【神奈川】泊まれる出版社で地域を再編集する・真鶴出版

神奈川の西端にある小さな半島・真鶴(まなづる)

神奈川県にある真鶴半島をご存じでしょうか?

小田原(神奈川)と熱海(静岡)の中間にある小さな半島です。今回、真鶴半島を訪れたのはどうしても泊まってみたい宿があったから。

その名も『真鶴出版』。そんなユニークな宿からはじまる、地域の文化や人々の営みを感じられる真鶴での旅についてご紹介します。

泊まれる出版社・真鶴出版へ

小さな泊まれる出版社「真鶴出版」

『真鶴出版』はその名前からもわかるように出版社です。でも、ただの出版社ではありません。主に宿担当の來住友美(きし・ともみ)さんと、出版担当の川口瞬(かわぐち・しゅん)さんご夫婦が営む「泊まれる出版社」です。

出版業を通じて真鶴の魅力を発信し、その情報を得て真鶴にやってきた人を宿で受け入れる、そんな循環を夫婦で生業とする素敵な生き方に心を奪われてしまいました。

移住後すぐにお試しではじめた1号店での経験を踏まえ、現在は試行錯誤を経て「旅と移住の間」をコンセプトとする2号店で営業しています。

町歩きで知る、真鶴の暮らし

真鶴出版の特徴の1つに、はじめてきた宿泊ゲスト向けての町歩きがあります。ただ泊まるだけではわからない、真鶴の暮らしの風景や魅力を、約1.5~2時間ほどかけてゲストと一緒に街を歩きながら紹介してくれます。

今回私たちを案内してくれたのは、スタッフの山本さん。はじめに真鶴の地形や歴史、産業について。そして、真鶴独自のまちづくり条例「美の基準」について教えてもらいました。

「美の基準」とは、バブル最盛期の頃、リゾート法の制定により各地にリゾートマンションの建設が相次いだころ、真鶴の町の景観や暮らしを守るために生まれた町の条例です。一般的な数値規制だけでなく、「眺める場所」「生きている材料」「実のなる木」「小さな人だまり」など、個性的でありながらこの町に暮らす住人たちがみんなで守りたいと思うような、真鶴の町の要素が盛り込まれています。

・静かな背戸(せと)

真鶴について少し知れたところで、いざ真鶴の町へ!

真鶴出版の玄関を出てすぐの道は、人がぎりぎりすれ違えるくらいの細い路地です。これこそが真鶴の町を象徴する「背戸道(せとみち)」で、背中側がすぐ他の家の戸にあたるくらい細い道のことです。家の敷地や私道との境界が曖昧で〈私〉と〈公〉が緩やかに溶け合う不思議な空間でした。

・小さな人だまり

少し歩くと道のわきに井戸が!ここの水は誰でも自由に組むことができるほか、道路から少し入ったところにスペースがあるため、道であった人同士がここで立ち話ができるようになっているのだそう。まさに“井戸端会議”が開かれるのですね。

・生きている材料

「この電柱は木柱です」と山中さんに言われて見ると、たしかに高い1本の木でできています。何となく歩いていては通り過ぎてしまいそうなところにも、注目ポイントがありました。

・地の生む材料

真鶴の地場産業は漁業と石材業だそう。特に石材業は15年前の噴火による溶岩でできた真鶴の地盤から採れる「本小松石」という最高品質の墓石で知られています。その説明を聞いたうえで町を歩くと石材店の看板が多いことにも気が付きます。

「この石垣が面白いんです。」と言われて見ると、3種類のやり方で石が積んであります。石材屋さんのお宅の壁で、職人さんが遊び心も込めて作ったんだとか。

・眺める場所

町歩きの最後は、半島の先端と港が見えるとっておきのスポットへ。「どんな町に住みたいかな~?」「あんな生き方がしてみたいな」そんなことをしゃべりながら、しばらくぼんやりと海を見下ろしていました。

山中さんに記念に写真を撮ってもらい、おすすめのごはん屋さんを教えてもらったところでいったん解散。夕飯を食べに向かいました!

訪れた人と町をつなぐ宿

真鶴出版では夕飯の提供は行っておらず、地元でおすすめの飲食店を案内してくれます。この日伺ったのは真鶴駅前にある居酒屋・冨士食堂さん。真鶴で採れた新鮮な魚介類と一緒にビールをごくり…!

真鶴出版に泊まっていることを伝えると「かえって宿で食べな!」とお土産に海苔をくださいました。あったかい…。

2日目の朝ごはんは地元の商店・八百留さんの野菜で作ったスープと、パン屋秋日和さんのパンを山中さんが用意してくれました。

真鶴出版から徒歩2分の所にあるパン屋秋日和さんは、実は真鶴出版への宿泊がきっかけで移住したご夫婦が始めたお店なんだとか!滞在中のあちらこちらで、真鶴出版がゆるやかに紡ぐ、よその人と真鶴の関係性が感じられました。

「旅」と「日常」の間で、ふっと肩の荷を手放す

2日目の日中は、漁港にある観光案内所で釣り道具を借りて初めての釣りに挑戦!その後は、こちらも真鶴出版のお二人の先輩移住者に当たる「真鶴ピザ食堂KENNY」さんで名物・塩辛ピザなどを堪能し、最後は隣の湯河原まで足を延ばして温泉を楽しんだ後、帰路につきました。

首都圏からすぐの小さな町・真鶴で、この地に昔から残る営みや移住してきた人たちの足跡を感じていると、なぜだか今ここに立っている自分自身のこれまでとこれからにも自然と意識が向きました。遠くへ行って、たくさん消費をしなくても、日常にある隙間やちょっとした寄り道の中から、新たな関係性や生き方が立ち上がってくるような、そんな旅でした。

実は真鶴出版の建物にも、地元の職人さんたちと共に地域の中で見つかった古い窓枠や引き戸、机などが使われているなど、こだわりとサステナビリティがたくさん詰まっているのですが、それについてはぜひ「小さな泊まれる出版社(真鶴出版)」を読んでみてください。

真鶴出版に泊まるのが2倍、3倍、面白くなると思います!

 

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