マクドナルド化と(ポスト)フォーディズムを知る

マクドナルド化

ファストフード・レストランの論理や仕組みが社会のあらゆるところに広がっていき、合理性や効率性が最重要の価値観に置き換わっていく状況のことを、社会学者ジョージ・リッツァは「マクドナルド化」と呼びました。このマクドナルド化については、その概要や旅/観光との関係について、これまでもサスタビにて紹介をしてきました。マクドナルド化紹介記事は以下からぜひご参照ください。

効率性」「計算可能性」「予測可能性」「制御」という4つの「合理化」の考え方によって、世界的に店舗を拡大していったマクドナルド。それは学生でもすぐにアルバイトとして業務に参入することのできるほどマニュアル化され単純化された労働の仕組みの整備や、食べ終えた後の片づけを顧客自身に行わせることによる顧客回転率の向上など、さまざまな工夫にもとづいていました。そしてその「合理化」の仕組みは他のレストラン業界のみならず、ファッションやサービス業といった多様な業界にも受け入れられていきました。

そうした社会の考え方の変化は、一面では私たちの生活をますます便利で効率的なものにしています。しかし、別の角度から見れば、マクドナルド化の価値観は労働者の搾取にも作用していました。

マクドナルドのようなファストフード・レストランは、労働のマニュアル化が徹底されています。業務のプロセスが明確化され、誰でもそのマニュアルに従えば仕事をこなすことができます。それによって、仕事を始めたばかりの人でもすぐに業務のプロセスを理解し、慣れ、上達していくことができるようになっています。ある意味では、厳格に整備されたマニュアルは労働者に安心感や「楽」をもたらすものでもあります。

他方で、マニュアル化は、企業が労働者を完璧に(かつ安価で)コントロールしようとする思惑の一端でもあります。労働者一人一人の個性のようなものを最小限にし、機械的に働かせるということでもあるということです。そうすることによって、労働のエラーをなくし(「制御」「予測可能性」)、業務量を数値的に可視化・予測できるようにしています(「計算可能性」)。極端な言い方をすれば、それは労働者を「交換可能で換えがきく、単純労働のロボット」のように扱ってしまう危険性と隣り合わせであり、その点が数多く批判されてきました。「私以外の誰が作っても同じハンバーガーが出来あがる」ような商品とサービスの安定性は、安い賃金と個性の排除と交換可能性に紐づけられた労働者の不安定さに下支えされているともいえます。

フォーディズム

さて、そうしたマクドナルド化の問題を頭の片隅に置きながら、今回の記事で考えてみたいのは「フォーディズム」についてです。この言葉は「サステナブルな移動」「サステナブルな社会」を考えるうえで重要な「自動車」と深く関わっています。

20世紀において、人類が生み出してきた重要な技術はたくさんあります。1920年代~30年代にアメリカやドイツから広がった「テレビ」(日本では1939年の実験放送を経て、1950年代以降に社会に広がりました)。また、電話は19世紀後半から登場した技術ですが、20世紀に飛躍的な発展が進みました。日本の電話事業は1890年、東京と横浜の電信局に公衆電話室が設置されたことからはじまり、そこから電話ボックスや公衆電話(1900~1950年頃)、家庭電話機の普及(1960年代~)、そして1980年代以降、「ショルダーホン」や「携帯電話」、そして今日のスマートフォンへと展開してきました(飯田 2023)。

そうした「映像」そして「通信」技術の展開に加えて、20世紀は「移動」技術の飛躍的展開の世紀ともいえます。そして、「自動車」はなかでも重要な位置を占めており、人びとの移動や生活のあり方、そして社会のあり方を大きく変容させてきました(フェザーストン・スリフト・アーリ編 2015)。

さて、「フォーディズム」という言葉は、ヘンリー・フォードが創業したアメリカの自動車メーカー「フォード・モーター・カンパニー」が発売した、自動車の「T型フォード」と、その生産方式の特徴をあらわす言葉です。イタリアの思想家である、アントニオ・グラムシによって命名されました。

自動車の歴史は、1885年までさかのぼります。ガソリンを燃料とするエンジンが搭載された世界初の「自動二輪車」がこの年に誕生(特許認定)し、その翌年には、ベンツによってガソリンエンジン搭載の三輪車の特許が取得され、世界初の自動車が世に出ます。そうした流れのなか、フォード社は1903年に設立し、大衆向けの自動車である「T型フォード」を同年に発売しました。

その後1913年、フォード社は「革命的」な自動車生産方式を導入します。それはいわゆる「流れ作業方式」や「ライン生産方式」と呼ばれるものです。生産する車種を限定し、生産過程を細かく分類し、ベルトコンベヤー上でスムーズに車を生産するプロセスを構築することによって、T型フォードの大量生産を可能にしたのです。部品や工程が複雑になる多品種生産を廃止し(生産品目の単純化)、部品を統一し、また車をつくる作業工程を細分化することがそこでは徹底されます。

自動車をつくる労働者や技師の作業も単純化・細分化されます。自動車生産のプロセスを、たとえば「ネジ締め」、「右のドア設置」、「塗装」、「タイヤはめ」など極限まで細かく分類し、それぞれの仕事に労働者を配置します。ハンドルを取り付ける係に任命された人もいれば、右ワイパーを取り付ける係の人もおり、一人ひとりが割り当てられた仕事を一日中繰り返します。

ライン生産によって労働者の作業は単純化され、自動車をつくるという複雑なプロセスは、容易で反復可能、そして交換可能な仕事の組み合わせへと分解されていくことになります。そのような生産プロセス全体の効率性と合理性を最大化しようとする仕組みがフォーディズムです。

労働者が消費者に

1910年代に考案されたフォーディズム式の生産様式は、フォード車の自動車生産だけでなく、他の業界にも応用されていきました。その結果、単純労働、交換可能な労働者の生産、大量生産社会といった今日的な状況にも通ずる社会の特徴が芽を出していくことになります。しかしフォーディズムがもたらしたものはそれだけではありません。端的にいえば、フォーディズムは物や労働者の「生産社会」だけでなく、それらを購入・消費する人びとを、すなわち「消費社会」をも作り出していったのです。

大量に商品を生産することができても、それが売れなければ、ビジネスは成り立ちません。それゆえ、物を作ることとそれを売ること(あるいは需要を生み出すこと)はつねにセットで目指されます。フォーディズムは、自らが雇用する労働者の賃金と生活の安定性を高める工夫を凝らすことによって、「物を買うことができる労働者」を作り出し、ひいてはそうした「消費者としての労働者」に自らが生産した商品を購入してもらうという「生産と消費の増殖サイクル」をもたらした点に特徴があります。

ヘンリー・フォードは、それまでは高級品でありごく一部の人びとしか買うことができなかった自動車を、「大衆品」として販売することを目指しました。そのためには、安価であり、かつ大衆から信頼を得られるような品質の高い自動車を作り出す必要があります。フォーディズム式の自動車生産様式は、そのために必要不可欠なものでした。実際にT型フォードは従来品の4分の一ほどの価格で購入することができたとされます。自動車の時代すなわち「モータリゼーション」の第一歩といえましょう。

次いでヘンリー・フォードが実施したのは、従業員の賃金の増額です。労働者を高賃金で雇うことにより、人びとの「可処分所得」を増加させ、それを消費=購買行動に向かわせようとしたのです。商品の低価格化・大量生産と、それを購買する消費者の増加(賃金の増加)が、社会全体を豊かにするという考えをフォードは抱いていました。

フォーディズムは、このように「大量生産」だけでなく「大量消費」の素地をも準備したところに重要な特徴があります。商品を大量に生産することと、それを消費する「欲望」や「購買能力」を生産することを同時に達成してしまうこと、言い換えれば商品・欲望・消費者の全てを同時に生み出す「消費社会」のサイクルを駆動させたのがフォーディズムなのです。

フォーディズムのその後

ベルトコンベア式の流れ作業の商品生産や、労働作業の細分化とマニュアル化といった取り組みは、まさにマクドナルド化にも引き継がれ、かつ洗練されていったアイデアだと言えます。マクドナルド化を論じるリッツアも、マクドナルド化とフォーディズムの重なりについて「マクドナリディズム」という言葉を用いながら、それが「均質的な製品、精密な技術体系、標準化された作業手順、脱熟練化、労働者(および客)の均質化、大衆労働者、そして消費の均質化」という点に整理しています(リッツア 1999:244)。ただしリッツア自身も述べているように、マクドナルド化とフォーディズムはまったく同じものではありません。それについては、少品種大量生産を特徴としていたフォーディズムのその後を考えてみると明らかになってきます。

フォーディズムにおける労働者の賃金の増加と、画一的な商品の大衆化は、戦前、そして戦後の資本主義的な社会の展開のなかで重要な役割を果たしました。他方で、資本主義の展開が進み、人びとがより多くのものを消費できるようになっていくなかで、「画一的な商品」や「みんなが同じものをもっている」という状況への違和感や問い直しが高まりました。「必要な物を買う」という時代から、「必要な物は揃っている」という時代にかわるなか、人びとは、「他者と違うものを買いたい」と思うようになったのです。人びとの消費の欲求は、それ以前は「標準化」すること、すなわち「他者と同じものを揃える」ことに向けられていたのですが、次第にそれが「他者と違うもの」すなわち「差異」へと向けられていくということです。

機能性だけでなく、デザイン性やブランド性、商品に込められた「物語」や「意味」が商品価値を帯び、人びとの消費の欲望を掻き立てていく。しかもそれがテレビや雑誌といったメディアをつうじてこれまで以上に社会に広がっていく。そうした「高度消費社会」といいうる時代がフォーディズムの後に展開します。それは、「フォーディズムの後」という意味でポスト・フォーディズムと呼ばれます。いわゆる「流行」という概念もここにおいて際立つことになります。

自動車業界では、トヨタがポスト・フォーディズムを牽引しました。T型フォードという単一車両を大量生産するフォードのやり方ではなく、多品種の商品を少量ずつ生産し、かつ安価に販売できる仕組みを考案したのです。刻一刻と変化する社会の多様なニーズにフレキシブルに対応しながらも、「在庫」を可能な限り減らすことを実現する、高度に効率化・合理化された生産の仕組みです。

そのような「生産」の様式の変化のなかで、労働者の環境も変化します。変わりゆく需要に対応すべく、労働者の雇用は短期のものやいわゆる「派遣」型の契約に変化していき、また労働者一人ひとりに求められる要素も、従来までの真面目さや規律(同じ作業を集中して行いつづけることができる)から、柔軟に状況に対応できる判断力や自分自身を反省して「変化」する能力へと変化していきます。労働者に「個性」なるものが要求されるのも、おそらくこのような背景のもとでしょう。こうした背景のもとで労働環境の不安定化や搾取などの問題も大きくなってきたという点も見逃せません。

画一的な商品の大量生産から、多品種を少量ずつ効率的に生産する仕組みへ。賃金や雇用の安定化による労働者の消費能力の向上から、短期契約による雇用の不安定化とメディアによる消費欲望の喚起の同時進行へ。フォーディズムからポスト・フォーディズムへの展開は、労働や消費のあり方を大きく変化させてきたといえるでしょう。

グローバリゼーション

在庫を抱えることなく多様なニーズに対応し、かつ生産コストを可能な限り少なくするような商品生産と販売・流通の仕組みが、ポスト・フォーディズムのなかで洗練されていきます。とりわけ1970年代後半~1980年代以降、地球規模での人や物、情報や資本の移動が高まりをみせる「グローバリゼーション」の時代が到来する中で、ポスト・フォーディズムもグローバルに展開していきます。たとえばファストファッション企業のように、商品生産工場を人件費の安いアジアの国々に配置することで生産コストを抑えつつ、アルバイトの教育の徹底によって顧客対応の基準を維持しながら、商品のバリエーションを増殖させ続け顧客のニーズを満たそうとする仕組みがいっそう広がっています。冒頭に述べたマクドナルド化もまた、そうしたグローバリゼーションとのかかわりの中で展開してきたものだといえます。マクドナルド化という概念を提示したリッツアも、米国におけるマクドナルドの登場とその米国内での加速度的な展開を議論し「社会のマクドナルド化」を論じると同時に、それがグローバリゼーションと結びついて世界に広がっていく点に批判的な目を向けています(リッツア 1999)。

(マクドナルド化を避けるための)もっとも極端なやり方は、荷物をまとめて、高度にマクドナルド化したアメリカ社会を退去することだろう。しかしながら、他の多くの社会も(ほとんどではないにしても)、合理化過程に乗りだしたか、あるいは乗りだす寸前にある。したがって、別の社会への移住は、しばらくは時間をかせげるかもしれないが、結局は、見ず知らずの所でマクドナルド化に直面しなければならなくなるだろう(リッツア 1999:316)

ただ付け加えておくと、リッツアは、フォーディズムそしてポスト・フォーディズムとマクドナルド化の関係性については今後も分析が必要であると述べています。マクドナルド化において、商品の「質(ブランド性やデザイン性、高級さや品質の高さ)」は企業からも客からも重視されないケースが多いとリッツアは述べます。しかし同時に、リッツアは、必ずしもすべてがそうとは限らず、企業や社会の状況によっては高級製品をマクドナルド化のシステムのもとで販売する企業も成立する可能性があることを(たとえばスターバックスコーヒーの例をだしながら)示唆しています(リッツア 1999:245-246)

ここまで、フォーディズム、ポスト・フォーディズム、マクドナルド化について、ごく簡単に確認してきました。旅や観光は、これらの要素とどのように関わっているのでしょうか。その点については次回の記事で検討してみたいと思います。

参考文献

  • 飯田豊(2023)「モバイルメディア:公衆電話が架橋した〈声の文化〉と〈文字の文化〉」高野光平・加島卓・飯田豊編『現代文化への社会学:90年代と「いま」を比較する』北樹出版。
  • フェザーストン・マイク、ナイジェル・スリフト、ジョン・アーリ編『自動車と移動の社会学:オートモビリティーズ』(新装版)、近森高明訳、法政大学出版局。
  • リッツア・ジョージ(1999)『マクドナルド化する社会』正岡寛司監訳、早稲田大学出版部。

 

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