沖永良部島で広がるサステナブルツーリズム
鹿児島県にある小さな離島・沖永良部島(おきのえらぶじま)で進められている、先進的なサステナブルツーリズムについて前回の記事でご紹介しました。
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今回は、実際に中心となって取り組みを進めている一般社団法人おきのえらぶ島観光協会の森岡さん、福島さん、 株式会社オールディビレッジの古村さんにお話を伺いました。
古村 英次郎(ふるむら・えいじろう)さん
沖永良部島出身。国内外でのガイド業や旅行会社勤務を経てUターン。和泊町・知名町の観光協会を統合した、おきのえらぶ島観光協会初代事務局長を経て現在は株式会社オールディビレッジ代表取締役。
「確かな未来は懐かしき過去にある」を基本理念に観光ガイドや各種コーディネート等を手がける
森岡 峻一(もりおか・しゅんいち)さん
長野県出身、沖永良部島移住4年目。おきのえらぶ島観光協会事務局員。元アウトドアスポーツガイド(主にバックカントリースキー、ラフティング)
観光協会で様々なアテンド業務を行いながら、島人より島人らしくを追い求めている。
福島 圭(ふくしま・けい)さん
沖永良部生まれ、沖永良部育ち。おきのえらぶ島観光協会事務局員。上京して就職していたが、島を思う気持ちが強
く帰島。
島出身だからこそ出来るガイディングを行う。
ゆーはらんバンド、ボーカルとして島唄を披露する活動も行う。
いつから、なぜサステナブルツーリズムが始まったのか
-沖永良部島でのサステナブルツーリズムはいつから始まったのでしょうか?
古村さん:
この10年ほど沖永良部島として観光に力を入れてきた中で、2016年くらいからSDGsの文脈で島づくりをしようという機運が高まりました。竿さん家族を中心に島民の間で広まっていた、ビーチクリーンを軸にした観光コンテンツ作りに繋がっています。(前回記事を参照)おきのえらぶ島観光協会でも、2017年に「おきのえらぶ島 アイランドプラス」という観光計画を打ち出して、島のライフスタイル自体を観光商品化していこうと色んなツアーを作ってきました。
このツアーの目玉は、普段、島民がやっていることをお客様に体験していただくことです。それに加えて、海洋ごみの問題や、ごみを資源としてアップサイクルするという持続可能なアイディアについても、知ってもらえたらと思っています。観光に来てくれた方に、僕たちが島の生活をご案内できるようにする、そしてSDGsやカーボンニュートラルという観点での様々な気づきを島の内外で共有し、一緒に持続可能な島づくりや社会づくりに生かしていきたいですね。
-観光客は島の生活から学びや気づきがあり、その気づきが持続可能な島づくりに繋がるんですね。
古村さん:
そうですね。個人的な思いとしては、沖永良部島がそうしたモデルケースとなることで他の島々にも横展開していけたらいいなと思っています。持続可能な地域づくりを「島」という特性の中で広げていきたいです。
-住民が主導でビーチクリーンを行っている地域はほかにも多いと思うのですが、そこに行政が入って加速していけた要因は何でしょうか?
古村さん:
一番は毎日やっていることだと思います。イベントとしてではなく、島民が毎日ごみ拾いを続けていること。長い人ではもう7年くらいやっています。
僕の地域では、僕と母と集落の人と4人くらいで、毎朝・夕近くの浜辺を掃除してます。約500mの海岸ですが、7年続けているとほんとにもうごみが無くなるんです。それを見せられるのが一番の強みですね。僕のインスタグラムで毎日のゴミ掃除の様子挙げてるので、よかったらみてください(笑)
▶古村さんのInstagram(@eijirofurumura)
島の暮らしと観光をいかにつないでいくのか
-島の人々の生活を観光に結び付けていくまでに、どんな経緯があったのですか?
古村さん:
そもそも沖永良部島は小さな島で、そんなに多くの観光資源があったわけではありません。「花と鍾乳洞の島」とは言われ、10年程前にケイビングというコンテンツはできましたが、島に来ただけでたくさん花が見られるわけでもないですし…。
じゃあどうしたら花について知ってもらえるかと考えた時に、何かハードを建てたり、新しいものを持ってくるのではなく、花の農家さんのところへ連れていったらいいんじゃないかという発想で体験ツアーを企画しました。そこから観光協会が旅行業を取得して、現地着地型のツアーを作るようになり、「無理をせず、島の暮らしを垣間見れるようなものにしよう」という想いで体験ツアーを実施しています。
-観光資源として新しいものを作るのではなく、島にある生活そのものに光を当てたんですね!
画像引用:おきのえらぶ島観光協会
古村さん:
それこそ今、森岡さんがガイドをしている島のサイクリングツアーでは、島の人と挨拶したり、小さな商店に寄っておばちゃんと話したり、畑で収穫してる作物について教えてもらったり、そんな日常の中の交流が楽しめるものになっていますよね。
森岡さん:
僕自身が移住者なので、僕が話せることって結局は勉強したことでしかないんです。だから、島で育った、島で暮らす方々の考えや教えを直接、聞いてもらいたいし、伝えてもらいたい、そのためのつなぎ役であろうと思っています。
-観光客にも“旅をする責任”が求められる時代ですが、どんな人に来てほしいと思いますか?
森岡さん:
個人的な考えになりますが「侵略しない方」ですかね。(笑)なんて言ったらいいかな「島に馴染んでくれる人」というか。
例えばリゾート地でよく見るような「パリピ」の方ではなくて、島に来て、島のファンになってくれる人。実際になってもらえるかはお互いの関係ですが、ファンになってくれる姿勢とか可能性のある方にぜひいっぱい来てほしいです。
古村さん:
森岡さんの言ってくれたことと同じですが、島の人も外から来ていただくことでHAPPYになるし、島に来た方も島の人との交流を通してHAPPYになれること。その状況をいかに作っていくかという事を意識しながら、島の各事業者でおもてなしや意味づけができるといいと思います。
画像提供:おきのえらぶ島観光協会
福島さん:
島に来てこんな風に過ごしてほしいという話なのですが、一人で観光に来る方もよくいらっしゃるんですね。元は「ひとりでしっぽり旅をしよう」と思ってたかもしれないけど、島の人との交流で自分の殻をやぶるような体験があったらよいなと。
僕自身、高校を卒業してから上京し、この6月に島に戻ってきたのですが、島のおじいおばあと喋っていると、普段はそんなにコミュニケーションが得意な方ではないけど自分の思っていることが話せたりして。こういう人と人との交流って大切だなぁ、というのを改めて体感しているので、島に来た方にも知ってほしいです。
-お話されている福島さんの表情を見ていたら、もう島のあたたかさが伝わってきました!はやく行きたいです…
これから、どんな観光を作っていきたいか
古村さん:
島に来てくれる人に関しては、島への運賃が高いことと席数が限られていることで、すでにある程度フィルターがかかっています。沖永良部島にはジェット機が飛んでいないので、MAXの観光客数が決まってしまっているんです。だから自分たちがその人たちに対して、適正なサービスを提供し、適正な価格をもらえているか、ということが大事になってきます。
現時点では「これって安すぎるんじゃない」というのが正直なところ。だったら内容を見直し、倍の値段にして、半分の数のお客さんでもちゃんと自分たちの生活が成り立つようにしていくのがいいんじゃないか、みたいなことを各事業者さんと議論できるように、観光協会でデータ取りなどもしています。
-小さな島だからこそ、最大化ではなく最適化でみんなが幸せになれる観光のカタチがあるのですね。
古村さん:
観光客の数と、島の人々の幸福度がニュートラルになる(観光客が増えて島の人々が不幸にならないようにする)ことを目指すのが、ちっちゃな島だからこそできるトライアルなんじゃないかなと思っています。
-今やっていること、これからやりたいことはありますか?
森岡さん:
出来ている部分とできていない部分とあるのですが、僕は島民の方と何か一緒にやるというのをすごく大事にしたいです。
例えば、今やっている自転車ツアーもそうですが、あとは競りに一緒に行って島の魚について学んだり、農業体験をして島の食に触れたりとか、そういうことを増やしていきたいです。そのために観光客を暮らしの中で受け入れてくれる場所を丁寧に探したいと思います。
福島さん:
僕は、農業体験などはもちろん、選択肢が多いといいなと思います。興味を持つ分野は人によって色々とあると思いますが、島の伝統文化や民謡、漁業などに幅広く触れてもらえるのが理想です。まだまだ準備中ですが!
画像引用:おきのえらぶ島観光協会
古村さん:
島の観光全体において、島の人が余裕を持っていることが大事だと思います。
たとえば農業体験も、繁忙期だったら島民にとっては1年間の収入がかかっているので、そこに観光目的の人が来たらハレーションも起きやすいですよね。だから、その時に事業者も島民も、僕たち自身が「島で遊ぶ」ことを実践していくという心の余裕がないと、観光客の受け入れは続かないと思います。
それってめちゃめちゃ難しいですけどね!でも、やっぱりその余裕がないと笑顔で受け入れるってできないですから。まさにオーバーツーリズムの反対ですよね。島の中で回せる規模の人数、価格を模索しながらやっていくことを足掛かりにしたいです。
-余裕やゆとりという意味でも「あそび」が大切なんですね。
沖永良部島を訪れる人へ
-これから沖永良部島へ観光に来る方に、伝えたいことはありますか?
古村さん:
やっぱり来る人にも余裕を持ってきてほしいです。僕もツアー組むときにはつい詰め込みたくなっちゃうんですけどね!
でも多くても午前午後で軸を1つずつとかに絞って、空いた時間は海をぼーっと眺めるとか、島の人とおしゃべりするとか、そんな余白を楽しむつもり出来てもらえたらと思います。
森岡さん:
僕は観光協会で働きながら、誰よりもえらぶのファンみたいな自信があります。だから、言うなれば「推しを一緒に好きになってほしい!」みたいな気持ちです。「どこかのリゾートへ行く」じゃなくて「沖永良部島に行く」、この島を見て知って、好きになってくれる人にぜひ来てほしいです。
-森岡さんの“推し”への愛が伝わってきます。(笑)
福島さん:
僕ら島で育った人がファストフードとか見て「いいなー」って思うのと同じように、都会から来た人が逆に「島ってこんなところがあるんだ、いいなー」って嫉妬してしまうような風景や空気を感じてもらえたら嬉しいです。
-皆さんのお話でもう島のファンになりそうです…!実際に島の空気を感じるのを楽しみにしています。本日はありがとうございました!
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