映画『ラスト・ツーリスト』が描くオーバーツーリズムの現実。トークゲストと考える旅の在り方とは

大手町・丸の内・有楽町エリアでSDGs17の目標に関連したテーマの映画の上映会を行う「大丸有SDGs映画祭」。6回目となる今回は、長編9作品と短編4作品が期間中エリア内のイベントスペースなどで上映されました。その中でも、筆者が以前から気になっていたオーバーツーリズム問題を題材としたドキュメンタリー作品『ラスト・ツーリスト』の上映があると知り足を運びました。上映後のゲストトークで語られた、これからの旅の在り方とは——。

オーバーツーリズムを知る映画『ラスト・ツーリスト』作品概要

配信アジアンドキュメンタリーズ

『ラスト・ツーリスト』は、オーバーツーリズム問題をはじめとしたさまざまな観光公害を問題提起する作品。ジャンボジェットや格安航空券の普及によって成立したマスツーリズム(大衆観光)の登場についての紹介からはじまり、タイ、ペルー、インドなど世界各地の観光地の現場から観光のために犠牲となる自然、動物、伝統文化など多岐にわたる観光公害の現状や問題提起が次々となされていきます。
「では、わたしたちはどのように旅と向き合っていけば良いのだろうか?」。この作品を観た誰しもがそう感じるであろうと思います。サステナブルツーリズム推進への転換が示唆される後半部分も含めた全編は、配信サイト「アジアンドキュメンタリーズ」からご覧ください。

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https://asiandocs.co.jp/

「ラスト・ツーリスト」を視聴するには:

月額見放題(990円/月)
月額見放題 サポータープラン(1,980円/月)
月額見放題 パートナープラン(2,970円/月)

単品購入(495円)視聴期間は購入後7日間です。
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旅や観光に関わるゲストらと考える「これからの旅の在り方」

西表島エコツーリズム協会理事の徳岡春美さんは、人口2,400人に対して年間約30万人の観光客が訪れる西表島の現状について紹介。「日帰りの訪問者が多く、宿泊する方はおそらく15%ほどと見ています。近年、個人お客様が増加傾向にあることに伴いレンタカーの増加、港の混雑、ガイド数の急増とガイドの質のばらつき、特定フィールドへの観光客集中など多くの問題が生じています。また、コロナ渦以前にはイリオモテヤマネコのロードキルが過去最多となっています。」

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続いて、ORIGINAL Inc. 代表取締役/タイムアウト東京代表の伏谷博之さんはメディアの立場から見た観光課題としてインバウンド観光の持続可能性の欠如や、地域住民の生活と観光業の間のギャップがあることに触れました。「日本への訪日観光客は4000万人を超え、政府主導の観光立国政策の成果が出た一方、私が講演などで関わった地方の現場からはコロナ渦をきっかけに海外の方を歓迎できないと言った声も聞かれるようになりました。ただ目先の数字や利益だけを追求した結果生まれた歪だと思います。」

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「観光は単なる経済活動ではなく、経済社会、環境全てをバランスよく考慮した総合的なアプローチが求められています。」とサステナブルツーリズムの重要性を語ったハーチ株式会社/Livhub編集長の飯塚彩子さん。話題はサステナブルツーリズムの具体的な取り組みや地域社会へとの共生へと移ります。

旅先にプラスの影響を与える旅人になるためには?

配信アジアンドキュメンタリーズ

オーバーツーリズム問題を考える上で出発点となるのが、「地域住民が地域の魅力を知ること」にあると伏谷さん。地域の人々が自分たちの地域の魅力を理解し、それを観光客に伝えることで、「観光客」と「地域社会」の隙間が埋まっていくのではと話します。
一方、旅行者側の視点より「知らなかったでは済まされない」とレスポンシブツーリズムの重要性を強調した飯塚さん。観光ガイドブックだけでなく、事前にその土地の歴史や文化に関する本を読むことや目的地の宿やツアー先へサステナブルツーリズムへの姿勢や認証を得ているかなど個人も一歩立ち止まって再考するよう呼びかけました。

また、伏谷さんはトランスフォーマティブ・トラベル(Transformative Travel)」がサステナブルツーリズムの推進においてカギとなると紹介。これは価値観の多様化が進む中で、旅のスタイルも変化している。旅先のライフスタイルを自らの暮らしに取り入れるもので、文化交流を通じて得た共感を自分の生活に反映する人が増えているという。これは昔から旅が持つ効用の一つであるが、インターネットやSNSの発達によって、そのような体験がより身近になったことが背景にあると述べていました。

自身が参画した伊勢神宮のプロジェクトを例に挙げ、外国人向けに単なる歴史的事実ではなく、立地の特徴や1300年以上続く建て替えの伝統など相手の関心に合わせたストーリーテリングを展開することがポイントだと話しました。

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配信アジアンドキュメンタリーズ

また、「旅先での経験を自分の日常に持ち帰って、より良くアップデートしていこうなどリジェネラティブな考え方が広まってきています。トラベルとライフスタイルの境界線が溶けてきているからこそ、サステナブルツーリズムの推進の可能性も秘めているのではないかと思う」と語っていたことも印象的でした。続いて徳岡さんからは「受け入れ側の人間としては、旅先からぜひ来てほしいと思われるような旅人でありたいと思っていますし当協会としてもこれから取り組んでいきたい部分です。また地域側もサステナビリティを意識した事業を行い、同じ価値観を共有できれば、より良い旅が生まれるのではないでしょうか」と今後の展望についてコメントがありました。

最後に、飯塚さんは「旅はしなくてもよいのか」という問いに対し、旅をしないことでむしろ分断が進むと指摘しました。具体的なエピソードとして、ヨーロッパのサステナブルツーリズムの専門家から聞いた「コンフォートゾーンを出る旅」について紹介。これは、人間の観光活動が地球に負荷をもたらすなどの理由から旅は悪者であるかと言った論調に対し、0か100かで判断するのではなく異なる文化や人々との繋がりを持ち、違いを理解することこそが旅の本質、大切な価値であり、その意義を改めて伝えていきたいと語っていました。

「サステナブルな旅」は、けっして新しい概念ではなく旅の根幹を見つめることなのだと改めて感じたエピソードでした。

編集後記

旅によって旅先に生じている悪影響が、世界各地の事例を通して分かりやすく映像化されていた『ラスト・ツーリスト』。地域社会・地域経済・自然環境への影響として、オーバーツーリズムによる住民生活の悪化、交通渋滞やごみ問題、騒音、観光地化による住みにくさなどが紹介されています。また、観光客が消費してもそのお金が地域内に循環せず、外部資本に流出してしまう「リンケージ効果」の問題についても丁寧に解説されていました。

さらに、ボランティアツアーの商業化による「SDGsウォッシュ」の問題にも言及されています。孤児院や小学校などでの短期的なボランティア活動が、かえって子どもたちに負担を与えているという指摘には、一理あると感じました。一部には問題のあるツアーも存在しますが、多くのボランティアツアーは参加者が現地での体験を通じて社会課題に気づき、未来のあるべき社会を考え、自らが変化するきっかけを得るという教育的意義や現地社会への支援にもつながるものです。そのため、真摯に取り組む活動まで一括りに否定しているかのように受け止められる描き方には疑問を持ちます。

現地社会をより住みやすいものにし、参加者には社会課題への関心と学びを提供できるよう、今後も工夫と改善を重ねていくことがボランティアツアーに求められているのではないでしょうか。(サスタビ代表・行方)

負の側面が報道されがちなオーバーツーリズム問題などの観光公害を扱った『ラスト・ツーリスト』。旅好きな方は特にショックを受ける衝撃作です。今回のような上映会の場やゲストトークは、鑑賞後にモヤモヤした行き場のない気持ちをリアルで語り合う良い機会となるのではと感じました。配信でご覧になる方も、ぜひ友人やご家族などと一緒に作品を鑑賞し感想をシェアしてみると新たな発見があるかもしれません。

参考:https://interpretation.jp/interpratation

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