫があればぜひコメントで教えてください!

特集「観光とごみ問題」の記事の第ニ弾は、下記からご覧いただけます(2025年4月19日公開)

参考文献
- Kelling, George L., and Wilson, James Q.,(1982). Broken Windows. The Atlantic.

立教観光研究所 研究員。立教大学大学院観光学研究科 博士課程後期課程修了。博士(観光学)。専門は文化人類学、観光研究、モビリティ研究。北海道札幌市出身。
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