オルタナティブツーリズムとサステナブルツーリズムのちがい

サステナブルツーリズムは、オルタナティブツーリズム(alternative tourism/ alternative forms of tourism)とどのような関係にあるのでしょうか?○○ツーリズムという言葉がたくさんあって、混乱したり、それぞれの特徴や違いがよくわからなくなっている人も少なくないかもしれません。

以前、サステナブルツーリズムと他の観光形態とのちがいについて整理しましたが、今回はその記事を踏まえ、オルタナティブツーリズムとサステナブルツーリズムとのちがいに焦点化してみたいと思います。

マスツーリズムとは

オルタナティブツーリズムの重要な特徴は、それがつねに「マスツーリズムとの関係において理解される」という点にあります。

マスツーリズム。つまり、観光が産業化され、大衆が比較的容易に観光を楽しむことができるようになった「大衆観光」の成立は、およそ19世紀半ばまでさかのぼることができます。

1969年には大量輸送を可能とするジャンボジェットが就航しましたし、その前後ではビザの規制緩和や労働のあり方が国際的に変化したり、国内では交通手段(たとえば新幹線開通など)の発展が各所で進んだりしたことで、余暇を楽しむための国内外への観光移動が容易となりました。またLCC(ローコスト・キャリア)の展開なども見逃せません。

同時に、観光は国家や地域の経済発展の切り札としてその価値を高めていきます。国内外からの観光客を受け入れるために、地域にはリゾートや大型宿泊施設の建設が急進し、観光地の開発がこぞって進められてきました。外貨獲得や国内の観光客による消費の増大、さらには観光施設の開発による地域雇用創出も見込まれました。

こうした観光客の増加と観光開発の展開との相乗的な展開を、ひろくマスツーリズムと理解することができるでしょう。

しかしマスツーリズムの展開は、見逃せない負の影響も引き起こしてきました。観光地の大規模開発は地域資源の破壊・収奪を伴い、大量の観光客の襲来は地域の自然・社会に大きな負担を課してきました。また観光客と地域住民との間の不均衡な力関係が露見したり、観光地への外部資本の展開が地域経済の疲弊や雇用問題を招いたりするケースも少なくなかったのです。なお、これらの問題は「オーバーツーリズム」としてこんにちに続くものでもあります。

・オーバーツーリズムの解説はコチラ

オルタナティブツーリズムとは

マスツーリズムがはらむ諸課題を乗り越えるべく提唱されたのがオルタナティブツーリズムです。直訳すれば「もうひとつの観光」や「もうひとつの観光形態」という意味ですね。この「もうひとつ」という部分には、「マスツーリズムに代わる…」という含意があるのです。

エコツーリズムやグリーンツーリズムなど、具体的な特徴をそれぞれもつ○○ツーリズムはたくさんありますが、それらのツーリズムがマスツーリズムとの関係や対比において理解されるとき、それはオルタナティブツーリズムと位置づけることができます。これがオルタナティブツーリズムのひとつ目の特徴です。オルタナティブツーリズムは個々の○○ツーリズムを包含しますが、それはつねにそうというわけではなく、あくまで「マスツーリズムとの関係」が暗示されたり強調されたりする場合においてであると、言うことができるでしょう。

Bosco Verticale(イタリア・ミラノ)。縦に伸びた森とも称されるリジェネラティブ建築

・「リジェネラティブ」と「サステナブル」の違いについてはコチラ↓

サステナブルツーリズムとオルタナティブツーリズムの関係:理念と手段

しかし、サステナブルツーリズムも、マスツーリズムに対する反省やその課題解決を意図した概念ですね。だとすると、サステナブルツーリズムもまたオルタナティブツーリズムの一種なのでしょうか?

それは、厳密には異なります。一言で違いを述べるとすれば、サステナブルツーリズムは概念・理念である一方で、オルタナティブツーリズムはその目的を達成するための具体的な観光形態の総称なのです。後者がオルタナティブツーリズムの2つめの重要な特徴です。

2017年は「開発のための持続可能な観光の国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」であり、サステナブルツーリズムが持続可能な社会の構築に貢献することのできる観光としてその重要性が発信されました。あわせてこの国際年が提示したのは「オルタナティブツーリズムがうまくいっていないこと、そして、したがって関心のある人にだけオプションとして「持続可能性」の商品やパッケージを提供するやり方ではなく、観光の全体を変革することが必要であるという認識 (a recognition that the alternative forms of tourism strategy has failed and that we urgently need to change tourism as-a-whole, instead of offering optional “sustainable” packages and products only to those who care.)」だったのです(Salazar, 2017)。

ここから読み取れるように、サステナブルツーリズム(持続可能な観光)は、「観光の全体を変革」することを問題意識としています。つまり、サステナブルツーリズムは特定の観光形態を指すものではなく、「すべての観光において重視される必要のある、土台としての”理念”」にほかならないのです。これに対してオルタナティブツーリズムは、既存の観光(マスツーリズム)の課題を解決すべく提示される具体的かつ特定の観光形態を総称として指示する言葉だということです。

まとめると、サステナブルツーリズムは目標を指し示すものであり、オルタナティブツーリズムはその具体的な手段(の総称)を示すものなのです。またサステナブルツーリズムは「観光の全体」すなわちすべての観光形態において意識されるべき理念であるのに対して、オルタナティブツーリズムはあくまで個別の観光形態がマスツーリズムの課題をいかに解決・改善できるかを問うものなのです。

理念と手段という大きな違いが、この2つのツーリズムには存在します。「持続可能な観光」は、「観光を、そして社会をすべて持続可能にしていこう、そのための土台をつくろう」というスローガンとして読み替えれば、その特徴が理解しやすいかもしれません。もちろん、オルタナティブツーリズムとサステナブルツーリズムとの違いや関係についてはまだまだ議論すべきポイントがありますが、さしあたり、ここまでの内容をひとつの特徴として押さえておくことは大切でしょう。

【参考文献】
Salazar N. B. (2017). Sustainable Tourism… for Development? Anthropology News (Aug. 14, 2017 https://doi.org/10.1111/AN.573)

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    • namekata2

    大変分かり易い解説だと思います。
    手段としてのオルタナティブツーリズムを目的別にいろいろ考えて、思いつくまま、書き出してみました。
    エシカルツアー、スタディーツアー、エコツアー、アグリカルチャーツアー、ジオパークツアー、ボランティアツアー、アドベンチャーツアー、
    ツーリズムを付けると、エコツーリズム、グリーンツーリズム、アドベンチャーツーリズム、エスニックツーリズム、カルチャーツーリズム、ルーラルツーリズム、ネイチャーベースドツーリズム、コミュニティーベースドツーリズム、ワイルドライフツーリズム、巡礼ツーリズム、マイクロツーリズム、インダストリアルツーリズム、ヘリテージツーリズム、ヘルスツーリズム、メディカルツーリズム、ロングステーツーリズム、フードツーリズム、アンダーツーリズム、ダークツーリズム、ユニバーサルツーリズム、
    他にも、まだまだありそうですね。

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