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旅人とオーバーツーリズム【前編】いまこそ考えたいオーバーツーリズム

旅人とオーバーツーリズム【前編】いまこそ考えたいオーバーツーリズム

観光公害」とも呼ばれる、オーバーツーリズムの問題。

いかに旅をするか、いかに旅をつくるかという問題を考えるとき、この課題を無視することはできません。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、これまで押し寄せていた観光客が激減した地域も少なくありませんが、そのようにして一種の「転換点」にありうる今だからこそ、オーバーツーリズムを再び問題化させないように、いまいちど検討しなおすことが重要だと考えられます。むしろ、これまでの旅のあり方を振り返り、これからの旅のあり方を考えていく重要な岐路にいま、私たちは立たされているというべきかもしれません。

そこで今回の記事では、前編と後編にわけて、オーバーツーリズムについて改めて考えてみたいと思います。この前編では基礎的な事柄について整理し、後編では、オーバーツーリズムの問題を乗り越えるために私たち一人一人の旅人にいったい何ができるのか、アイデアを模索してみます。

オーバーツーリズムとは?

オーバーツーリズムは、一言でいうならば、観光地が耐えうる以上の規模で観光客が集まり、地域に負荷がかかってしまうこと、そして、それによって様々な負のインパクトが生じてしまう状況をさしています。

レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)の実現をめざした取り組みを進めているResponsible Tourism Pertnershipは、オーバーツーリズムが生じた観光地のことを「観光客が多すぎることによって、その地域の生活の質や体験の質が受け入れがたいほど悪化していると、ホストやゲスト、地域住民や観光客が感じるような観光地」と説明しています。そしてオーバーツーリズムは、より住みやすく、より良い場所を作るために観光を利用する「責任ある観光」とは対極にあるものだと位置づけています(Goodwin, 2016)。

オーバーツーリズムは、とくに欧州の都市や、日本では京都や鎌倉、川越などで問題が露見してきました。イタリアでは観光クルーズ船が寄港することで周辺地域に大量の乗船客があふれ、トイレ不足などの問題が生じたり、鎌倉では地域の公共交通機関を大量の観光客もまた利用することで、地域住民の日常的な通勤や通学等の移動に支障が出てしまったりする例がありました(権 2018の整理や、高坂2020を参照のこと)。

また、地域の景観を大きく変容させてしまうケースもあります。観光客の混雑が日常的な風景になることだけでなく、商店街が観光客向けの「観光商店街」になってしまうなどの例が、たとえば京都・錦市場では起きてきました(中井 2019など)。ほかにも、外国人観光客とのディスコミュニケーションによる軋轢の発生や、地価の上昇、地域の産業構造や生業の変化、自然環境の悪化、地域住民による「観光疲れ」や観光者への負の感情の高まりなど、多様な例が挙げられます(阿部ほか編 2020も参照)。

古くて新しい問題?

ただ、そうした状況をオーバーツーリズムと呼ぶこと自体は2010年代半ば以降の比較的近年の問題意識であって(たとえば旅行業界向けのウェブメディアSkiftでは、2016年にこの言葉が記事に書かれています。詳細はAli (2016)を参照)、観光客の集中や環境負荷などの問題は以前からずっと生じてきたものだということは、念頭に置く必要があるかもしれません。たとえば自然公園や、世界遺産に登録された地域においてこの種の問題は以前からつねに議論されてきました(三浦, 2011 ;Wagar, 1964など)。

またUNWTO(国連世界観光機関)も、オーバーツーリズムという言葉が用いられるようになる以前から、「物理的、経済的、社会的文化的な環境の破壊や、観光客満足度の許容できないレベルの低下を引き起こすことなく、観光地を同時に訪れることができる、観光客の最大人数」のことを観光における環境収容力 (tourism’s carrying capacity) と表現し、着目してきました(UNWTO, 2018:3)。

観光客をどうマネジメントするか。そのために、地域コミュニティと観光セクターがいかに対話を重ね、それぞれの地域や文脈に適した「観光地のあり方」をつくり、提示していくか。また観光客の側は、自身らが地域に対して与えうる負荷や負の影響をいかに自覚し、最小化しようと努力することができるか。オーバーツーリズムという新しい名前がついていても、対策や、意識すべき事柄はそう新しいものではない可能性があります。

その対策

オーバーツーリズムは、もちろん地域それぞれの文脈や特性、インフラ整備やコミュニティのあり方に応じた個別具体的できめ細かな対応が求められるでしょう。そのうえで、『オーバーツーリズム:観光に消費されないまちのつくり方』(学芸出版社、2020年)を著した高坂晶子氏は、オーバーツーリズムに対する具体的な対処策として次の3つを挙げています(高坂, 2019;2020)。

  1. 分散
  2. 課金等経済的インセンティブ
  3. 規制

分散」は、著名な観光スポットに集中しがちな観光者の分散を図り、混雑を回避しようとすることであり、さらに空間的分散、季節的分散、時間的分散に分けて考えることができるとしています。

入山料や拝観料、施設への入場料を払う機会がありますね。「課金等経済的インセンティブ」とは、そのようにして料金徴収の仕組みを導入することによって、観光者の総数を減らすとともに、徴収されたお金を観光振興や施設整備に活用する手法です。

最後に「規制」ですが、これは観光者の特定の行為を禁止する「行動規制」(例:食べ歩き)、特定の場所への観光者の立ち入りを禁止する「立ち入り規制」、一定数以上の同時入場を規制する「入場規制」、そして「交通規制」の4種に大別できるとされます。ただし、この規制や禁止は即時的な効果が見込める一方で、観光者への負荷や地域へのマイナスイメージの生産といった恐れがあるため、じっさいに導入されることは稀だといいます。

旅人には何ができるのか?

上に見てきたオーバーツーリズムの対策はしかし、地域の政策的なレベルで取り組まれるものが主体となっています。観光者を受け入れる側の地域社会や行政、観光セクターが議論を重ね、地域に即した対策を練り上げていくことは言うまでもなく重要なことですが、他方で「観光をする側」の旅人には、いったい何ができるのでしょうか。

次回の「後編」では、この点について考えてみたいと思います。

以下に今回参照した文献を載せていますので、もっと学びたい方はぜひアクセスしてみてください。

 

参考文献

  • 阿部大輔ほか編(2020)『ポスト・オーバーツーリズム: 界隈を再生する観光戦略』学芸出版社。
  • Ali, Rafat (2016). Exploring the Coming Perils of Overtourism. Skift. 23 August, 2016. (https://skift.com/2016/08/23/exploring-the-coming-perils-of-overtourism/ 2022年7月20日最終確認).
  • Goodwin, Harold (2016). OverTourism: What is it and how do we address it?, Responsible Tourism Pertnership, 27 October, 2016. (https://responsibletourismpartnership.org/overtourism/ 2022年7月20日最終確認).
  • 三浦恵子(2011) 『アンコール遺産と共に生きる』めこん
  • 中井治郎(2019) 『パンクする京都 : オーバーツーリズムと戦う観光都市』 星海社。
  • 高坂晶子(2o19)「求められる観光公害(オーバーツーリズム)への対応
    ―持続可能な観光立国に向けて―」『JRIレビュー』6(67):97-123。
  • 高坂晶子(2020)『オーバーツーリズム: 観光に消費されないまちのつくり方』学芸出版社。
  • UNWTO (2018). ‘Overtourism’? – Understanding and Managing Urban Tourism Growth beyond Perceptions. Madrid, Spain.
  • Wager, J. Alan (1964): The carrying capacity of wildlands for recreation, Forest Service Monograph, 7, pp.1-24.

 

この記事を書いた人

石野 隆美

立教大学大学院観光学研究科、博士課程後期課程に在籍中。専門は文化人類学、観光研究。北海道札幌市出身。論文に「ツーリスト・アクセス――「アクセス」概念が拓くツーリスト像の検討に向けた理論的整理 」(『観光学評論』9(2)、2021年)など。また分担執筆に『よくわかる観光コミュニケーション論』(ミネルヴァ書房、2022年)、『アフターコロナの観光学――COVID-19以後の「新しい観光様式」 』(新曜社、2021年)など。

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