コロナ前は1年間に地球を35周していたというフォックス・タイイチさんに、世界の国々の今を聞く連載企画。第三回のテーマは「レストランと地球環境」。世界中でレストランを経営するタイイチさんが感じる、環境の変化とは? 今週がトルコからお答えいただきました。
あえて“変な場所”に店を出す
サスタビ編集部:今週はどちらにいらっしゃるんですか?
タイイチさん:トルコのイスタンブールです。気温が14℃くらいで寒いですね。先週いたバーレーンが35℃くらいだったので、気温差がすごいです。
サスタビ編集部:体調をくずされないようにお気を付けて。さて、今週はタイイチさんのたくさんあるお仕事のひとつ、飲食店経営について伺えればと思っています。まず、お店のジャンルは何系が多いんですか?
タイイチさん:お寿司や鰻、ラーメンなど、日本食のお店が多いですね。僕自身が日本食大好きなので、自分が行ったときに食べれるっていうのが1つ目の理由。あとは、日本食のお店って世界的にはまだめずらしいので、来てくれるお客さんも好奇心旺盛な人が多くて。そういう人たちと出会うきっかけになるというのが2つ目の理由です。
サスタビ編集部:お店を出す場所は、どこの国が多いんでしょうか?
タイイチさん:いろいろですよ。今はコロナで閉じちゃってるお店も多いんですが、ノルウェーの北極圏のお店と、ハンガリーにブタペスト、アルバニア、コソボ共和国でしょ。南太平洋のニウエにもありますね。うまく行かなくて辞めたお店も含めると、スリランカやインドネシア、クロアチアでも出しました。
サスタビ編集部:北極! ほかの地域も、日本食レストランの出店場所としては未知数なエリアに思えますが、どういう基準で選定されているんですか?
タイイチさん:実はレストランですごく稼ごうとは思っていないので、ビジネスとしてどうかということはそこまで厳密に考えないんです。それよりも、さっき話したように人と出会うことが大事なので、競合店舗がないことを大事にしています。おもしろい人に来てもらうには、日本食レストランがまだめずらしくて、みんなに関心を持ってもらえることが重要ですから。
こういう場所にお店を出すと、現地や日本のテレビ局が取材してくれやすいというメリットもあります。レストラン自体の宣伝にもなるし、シェフの採用にも効くし、僕がやってる他のビジネスをあわせて紹介してもらえることもあるので、テレビ取材には価値があると思っています。
スタッフも、お客さんも多様に
サスタビ編集部:採用という言葉が出ましたが、スタッフ探しはけっこう苦労されるんですか?
タイイチさん:僕は基本的に日本人のシェフを連れて行くので、普通にやると苦労すると思います。給料もそんなに高い金額は出せませんし。儲けようと思っていないとはいえ維持はしたいので、人件費もある程度で抑えなきゃいけないんです。
ただ、ユニークなお店にすれば、安月給でもやりたいと言ってくれる人はけっこういます。例えば北極のお店の場合は、1回の募集に70人も応募が来ました。あとは僕がマイノリティーな方もどんどん採用しようという考えなので、そこに魅力を感じて応募してくれる人もいます。今もレズビアンのカップルや、耳が聞こえない人が働いてくれています。いろんな人と仕事するのはおもしろいですよ。
サスタビ編集部:お客さんもいろんな方が来られそうですが、記憶に残る方はいらっしゃいますか?
タイイチさん:たくさんいますよ。例えば北極では、アザラシを棍棒で狩っている人や、シロクマの撮影している人なんかが来ました。太平洋のニウエでは、マグロを小さいカヌーからテグスで釣っている人もいました。船より大きいマグロをカヌーにくくりつけて持ち帰るんです。そういう、都市部ではまず見かけない人に出会えるのがおもしろいですね。
気候変動は、食材の仕入れに大きく響く
サスタビ編集部:飲食業とサステナビリティに関連性を感じることはありますか?
タイイチさん:すごくあります。食品は自然のものなので、環境が変わると大きく影響を受けますから。特に寿司屋は影響が大きいです。海面上昇や海水温上昇で、海の生態系が変わってきていて、魚の穫れる場所が移動しちゃっているんです。そうすると、そもそも食材が入手できなくなったり、できても価格が高くなってしまいます。鮭なんかも、養殖しているところはまだいいけど、天然物を使う国ではものすごく高くなっていますよ。いくらは基本的に天然なので、影響がもろにでています。
僕がお店を出している地域のなかだと、北側の国に問題が起きるのが早いですね。グリーンランドとか、カナダとか、ノルウェーとか。北極なんて、いまは夏場14℃とかになっちゃいますからね。ほんの5年くらい前までは、せいぜい5℃くらいだったのに。
サスタビ編集部:環境問題が産業にも悪影響を与えることが分かるお話ですね。飲食業界のサステナブルな取り組みとして注目しているものはありますか?
タイイチさん:飲食業から少し逸れますが、食品関連という意味で注目しているのは、Amazonがシアトルでやっているレジなしスーパー(編集部注:「Amazon Go」)です。すべてをセンサー制御しているので、普段の精算はもちろん、棚卸し業務も必要なくなります。人手がいらなくなるので、企業としては大きなコストカットになりますし、業務維持に必要なエネルギーも減ります。データ収集も完璧に行えるので、売れたものしかつくらないくなって、ロスも相当減らせるでしょう。
Whole Foods Marketを買収したのも、おそらくレジなし業態を大々的にはじめるためなんだと思います。
サスタビ編集部:飲食業界にはIT化の波は来ていないですか?
タイイチさん:ありますあります。回転寿司なんかも、寿司を握るのはロボットで、人間はバイトが数名入れば回るよになっています。これは未来のレストラン像に近い気がしますね。ただ、人間がいらなくなるかというと、それは違うと思います。スーパーでもお寿司屋さんでも、「あそこのお店のあの大将の感性が好き」という人は絶対いるはずなので。
徹底したIT化で効率化するか、人間らしさを前面に出すか。今後残るレストランはそのどちらかなんだろうなと思います。
サスタビ編集部:なるほど。そういう意味では中途半端が一番ダメでなんですね。今回も勉強になるお話ありがとうございました。来週はどちらへ行かれますか?
タイイチさん:まだイスタンブールにいる予定です。そのあとはスイスに行く予定ですね。
サスタビ編集部:来週はトルコの観光客事情を聞かせてください。よろしくお願いします!
<プロフィール>
Taiichi Fox, 和田泰一
アメリカ人と日本人のハーフ。幼少時代を千葉県の館山で過ごし、高校からアメリカの公立高校へ入学。
大学時代に起業し、アメリカ本土、ハワイの不動産事業を展開。日本には電動立ち乗りスクーターのセグウェイを紹介し代理店を開設。
ロシア、上海、クロアチア、スリランカ、マカオ、コソボなど世界中で事業を起業し、なんと北極にもお寿司やさんを開設。
2008年から移り住んだ南太平洋のニウエでは、携帯電話をシステムごと寄贈し設置。首相の補佐官として活躍し、日本との国交を2015年に締結。
ニウエにおいてはソーラーパネル、電気自動車、道路補修、焼却炉等のハード面の開発を強力に推し進めると共に、映画祭やミスコンテスト開催などのソフト面でも多くの功績を残し、首相からはレジェンドと呼ばれることも。2020年にはコロナ禍において陸路と海路だけを使い、ほぼ世界一周を旅行し冒険家と言われた。
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