インフラツーリズムと馴質異化【前編】足もとから考えるサステナビリティ

インフラストラクチャーとツーリズム

橋やダム、発電施設など、私たちの日々の生活や移動、エネルギー供給などを下支えしているインフラストラクチャー(以下、インフラ)が観光資源となるような旅/観光のことを、「インフラツーリズム」と呼びます。

今回の記事では、このインフラツーリズムを切り口にして、私たちの日常生活や旅の時間をより豊かなもの、よりサステナブルなものにしていくために必要不可欠な「視点」について考えたいと思います。その視点を一言で表現すると「馴質異化の視点(making the familiar strange)」です。

まずはインフラとはなにか、それはどんな特徴をもっているのかについて前編でまとめてから、後編でインフラを観光するインフラツーリズムについて触れ、サステナブルな旅と社会の実現にむけたヒントを探ってみましょう。

インフラ:当たり前。だけど、よくわからない。

インフラと言えば、すぐに思い浮かぶのはたとえば水道やガス、電気ですね。また、近年ではインターネット環境もインフラとみなされているでしょう。ほかにもインフラに当てはまりそうなものはたくさんあります。公共交通機関や道路、学校や公共施設、さらには農業や漁業などの一次産業もそうですね。こうして挙げていくとキリがないほどインフラは幅広い言葉ですので、ここではひとまず「私たちの生活や行動を下支えしている、必要不可欠なもの」と簡単に定義しておきたいと思います。

そして、インフラには興味深い特徴があります。それは、「不可視性=普段は目に見えない」という点にあります。

インフラは、いうまでもなく「なくてはならないもの」です。電気がない生活、ネット環境がない生活、あるいは、道路や橋がない(壊れてしまった)生活など、もしインフラがなくなってしまうと私たちの生活は一変してしまいます。

しかし同時に、普段の生活においてインフラは「そこに“ある”ことが当たり前になっているもの」でもあります。スイッチを押したら部屋の電気がつく、スーパーに行けば野菜が売っている、駅に行けば時刻表通りに電車が来る、穴やひび割れを心配することなく道を歩くことができる……それらは、肌感覚としてもはや「当たり前」になっています。朝起きて歯を磨こうとして蛇口をひねるとき、「今日は蛇口をひねったら水が出るだろうか?」と考えることはふつうはありません。

つまり、うまくいっているときはその存在を意識しないようなもの、あるいは、普段は疑いや心配の対象にもならないもの。それがインフラのひとつの特異な性格(=不可視性)なのです。

ではインフラが存在感あるものとして私たちの眼前に現れるのはどういうときでしょうか。それはインフラが壊れたり、機能障害を起こした時(起こしそうな時)です。地震や台風などの災害が迫ってきたとき。交通事故が起きて通行止めが起きたとき。電車が遅れたり運転見合わせしているとき、などなど、なにやら問題が発生したときにはじめて、「これまではうまくいっていた」ことが遡及的に(=振り返って)実感されることになります。

サステナビリティ・インフラ・日常生活

インフラは、普段は透明で不可視なもののように私たちを取り巻き、私たちの生活を下から支えてくれています。しかし、そのことに気づくことができるのは、インフラに不調や不備がもたらされたときがほとんど。

そのように考えてみると、サステナビリティに関わる多くのトピックとインフラは深く結びついていることに気がつきます。持続可能性がこんにち問われているのは、私たちの生活をこれまで下支えしてくれていたエネルギーや資源、そして環境といったインフラストラクチャーが危機に直面しているからにほかならないからです。言い方を変えれば、これまで不可視化されていた(それゆえに無頓着に利用・使用することができていた)エネルギーや資源の扱い方に、私たちが自ら意識的になることが求められているといえます。

私たちの日常生活はどのようにして成り立っているのか。私たちの移動はどのような資源やエネルギー、公共の施設や制度によって可能になっているのか。私たちの旅や観光にはどのようなインフラストラクチャーが関わっているのか。そうしたことに自ら進んで意識的になり、可視化し、サステナブルな向き合い方へと転換させていくことがいま求められているのではないでしょうか

馴染み深いがゆえに、そこにあることが当たり前になっている、私たちをとりまく環境やエネルギー、社会の仕組みや人の優しさなどの存在に意識を傾けていくことが必要です。そのためには、その馴染み深さ=透明さに目を凝らさなければなりません。

インフラへの注目はサステナブルな旅に必要な「眼」を育てる

こと旅や観光においては、しばしば私たちは新しいものや特殊なものに興味を引かれてきました。いわば「馴染みのないもの」にまなざしを向けてきたのがこれまでの観光だったかもしれません。他方でインフラが織りなすような「馴染みある景色」は、私たちの足もとに広がっているものです。

馴染みのない景色に感じるワクワク感を、馴染みのある景色においても体感することは可能なのでしょうか。ありふれたものを別の角度から捉えて「面白がる」ことがもしできるようになるならば、旅も日常生活もきっと豊かになると思います。

後編では、そのような「面白がる眼」を身につける方法について、インフラツーリズムを例にしながら考えてみたいと思います!

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