サステナビリティと不動産 ――タイイチさんに聞いてみたVol.6

コロナ前は1年間に地球を35周していたというフォックス・タイイチさんに、世界の国々の今を聞く連載企画。第六回のテーマは「サステナビリティと不動産」。世界中の不動産を購入するタイイチさんに、サステナビリティが求められることで不動産ビジネスがどのように変わり得るのかを聞いてみました。

 

カーボントレーディングへの期待から、野山が買われている

サスタビ編集部:今週はどちらにいらっしゃるんですか?

タイイチさん:スイスのツークです。スイスでは友だちとビジネスアイデアを話し合っていました。暗号通貨のことだったり、コンピュータのことだったり、レストランのことだったり……。今日のフライトで日本に帰りますよ!

サスタビ編集部:長旅ですね。慣れてらっしゃるとは思いますが、お気をつけてお帰りください!

さて、今週は不動産とサステナビリティの関係について伺いたいと思います。タイイチさんは世界中に不動産を持ってらっしゃるんですよね?

タイイチさん:はい、自宅が8つあって、2つが日本なのでそれ以外の6つが海外にあります。投資用の不動産もいろんな場所で買っていますよ。

サスタビ編集部:先日COP26が開催され、あらゆる産業でサステナビリティへの意識がますます高まっていますが、不動産業界に何か変化を感じますか?

タイイチさん:一部の投資家の間で、カーボントレーディングが注目されつつあります。2050年までにカーボンニュートラル(炭素排出量ゼロ)を目指すという目標が国際的に掲げられて、あらゆる産業で炭素排出量を減らす努力が求められています。でも、どうしても燃料を使う必要がある産業もありますよね。そういう業界では、CO2を排出せざるを得ないので、反対にCO2を吸収している会社や人から、エミッションのクレジット(排出権)を買ってくる必要があります。

サスタビ編集部:炭素の排出量と吸収量を相殺し合うわけですね。でも、それが不動産投資とどう関係してくるのでしょうか?

タイイチさん:CO2を吸収するのって、植物ですよね。それも、山に生えている大きなよりも、畑に生えている小さな植物のほうがその効果が大きいんです。植物は成長するときに一番CO2を吸収するので。つまり、何もない土地を麦畑にしたら、けっこう大きなカーボン・クレジットが発生するんですよ。

サスタビ編集部:なるほど。その権利に高値が付けば、従来とは違う土地の価値が生まれるわけですね。

タイイチさん:はい。売るためじゃなく、CO2を吸収するための農地なので、作物としての品質や流通のための利便性もいりません。これまでほとんど無価値だった土地が、いきなり価値を持つ可能性があるんです。

取引ルール次第で、土地の価値が大きく動く

サスタビ編集部:タイイチさんもそういう土地を買っているんですか?

タイイチさん:いえ、僕は今のところ買っていません。コソボに大きな農地を買いましたが、それは都市化すると期待して買っただけです。従来どおりの不動産投資ですね。

サスタビ編集部:カーボンクレジット用の土地を購入されないのはなぜですか?

タイイチさん:カーボントレーディングのルールがまだまだ未整備で、まだどうなるか読めないからです。ヨーロッパでは徐々に整備されつつあるんですが、EU圏内のめぼしい土地は先行する投資家に抑えられちゃっていますし。
ウクライナやブルガリア、それから日本の山間部なんかには注目してはいます。ものすごく安いので。ただ、今のところカーボントレーディングは各国内だけで行われていて、国際取引はされていないんです。だから国内にCO2を大量排出する企業がないと、ビジネスにはなりづらいように思います。

サスタビ編集部:カーボンクレジットの値付け次第で、どんな土地にどれくらいの価値が付くか、大幅に変わってしまいそうですね。

タイイチさん:そうなんです。だから、プライシングに関われるような立場の人間か、莫大な資産を持っていてリスクが取れる人じゃないと、なかなか手を出しにくいというのが今の状況なんじゃないでしょうか。

建物にも、エコ投資が進む

サスタビ編集部:土地について伺いましたが、建物の設備については何か変化がありますか?

タイイチさん:日本でも増えていますが、ソーラー発電機を付ける建物が世界的に増えています。ヨーロッパだと、ほとんどの建物に付いていると言っていいくらいです。大きなビルも、個人の住宅でも。その間の規模、中小企業のオフィスビルのような建物が一番遅れているように思いますね。
大きな企業が入るビルは、社会的責任という意味でエコ・コンシャスにすることが必須です。ソーラー発電だけじゃなく、エネルギー効率の良い空調設備だったり、水の循環設備だったり、環境負荷を小さくするための機能がどんどん出てきています。個人の場合は、家主がエコ意識が高いということもありますが、節約的な意味合いも強いと思います。電気の価格が高騰しているので、自家発電のメリットが大きくなっているんでしょう。ソーラー以外にも、水素燃料電池を置く家も増えています。一番電気を使う空調の効率を良くするため、断熱性にも関心が高いように思います。

サスタビ編集部:ヨーロッパ以外の国はどうでしょう?

タイイチさん:一番先行しているのがヨーロッパというだけで、多くの国では同様の変化が起きています。特にアメリカは巻き返している印象ですね。政府主導だけじゃなく、民間レベルでもサステナブルな取り組みが増えています。
一番変化を感じるのは中国です。政府がやると決めたら一気に動く国なので。バスをすべて電化した街もあります。不動産では、破綻危機で有名になっちゃった恒大集団も、電気自動車をつくっているくらいなので、建物の設備にもこだわっているんじゃないでしょうか。彼らはサステナビリティをビジネス機会として捉えていて、それが推進力になっているように思います。

大国のなかで最も遅れているのはインド。COP26でも、CO2排出量ゼロ達成時期を2070年と言っちゃって話題になりましたね。

サスタビ編集部:他国が2050と宣言しているなか、20年も遅い目標ですね。どこかで意識が高まってくれるといいのですが。
今週もありがとうございました。来週は日本に帰国されるということで、今の入国手続事情をうかがえればと思います。

タイイチさん:はい。しっかり覚えておくようにしますね。

サスタビ編集部:よろしくお願いします!

 

<プロフィール>

Taiichi Fox, 和田泰一

アメリカ人と日本人のハーフ。幼少時代を千葉県の館山で過ごし、高校からアメリカの公立高校へ入学。
大学時代に起業し、アメリカ本土、ハワイの不動産事業を展開。日本には電動立ち乗りスクーターのセグウェイを紹介し代理店を開設。

ロシア、上海、クロアチア、スリランカ、マカオ、コソボなど世界中で事業を起業し、なんと北極にもお寿司やさんを開設。

2008年から移り住んだ南太平洋のニウエでは、携帯電話をシステムごと寄贈し設置。首相の補佐官として活躍し、日本との国交を2015年に締結。

ニウエにおいてはソーラーパネル、電気自動車、道路補修、焼却炉等のハード面の開発を強力に推し進めると共に、映画祭やミスコンテスト開催などのソフト面でも多くの功績を残し、首相からはレジェンドと呼ばれることも。2020年にはコロナ禍において陸路と海路だけを使い、ほぼ世界一周を旅行し冒険家と言われた。

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