サステナブルな温泉郷「黒川温泉」
日本人はもちろん、世界中の人に愛される「温泉」。皆さんが一番好きな温泉地はどこですか?
今日は、熊本県の秘境にある「黒川温泉郷」についてご紹介します。
九州の山奥にあり、一度は存続の危機に陥りながらも、地域で手を取りV字回復をし、今ではサーキュラーエコノミー(廃棄物を出さずに資源を循環させていく仕組み)やサステナブルな取り組みで世界中から注目を集める観光地になりました。
2009年版のミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは温泉地として異例の2つ星の評価を獲得したほか、グッドデザイン賞特別賞、第1回アジア都市景観賞など数多くの賞を受賞しています。その秘訣はどこにあるのでしょうか?
熊本・黒川温泉ってどんなところ?
黒川温泉は、熊本駅・空港から阿蘇へ向かいさらに山奥へ、大分県との県境である南小国町(みなみおぐにまち)にあります。駅や高速道路から離れ、緑ゆたかな山々に囲まれた秘境の温泉です。
30軒の旅館が集まった小さな温泉郷は、里山の風景とそこにある全ての宿をひっくるめて地域全体を「一つの大きな旅館」と考える「黒川温泉一旅館」という地域理念を持って発展しました。
それぞれの旅館は「離れ部屋」、各旅館をつなぐ細い路は「渡り廊下」、地域にある自然は「中庭」というように、温泉街全体がまるで一つの旅館のようになり、訪れた方々を地域のお客さまとしてみんなでお迎えし、同じ気持ちでおもてなしする。
その姿勢が年間約100万人が訪れる、日本有数の温泉地の秘訣なのです。
地域全体で稼ぎ、地域を支える「入湯手形」
引用:黒川温泉公式HP
黒川温泉を訪れる観光客に特に人気なのが「入湯手形」です。
「入湯手形(大人 1枚 1,300円)」を購入すると、黒川温泉の旅館 27ヵ所の露天風呂の中から、好きな 3ヵ所の温泉を選んで入浴できます。さっと浴衣を羽織って、旅館の枠を超えて個性あふれる露天風呂をお得にめぐることができます。
「一軒で儲かるのではなく、地域全体で黒川温泉郷を盛り上げたい」との思いから生まれた入湯手形は、多くのメディアに取り上げられ、黒川温泉の人気上昇に一役買いました。
入湯手形の売り上げは、一部が実際に観光客がめぐった宿に還元され、残りは黒川温泉協同組合の利益として黒川温泉郷全体の未来のために継続的に投資されています。
たとえば、売上の1%を自然資源の保全活動に還元することを明記している他、入湯手形の素材には小国郷の杉・檜の間伐材を活用し、老人会など地域の事業者に制作工程に関わってもらうことで、地域の資源循環や地域経済にも役立っています。
引用:黒川温泉公式HP
「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」
温泉郷の中で循環しているのは、観光客やお金だけではありません。
黒川温泉では、2020年9月から旅館で出る食べ残しりや生ゴミを利用したコンポスト(堆肥化)をしています。
旅館から集めたごみでできた堆肥を地域の農家さんに供給し、そのたい肥を使って作った野菜は旅館で提供されるという資源の循環が生まれているのです。
さらに、黒川温泉の温泉水(ミネラル成分)を含んだ完熟堆肥としてブランド化し、販売もしているのですが、現在は何と売切れ!地域外への発信にもつながっています。
このプロジェクトのアドバイザーには、コンポストアドバイザーの鴨志田純さんとサーキュラーエコノミー専門家の安居昭博さんを招き、地域の内外の人の知恵を借りながら、持続可能な地域・社会づくりを進めているのです。
次の百年を作るあか牛「つぐも」プロジェクト
引用:黒川温泉公式HP
阿蘇地域で生産される「あか牛」というブランド牛があります。広大な草原に放牧されたあか牛のいる風景は、阿蘇のランドマークでもあります。
牛の放牧や野焼きによって草原は守られ、またその草原があるからあか牛が育ちます。だからこそ、地域の資源を損なわない規模で需要と供給のバランスが取れた生態系を目指し、その飼育を担う少数の地元農家も受け継いでいかなければなりません。
そこで「あか牛で南小国にある循環の輪を百年後へ継ぐ」という想いを込めて、「継ぐ」と「牛(モー)」をかけあわせ『つぐも』プロジェクトを始めました。
つぐもプロジェクトのあか牛は、生産者の顔や育成方法がみえる、南小国町で最初から最後まで育てたあか牛で、これらの牛肉を取り扱う加盟店で対象のあか牛プラン・メニューを食べると、1食につき50円が「あか牛ファンド」として寄付されます。
地元の人、そして観光客も一緒になって、このあか牛の周りにある循環型生態系を未来に受け継いでいく事ができるのです。
サーキュラーエコノミーによる確固たる地域ブランド
南小国町・黒川温泉で長きにわたって人と人、人と自然が共生しながら育んできた「景観」「農業」「観光」という3つの循環。
その循環を見つめ直し、もともとあるものを守りながら、地域の内外を巻き込んで新しい循環も生み出していく。それが、現代の社会では「サーキュラーエコノミー」という一貫した軸で、地域のブランディングに繋がり、地域の持続可能性に繋がっています。
サステナブルな観光、と聞くと「実現するのが難しそう」「お金にならないのではないか?」と思われることもありますが、その地域で受け継がれてきた営みの中にそのヒントがあり、それが地域の未来の鍵になるのかもしれません。
この記事へのコメントはありません。