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サスタビを知る「サステナブルな旅って、なに?」―そんな素朴な疑問について、さまざまな視点から考えます。

サステイナブル・ツーリズムの誕生の背景と実践 ーー 持続可能な社会のための観光学 Vol.4

サステイナブル・ツーリズムの誕生の背景と実践 ーー 持続可能な社会のための観光学 Vol.4

「サステイナビリティ(持続可能性)」という言葉を耳にする機会が年々増えています。一方で、言葉は知っていても具体的にどんなアクションをすればいいかと問われると、答えに迷う人が多いのではないでしょうか?

「サステイナブル・ツーリズム」についても同様でしょう。国際機関の定義や基準を紹介しつつ、分かるようで分からないこの概念について考えてみます。

サステイナブル・ツーリズムとは何か

サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光:Sustainable Tourism)とは、「観光産業によって、受入側の地域社会が経済的、政治的、社会文化的にも発展することを最大の目的として考える観光」のことである。

つまり、主体は観光産業であること、受益者は観光客ではなく観光地域であること、要素として経済・政治・社会文化の3つの点で持続可能な発展を目指すものであることである。

サステイナブル・ツーリズム誕生の背景

サステイナブル・ツーリズムは、サステイナブル・ディベロップメント(持続可能な開発)という概念に依拠している。サステイナブル・ディベロップメントは、環境と開発に関する世界委員会(The World Commission on the Environment and Development)において1987年に発表されたブルントラントレポートで明確に提示された。

それまでは、経済成長・開発・発展と環境保護は二元論、つまりトレードオフの関係であり、相反するものであるとしていた。二項対立を超えて、環境保護と経済成長を同時に達成する方法を模索するのがサステイナブル・ディベロップメントという考え方である。

同レポートでは、「持続可能な開発とは、将来世代が自らの欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲求を満たすことである」とし、「持続可能な開発は、世界のすべての人びとの基本的欲求を満たし、また世界のすべての人びとによりよい生活を送る機会を拡大することを必要とする」と述べ、経済成長も必要な事であるとしている。

サステイナブル・ディベロップメントの考えは、観光にも影響を与えた。大量で大衆化されたマス・ツーリズムには弊害が大きいとする主張がなされ、それとは一線を画したオルタナティブ・ツーリズム(もうひとつの観光)という概念が生まれた。

マス・ツーリズムの弊害を克服するものとしてオルタナティブ・ツーリズムの具体的な形として、エコ・ツーリズム、エスニック・ツーリズム(民族観光)、コミュニティ・ベイスト・ツーリズム(住民主体観光)などが生まれた。これらは、観光地域における繊細な自然や文化を尊重した観光を構築することを目的として形成されたものである。しかし、オルタナティブ・ツーリズムは、マス・ツーリズムの対極にある二項対立の枠組みの中で進められたため、小さな地域に限定され、きわめて規模の小さな市場しか形成できず、普及というまでには至らなかった。

そこで、サステイナブル・ディベロップメントの考えを取り入れて、マス・ツーリズムを否定せず、マス・ツーリズムを含めた経済成長と自然環境や地域社会の文化の保全を両立させるというサステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)に至った。

1992年国連環境開発会議(地球サミット)において「環境と開発に関するリオ宣言」とその具体的行動指針である「アジェンダ21」が採択された。

地球サミットは、気候変動や生物多様性に対する対策の重要性が認識される契機となった。観光産業においても、UNWTO(国連世界観光機関)とWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)が中心となってアジェンダ21を具体的に行動に落としていく議論され始めた。この時期から、ヨーロッパを中心に観光地において観光の負のインパクトを正常化していくために行動を起こすNGO(非政府組織)が誕生した。

アジェンダ21を達成するためにさらに具体的な目標を定める必要が叫ばれ、2000年の国連ミレニアムサミットにおいて、ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)が策定された。これは8つの目標と21のターゲットから構成され、国際機関と国連加盟国にこの目標を達成するように要請することまではできたが、民間企業や市民レベルまで普及することはなかった。

そして、MDGsの目標年であった2015年に国連総会において、MDGsを引き継ぐ新たな目標として誕生したのが、SDGs(持続可能な開発目標)である。SDGsは、国際機関や政府のみならず、民間企業、市民も巻き込み、多様な主体によって達成を目指すものである。その意味で、誰かがやってくれるというものではなく、世界のすべての人間が当事者としてこの目標に向けて何ができるかを考え、行動することが問われていると言えよう。

観光分野におけるSDGs

「誰一人取り残されない」ことを理念としているSDGsを達成するために、UNWTOは、観光分野で特にSDGsの下記の3つのゴールが重点的に貢献されるべきだとしている。
観光分野で期待されるSDGsの要素

またUNWTOは、サステイナブル・ツーリズムを実現するために観光分野が貢献すべき5つの領域を示している。
持続可能な観光を実現するために観光分野が貢献すべき5つの領域

レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)

のように、SDGs達成のために、観光に対する期待は大きい。逆に言えば、観光には大きな社会的責任が課せられているのである。国際機関や行政が主張しても、観光産業が主導して行動しなければ目標達成はできない。また、消費者である観光者にも責任がある。

観光客はときに「旅の恥は掻き捨て」という言葉に象徴されるように、マナーやゴミなど観光地にとって不利益となる行為をする場合がある。観光産業は、単にカネをもたらす相手として観光客を理解するのではなく、責任ある行動をとるように啓蒙することも求められる。お客様は神様というスタンスでは、SDGs達成は難しい。

また、観光地域の自然や文化を尊重することの大切さを地域住民に対しても伝える必要がある。このように、観光産業のみならず観光者である消費者、観光に関与しない地域住民に対しても責任ある行動を求める観光のあり方をレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)と呼ぶ。レスポンシブル・ツーリズムとは、観光に関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)が倫理観をもって行動することである。

UNWTOは2017年を「開発のための持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」と定めた。このとき公開されたメッセージが”Travel, Enjoy, Respect”であった。観光は商業的に成立しなければ継続しないので、観光は楽しくなければならない。

しかし、観光客、観光産業、観光地が互いを尊重することも持続可能な観光には不可欠である。この言葉に、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)の真髄があらわれていると言ってよいだろう。
UNWTO開発のための持続可能な観光国際年 キャンペーンバナー

サステイナブル・ツーリズムの実現に向けた動き

持続可能な観光を実現するための具体的なアクションとして国際認証制度がある。GSTCは、持続可能な観光の推進と持続可能な観光の国際基準を作ることを目的に、2007年に発足した国際非営利団体である。

2008年には観光産業向けの指標(GSTC-I : Global Sustainable Tourism Criteria for Industry)、2013年には観光地向けの指標(GSTC-D : Global Sustainable Tourism Criteria for Destinations、2019年12月に改訂を行い現在はGSTC Destination Criteriaという名称(略称はGSTC-D のままとなっている)を開発し、管理・普及活動を行っている。

GSTC発足以前から世界ではすでに、特定の地域で独自に開発されたものなど、多数の持続可能な観光指標やエコラベル等が存在していたが、GSTCは世界で唯一UNWTOの指示の下開発された指標であり、国際連合環境計画(UNEP)などの国連機関、民間企業、NGOなど世界150以上の団体と連携し、その適切性がモニタリングされている。

GSTCは、国連において、観光地が「最低限順守すべき項目」と位置付けられ、加盟国での順守が求められている。観光地向けに開発された指標GSTC-Dは、4つの分野、合計38の大項目・174の小項目が設定されている。各分野と、掲げられた項目の例は次のとおり。
観光地向けに開発された指標GSTC-D

GSTC-Dは、国際的に汎用性が高い優れた国際基準であるが、先進国から後進国まで網羅的に活用できるよう開発されたものであるため、国や地域によっては設定された個別の項目が社会状況や環境、法制度などの特性に合わないものもある。

GSTCも基準となる38の大項目の全てが盛り込まれていれば、個別の小項目やその文言の変更について認めており、国・地域に応じてより適切な形で積極的に活用することを奨励している。このため、各国がGSTC-Dをベースに自らの課題やニーズに応じた形で指標を開発するケースが世界で広がっている。

日本においても、観光庁が主導する形で、日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D:Japan Sustainable Tourism Standard)が策定された。国際的な基準に準拠しつつも、各地で多発する自然災害に対する危機管理や感染症対策、文化的建造物の維持管理、混雑やマナー違反といったオーバーツーリズムに関する課題への対応など日本の風土や現状に適した内容にカスタマイズした「日本版」の観光指標が開発された。

JSTS-Dは地方自治体やDMO(観光庁が認可する観光地経営組織:Destination Management Organization)が主体となって活用することを想定したもので、活用の効果としては3つが考えられる。第1に自己分析ツールとしての活用が挙げられる。

観光政策の決定、観光計画の策定に資するガイドラインとして活用し、持続可能な観光に向けての効果的な取組を実施するために、自分の地域がどのような現状にあるのかを理解し、観光地としての強みと弱みを把握する「自己分析」となる。JSTS-Dによる自己分析を通じて得意・不得意分野、未達成の課題などを客観的・定量的に把握することで、地域が目指す姿やとるべき施策を明確にすることが可能となる。

第2に活用としては、地域が一体となって持続可能な観光地域づくりに取り組みときのコミュニケーションツールになり得る。地域内での理解促進を図るとともに今後の地域づくりにおける合意形成に向けた有効なツールになる。またJSTS-Dは、SDGsの達成に対応するように開発されているため、取り組みそのものがSDGs達成への貢献となる。

第3の活用方法として、観光地域のブランド化やプロモーションツールとして活用がある。JSTS-Dは国際認証であるGSTC-Dをもとに開発されているので、国際基準に基づいて取り組んでいることを証明する証となる。特にSDGsや環境意識の高い旅行者を顧客にもつヨーロッパのツアーオペレーターや富裕層向けには有効なツールとなることが推察される。

日本のサステイナブル・ツーリズムの実践の動きは、先行する欧州に比べてまだまだ萌芽期にある。人間は痛い目を見ないとなかなか変われない生き物である。

しかし、観光の負のインパクトは、再生不可能で不可逆的な自然環境や固有の文化の保全を脅かすものであり、痛い目に合うと気づいたときには「時すでに遅し」なのである。それを証明しているのが新型コロナによるパンデミックによる観光への打撃である。喉元を過ぎれば熱さを忘れるか、それとも他山の石とするか、私たちは大きな岐路に立っている。

プロフィール
鮫島卓(さめしま たく)
駒沢女子大学 観光文化学類 准教授

立教大学大学院修士課程修了。専門は観光学。旅行と創造性・イノベーションの関係を研究。HIS入社後、経営企画、ツアー企画、エコツアー・スタディツアーなど事業開発、ハウステンボス再生担当。JICAの専門家としてミャンマー・ブータンで住民主体の持続可能な観光開発(CBST)を経験。2017年より駒沢女子大学観光文化学類准教授。帝京大学経済学部兼任講師。ANA旅と学びの協議会アドバイザー、澤田経営道場講師。

この記事を書いた人

サスタビ編集部

「サスタビ」こと「サステナブルな旅」とは、旅を楽しみながら、広く地球環境、社会、経済に配慮し、旅先の人々の暮らしに敬意を払い、旅すること。 そうして、未来世代に遺すべき資産を守り、学び、伝え、持続可能な社会を作っていき、「責任ある旅人」が世の中に増えることを目指しています。

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