旅先を「広く」ではなく「深く」楽しむ!キロメートル・ゼロ運動を取り入れた街歩きの魅力

先日、キロメートル・ゼロ運動の考え方を取り入れたフィールドワークに参加しました。これまで旅といえばあちこちを巡る方法が主流でしたが、あえて範囲を狭め、より深く知る楽しみもあるはず。今回の街歩きの様子を、ご紹介します。

限られた範囲を全力で楽しむ「キロメートル・ゼロ運動」

みなさんは、キロメートル・ゼロ運動という活動をご存じでしょうか?

これは、生産と消費の現場を半径1キロメートル以内に区切り、狭い範囲で食文化を完結させる活動です。その土地ならではのおいしい食べ物を、その土地に住む人、その土地を訪れた人だけに提供する。シンプルながら地産地消の考え方に近く、また輸送が発生しないためCo2を削減できるうえ、地域経済の発展に貢献できるという、非常にサステナブルな活動です。

キロメートル・ゼロ運動は、スロー・フード運動に端を発しています。これは1980年代に、マクドナルドがイタリアに参入したことをきっかけに始まった運動です。イタリアの人々は、世界的チェーンであるマクドナルドが国内にやってくることで、自国ならではの食文化が崩壊するのではないかと危惧しました。

たしかに、マクドナルドを初めとするグローバルチェーンでは、世界のどこでも同じクオリティ、同じ味を提供することを前提としています。根底にはスピード感や均質化があり、「その土地ならではの文化や風習を守る」といったこととは、相性が悪いように思えます。

1989年には国際協会が設立され、その後、食べ物に関わらずあらゆるジャンルで「その土地ならではの文化や風習を守る」という考え方が大切にされました。キロメートル・ゼロ運動はこういった背景を持ち、限られた範囲での食文化を守る動きとして、近年とても活発化しています。

キロメートル・ゼロ運動を取り入れたフィールドワーク

先ほどキロメートル・ゼロ運動について解説しましたが、地域ならではの特徴を楽しむ方法は、食だけではありません。歴史を知ったり、建物を見学したり、自然を味わったり、様々な楽しみ方があります。その例としてわかりやすいのが、NHKのテレビ番組『ブラタモリ』です。

ここではタモリさんが、専門家の解説を交えながら地図を見て街を歩きます。神社や城などの建造物のほか、石垣、里山、橋など、地理学や地質学の観点からも街を読み解く番組です。自然の地形がどう変化してきたかを知り、歴史の痕跡を再発見し、街の人の暮らしを理解します。

キロメートル・ゼロ運動の考えと、ブラタモリのような街歩き。先日、この2つの要素を取り入れたかのようなフィールドワークが行われました。ゆっくりと時間をかけて街を楽しみ、その土地に暮らす人々と交流し、地域の伝統を知る。そして、地域の環境や経済、社会の持続可能性に配慮し、旅人の価値観に影響が与えられる内容です。

舞台となったのは、群馬県前橋市富士見町石井地区。石井ハウスという地域交流の場を目指した古民家を拠点に、石井で育った郷土史研究家の方に連れられ、半径1キロ未満のエリアを歩きます。石井の地形や気候、暮らしの変化についての解説を聞きながら、あちこち訪ねました。

街中にある記念碑では、江戸時代、新田開発に伴い川に堰(せき)を築き、ため池と用水路を作ることで35町歩(約35ヘクタール)ほど開田し、田植えや日照り期の水争いを抑制していたことなどを教わりました。

ガイドを務めてくださった方は、石井で暮らして75年とのこと。かつてこの街は今よりも栄えていて、小学校に2倍の生徒がいたこと、養蚕が盛んで地域の行事も多かったことなども教えていただきました。

非常に狭い範囲ですがあちこち歩き回ることで、石井の今の暮らしが、先人たちの努力と功績によって築かれて来たことに感銘を受け、過去の街の姿が想像できました。

街を「広く」ではなく「深く」知る楽しみ

石井での街歩きの体験から、キロメートル・ゼロ運動で重要な役割を担うのは、街で暮らす人だと感じました。歴史的な背景は調査すればわかるかもしれませんが、「かつて、川でどんな遊びをしていたのか」「今、どんな人が暮らしているのか」といった生の情報は、文献やインターネットでは出会えません。旅人は、そこに住んでいる人が持つ生の情報を聞きながら街を歩くことで、その土地の歴史や文化を知ることができます。

また、旅人にとっても地域の方との交流は旅の醍醐味です。直接顔を合わせて会話し、一緒に歩くことで、コミュニケーションを楽しめます。地域への理解を深めることで、一時的に、疑似的にコミュニティーの一員になることができるのではないでしょうか。 

サスタビでも、「人気の場所以外の新しい見どころを発見しよう」と提案していますが、有名観光地をあちこち巡る旅だけではなく、あえて範囲を区切ってその中を深く知る旅もぜひ楽しんでみてください。きっと、いつもとは一味違う経験ができるはずです。

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