45年前の陸路で世界一周が人生を変えた。代表・行方一正のサスタビに対する想い

大手旅行業者エイチ・アイ・エス(H.I.S.)といえば、日本国外への格安航空券販売や、海外パッケージツアーなどで有名な旅行会社。

45年前に陸路で世界一周をした原体験から、若い人達にもっと海外に出て世界のいろんなものを見てきてほしいと思い、創業間もない1985年にH.I.S.へ入社。

「海外自由旅行」という新しいマーケットの拡大や、スタディーツアーを通してH.I.S.の企業理念「ツーリズムを通じて、世界の人々の見識を高め、国籍、人種、文化、宗教などを超え、世界平和・相互理解の促進に貢献する」を実現してきた人物がサスタビ代表の行方一正です。

役員としてH.I.S.の成長に関わり、代表取締役専務を退任されてからは「旅を通じて、世界の人々の相互理解と、世界の平和を促進する」を理念とした株式会社ピーストラベルプロジェクトを立ち上げ代表取締役を務めています。

他にもモバイルファクトリー社外監査役、株式会社第一カッター興行社外取締役、株式会社デルタ社外取締役、公益財団法人民祭センター評議員、公益社団法人ジャパンチャレンジャープロジェクト監事など、次世代ベンチャー企業への出資、支援を行うとともに、新しい旅の仕組み作りや、ラオスでのIT教育支援など、国を越えた人々の相互理解と世界平和を目指して活動しています。

旅には、よりよい未来を創る「力」があると、「旅の力」を社会に生かす取り組みの1つがサスタビでもあるという代表の行方に、これまでの経歴やサスタビに対する想いを聞きました。

45年前に陸路でした世界一周

行方さん

旅を続けるなかで変化した価値観

45年前に陸路で世界一周しました。世界の人々がどんなこと考えてどんな暮らしをしているのか知りたくて、実際に現地に行って見てみたかったのがきっかです。旅を始めたころは、日本との違いを探し、その国の文化、宗教、言語、食事、生活習慣などの違いに驚き、感動していました。

旅を続ける中で人との出会いが増えていくにつれ、違いではなく人間の本質は変わらないことに気付き、旅の途中から世界の人々の違いを楽しみつつ、人間の共通項を探すような旅になっていきました。そうして、たとえ宗教や生活習慣が違ってもで「本質的に人間は同じだ」と感じるようになっていきました。

人は一人では生きていけないのはどこの国も同じ

全世界に共通して言えると思うのですが、人間は、社会を形成して集団で生活している動物です。家族を作り、伝統や資産を継承し次世代の社会へとつなげて生きています。

人間には元々社会性があり社会を形成し、基本的にはどこの国もそれぞれのルールがあり、相手の人のことを尊重して生きています。自分一人だけでは、生きていけないのは同じです。現地に行き、現地を見、人と出会い旅する中で、「人間って本質的に同じだ」と思うようになりました。

45年前の旅のスタイルとは

当時は「地球の歩き方」もなく、「オデッセイ」というガリ版刷りの同人誌のようなガイドブックと海外のガイドブックを頼りに、あまり細かなルートは決めず、現地についてから旅人同士の情報を参考に旅してました。

旅は偶然の連続、それを楽しむことが旅の醍醐味です。今の様にインターネットや電話もないので、基本的に事前予約はできず、旅先についたら先ず宿を探すことから始める。そんな行き当たりばったりの旅が、その後の人生の自分の価値観に大きな影響を与えました。

H.I.S.創業当時からこれまで

行方さん2

H.I.S.創業当時の様子

世界一周をしたことが原体験となり、もっと若い人に世界に出て現地に行っていろんなものを見てもらいたいと、創業間もないH.I.S.へ入りました。とにかくいろんな世界を見てほしい、いろんな人に出会ってほしいという思いが非常に強かったです。

創業当時は旅好きの集まりで、「もっと安全に安価に安心して自由な海外個人旅行ができる社会にしたい」という思いの強い集団でした。創業当時のメンバーは全員がバックパッカーで、異業種の出身者ばかりでした。

旅行会社に勤めたことも誰もなく、また自身が旅をする際はパッケージツアーも使わない、つまり旅行会社を頼らず旅してきた人達です。ただ、旅が好きで、海外個人旅行するのにこんなサービス有ったら便利だとか、こんな風に旅をすれば安く行けるとか、旅人目線だけで考えていたことがH.I.S.の成長につながったのかと思います。

当時H.I.S.ではどんなことをしていたのか

「誰でももっと自由に世界を旅できるようにしたい」という思いで、海外格安航空券の販売を始め、海外自由旅行の旅の仕方を普及していきました。個人の海外自由旅行という新しいマーケットを作る取り組み、既存の旅行会社とは同じ土俵で戦わず、新しいマーケットを作ってそこでナンバーワンを目指していきました。

当時の旅行業界は規制で守られた業界で、販売価格の規制があり、そんな規制と戦った時代です。創業者である澤田秀雄さん含め全員が、航空券やホテルの手配しながら、現地情報を説明し、自由旅行の楽しさを伝えつつ、オペレーション業務をやっていました。

若い学生がきた時は、自分の旅行の体験談を話しながら、旅の仕方のアドバイスをしたり、旅行の手配だけでなく、旅で得られる気付きや学びについても、お話をする。単に旅行を手配するだけではなく何のために海外へ行くのかを聞き、そのためにできるアドバイスを全力でしました。

自由旅行の新しいマーケットが社会に浸透し始め、H.I.S.は急速に成長し、新しいサービスや商品を提供し、多店舗化しながら、進化し発展していきました。組織は成長する中で、同時に組織の在り方やルールも進化発展し、その時々に合った組織に変化していくものです。その過程に関わったことが自分の人生の中でも大きな財産になりました。

H.I.S.時代から意識していたサステナブルツーリズム

行方さん

衝撃をうけたバングラディッシュのスタディツアー

H.I.S.の基本理念は、「ツーリズムを通じて、世界の人々の見識を高め、国籍、人種、文化、宗教などを越え、世界平和・相互理解の促進に貢献する」ですが、それを実現するためにはどうするべきかを考えた際、現地の社会課題を知ることや、一緒に解決するようなスタディツアーがあってもいいのではないかと思いました。

最初に始めたのがバングラディッシュのNGOを訪ねるスタディツアーです。ブラック(BRAC)という世界一大きなNGOは当時12万人ぐらい職員がいて、5万校もの無料の学校を運営していました。その運営費を稼ぐために様々な事業をしています。

マイクロファイナンスと呼ばれる仕組みの少額融資、ミルク工場や繊維工場、太陽発電、モバイルのネットワーク系の会社など、ありとあらゆるものからの収益をあげ、学校や病院、農業研修センターなどを運営しています。

BRACの経営スタイルは、一般の企業のCSR経営と比較すると、頭一つ突き抜けているような感じで、衝撃的でした。ここの訪問では、企業経営する中でたくさんの気付きをいただきました。H.I.S.を退任した今でもこのバングラディッシュのBRACのスタディツアーについては、またやってみたいと思っております。

BRACは持続可能な社会をつくることに繋がるためのスタディツアー

サステナブルツーリズムとは、旅人と観光関連業事業者が地球環境、経済、社会に配慮することで、旅を通じて「持続可能な社会」を作っていく事だと思います。持続可能な社会を次世代に繋いでいくというのは、今の世代の人々が、次世代の人たちがより良い社会を作る為に改善できるような余地を残しておくこと、今の世代が次世代に問題を先送りにして、付けを回さないことです。

そういう意味でBRCAの取り組みは、社会課題を解決し地域社会をより持続可能にしていると感じました。次世代に向けて教育の機会を提供することや、貧困層に向けてビジネスチャンスを提供したり、訓練を受けた人に新たに職業を提供しているのは素晴らしいです。

貧困でチャンスのなかった人々に機会を提供して、生きていける力をつけ、より良い社会を作ろうとすることは、持続可能な社会をつくることに繋がるという意味で、BRACのスタディツアーはサステナブルな旅を学ぶにはよいかもしれません。

サスタビを立ち上げたきっかけとは

旅をすることには意味がある

旅することは人生観や新しい価値観の形成に繋がります。旅そのものは人間形成にはプラスになると確信しています。

コロナ禍で旅をすること移動することは、感染を広げないために自粛され始めました。「旅は、不要不急で、本当に旅はしなくてもいいものなのか」と自問自答する日々が続きました。出た結論はやっぱり旅は必要で、旅することは意味があるということでした。

旅にもっと出ていく為にも今までの旅の仕方でなくて、ウィズコロナ、アフターコロナの「新しい旅のあり方」を提案していかなければいけない。その為には、先ずサステナブルツーリズムの啓蒙活動とサステナブルな旅人(レスポンシブルトラベラー)を増やしていきたいと思いました。

そうして、サステナブルな旅人が利用したくなる様な、サステナブルな活動をしている宿、施設、アクティビティー、レストランなど紹介していきたいと考えたのがきっかけです。

「新しい旅のあり方」を時代にあわせてみんなと考える

サステナブルな旅とは、旅先の人々の地域社会が「持続可能な社会」になるよう、旅人も注意しながら旅をすることです。その為には旅人が意識的に旅のあり方を変えていく必要があります。

ただ実現方法が正直自分自身でもわからずにいたため、みんなで情報サイトを作り、旅の仕方を旅人たちと一緒に考えていくことから始めたのがスタートです。

明確な答えはもちろんないけれど、旅をするにあたって注意した方がいい点など、「新しい旅のあり方」を時代にあわせてみんなで創っていきたいと思います。

コロナ禍で気付かされた旅のマイナス面

コロナ感染が拡大した時、一部の県知事が、観光客がくることをお断りする場面もありました。観光客が訪れることで地域社会に悪影響を及ぼすわけです。

旅行というものは、楽しんで現地でお金を使えば当たり前のように現地のためになっていると思っていたのですが、行くことで生じるマイナス面もあるということに改めて、気付かされました。

以前からオーバーツーリズムの問題は指摘されていましたが、旅人も、観光業界も、そのことにあまり目を向けられていなかったのですが、コロナ禍で一気に、サステナブルツーリズムの」重要性が取り上げられるようになりました。

持続可能な観光とはなにかを考えるところが出発点

先ず、旅人が意識的に旅のあり方を変えていかないといけないと思いました。サステナブルな旅っていうのは、旅先の地域が、持続可能な社会になるように、旅人が、環境・社会・経済に配慮しながら旅することです。

コロナ禍以前から一部のレストランやホテルなど旅人を受け入れる側に「持続可能な観光」の意識があり、実際に取り組んでいるところもありました。地域の食材を使ったり、自然環境を配慮した建物だったり、再生可能エネルギーの導入、節水、プラスチックの削減、CO2削減などのアクションです。

ただ旅行者側は、旅行中の行動にそこまで意識していなかったのではないでしょうか。だからこそもう少し旅人目線で「持続可能な観光とは何か」の問いを発信して、旅人を変えていくことが必要だと感じたこともサスタビを始めようと思ったきっかけです。

旅人を「新しい旅のあり方」に少しずつ変容させる啓蒙活動がサスタビのミッションです。旅人が及ぼす旅先でのネガティブな要素を知り、より責任あるモラルのある旅人を増やしていきたいと思います。

どんな人にサスタビのサイトを使ってもらいたいか

いろんな形のサスタビを求める人に使ってもらいたい

サステナブルな旅をしたい人や、サステナブルな旅とはそもそも何であるかを知りたい人達に使いやすいサイトを提供していきたい。

旅を楽しみながら、どんなホテルに泊まればいいのか、どこに食べに行けばいいのか、どんなアクティビティがあるのか、サステナブルな旅の楽しみ方を提案していきたいです。

サステナブルツーリズムの意識が高くとも、情報がを探すのに現状では難しく特に地方で真剣にサステナブルな活動している人たちがたくさんいるので、その人たちを応援していきたいし、必要としている人たちの役に立てたら嬉しいです。

また、個人のライフスタイルを重視する社会に変化してきています。個人で自分のライフスタイルに合う旅を探している人たちや、なにかサステナブルなライフスタイルを目指している人たちが、最初のマーケットになるのではないでしょうか。この人達に対応するためには、今までの一律のパッケージ化されたサービスではなく、一人一人のニーズに合った対応が必要になりますね。

日常からサステナブルを意識することが大切

旅に行くときだけサステナブルになるというのはおかしいです。そのときだけペットボトルは買いませんと言いながら日常でペットボトルを大量に買っていたら意味がありません。

日常の生活習慣の延長でなければおかしいと思います、旅する時だけ取り組めばいいというのは違うかなと思います。だからこそ旅行だけではなくて基本的に日常的にサステナブルな行動をしている人たちが大きなターゲットになると考えています。

 

行方 一正(なめかたかずまさ) (株式会社ピーストラベルプロジェクト代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒業、1978年に陸路で世界一周を達成。世界の多様性と人間の普遍的な共通項に気付き、人生観に大きな影響を受ける。

帰国後は実家の事業に携わり、のち1985年に創業間もないH.I.S.入社。役員としてH.I.S.の成長に関わり、組織拡大の中、様々な課題解決に取り組む。2005年代表取締役専務、2008年取締役相談役、社内ではCSRの推進に力を入れる。2018年特別顧問、2019年H.I.S.を退任。

現在は株式会社ピーストラベルプロジェクト代表取締役、株式会社モバイルファクトリー社外監査役、株式会社第一カッター興行社外取締役、株式会社デルタ社外取締役、公益財団法人民祭センター評議員、公益社団法人ジャパンチャレンジャープロジェクト監事などをつとめる。 次世代のベンチャー企業への出資、支援、新しい旅の仕組み作り、ラオスでIT教育支援。 国を越えた人々の相互理解と世界平和をめざし活動中。

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