サステナブルな旅人を増やすことで、世界平和を実現する【行方一正:メンバーインタビュー】

サスタビのメンバーに「サステナブルな旅、してる?」「サステナビリティって何だろう?」など、赤裸々に語っていただくメンバーインタビュー。今回は、サスタビを運営するピーストラベルプロジェクトの代表である、行方さんにお話を伺いました!

旅を通じて世界平和を実現するため、サスタビをスタート

―本日は、よろしくお願いいたします!早速ですが、行方さんはもともとHISの創業間もないころからのメンバーとしてご活躍された後、引退後に株式会社ピーストラベルプロジェクトを立ち上げ、その事業の一環としてサスタビを作られましたよね。これは、どういったきっかけで始めたのですか?
一言でいうと、世界平和を実現するためです。旅をすると人との交流が生まれ、信頼関係ができ、相互理解につながります。これが広がることで世界平和が実現するのではないかと思い、戦争をなくすためになにか行動をしようと思いました。

また、ジャーナリストの山本美香さんがシリアで銃弾を受けて亡くなったこともきっかけの一つです。彼女とは生前交流があったので大変ショックを受け、これから同じようなことを起こさないためにも、戦争をなくしたいと思いました。当時はまだHISにいたので、若年層向けの社会課題解決型スタディツアーを企画。「旅を通じてよりよい社会を作ろう」というテーマで、戦争と平和について学べるツアーや、エコツアーを社内で推進しました。この時の経験が、サスタビにも生かされています。

他にも、戦争の悲惨さや平和の大切さを学ぶツアーを企画しようと思い、コソボ問題についてのイベントを2回開きました。私自身もコソボやセルビア、ボスニアに行って難民の方たちと会い、紛争で対立していた民族を融和するための平和教育などを視察しました。

視察先の埼玉県・小川町にて

―現在のサスタビよりも「平和」に重点が置かれた内容に感じるのですが、どのような経緯で今のサスタビが出来あがったのでしょうか?
サスタビを立ち上げた当初は、旅を通じて社会をよくするツアーを探せる検索サイトを作ろうとしました。しかしコロナ禍に入り旅行会社がツアーを中止したため、紹介するものがなくなってしまったんです。その中で何ができるのかを考え、新しい旅の在り方とは何か、次世代にどんな旅をしてもらうかが新しいテーマとなりました。

変わらず根底にあったのは、社会にプラスを与える旅を広げたいという思いです。というのも、コロナ禍で観光地の住民の方々や地方自治体の首長から「旅行者はうちに来ないでほしい」と言われ、「観光は不要不急なもので、旅は本当に必要なものなのか」と考えさせられました。事実、観光客が減ったことで交通渋滞や騒音問題が緩和され、一般の住民の方は住みやすくなったと喜んでいました。他にも、自然環境が改善された場所もあります。オーバーツーリズムについてはもちろん知っていましたが、地域住民の方がそこまで不便を感じていたとは実感していなかったので、驚きました。

―確かに、有名な観光地であれば1日10億円ものお金が観光客によってもたらされるので、観光地が観光客を拒絶するのは驚きがあったかもしれません。
旅は地域住民のためになっていなかったのかという危機感を持ち、コロナ禍が明けた後も旅の在り方を見直さないとダメだと認識しました。そこで、旅の新しい在り方を提案しないといけないと思い、サステナブルな旅の情報サイトを作るためサスタビを立ち上げました。

サスタビを始めてしばらくたちますが、今はまだ「何がサステナブルな旅なのか」は模索中です。これからの活動を通じて、探求していきたいです。

―サスタビでどんなことを実現していきたいですか?
世の中にはまだまだサステナブルな旅の必要性を認識していない人もたくさんいるので、旅にもサステナビリティが必要だと気づいてもらいたいです。時代の変化にも合っていますし、観光業においてもこういった観点が必要だと感じています。また、「旅人と事業者が新しい旅の楽しみ方を作る」という、新しいマーケットとなるのではないかとも考えています。

とはいえ、サステナブルツーリズムという言葉すらあまり知られていない日本でこういう考えが浸透するには、時間がかかるものです。サスタビもまだまだ模索している段階ですが、まずは旅人向けに様々な発信しています。

取材で昔ながらの古民家に足を運ぶことも

―その指針となるのが、「サスタビ20ヶ条」ですね。
はい、「サスタビ20ヶ条」はサステナブルな旅を実践するために作りました。様々な観点から、どんな人がサステナブルな旅人なのかを明らかにしています。「サスタビ20ヶ条」は旅を制限して不便にするものではなく、逆に便利さを感じたり旅が面白くなったりする面もあるのです。例えば公共交通機関の利用を推奨していますが、自家用車よりも電車の方が時間が正確ですし、バスに乗ると地域のことがわかるうえ、車窓からの風景も楽しめます。

オーバーツーリズムを避けるために人気の場所以外を訪れることもおすすめしていますが、自分だけのスポットを見つけるのが楽しいという人もいます。また、観光地はどこかの時点で作られたものであって、最初から観光地として生まれるわけではありません。裏を返せば、今は観光地ではない場所も、これから観光地になるポテンシャルがあります。それを自分が発見するのだと考えると、わくわくしますね。

今、「サスタビ20ヶ条」や私たちの考えを広く伝えるために、書籍を刊行しようとしています。今は具体的な内容を詰めているところですが、この本を読んでサステナブルな旅の楽しみ方を知ってもらえたらと思っています。

旅先で得たプラスの影響を自分の暮らす街に還元する

―行方さんは「旅の効用」についてよく語られていますが、詳しく教えていただけますか?
旅の効用は、昔から存在しています。人間は数千年前から、人の移動の中で文化や社会、伝統を作ってきていますよね。ある地域に存在する独自の文化や知識が、他の地域にとって新しい発見になります。ここで交じり合って新しく生まれるものが、社会を作る大きな要素になるのです。

また、ずっと旅し続けていると、それは単なる移動です。旅には終わりがあり、最後に自分の暮らす街に帰ってきます。だから、旅先と地元、両方に影響が生まれるものです。例えば東京にエスニック料理店がいくつもありますが、旅人がインドに行って本場の味に感動し、自分の街でお店を始めたというパターンもありますよね。食べ物だけでなく、ファッションなどでも同じことがあるでしょう。

普段から自然の中を歩くことも

―そう言われると、旅の効用が昔からあることがわかります。ちなみに、現代ならではの効用もありますか?
ありますよ。今はインターネットによって、現地に行かなくてもかなりの情報を集められますよね。だから、それで行った気になって実際には旅をしない人が多いんです。しかし旅に行くとリアルな情報が集まり、オンラインで済ませた人には得られない経験ができます。自分の五感で感じるのと画面越しに見聞きするのでは、情報量が大きく異なります。だからこそ、自分で足を運ぶことが大切ですよね。旅の価値はここにあります。

特に最近はAIの画像加工やChat GPTなどを使って簡単にフェイクニュースを作れるようになり、インターネットの情報はなんでもありになってきています。だから、現場に行って自分の目で真実かどうか確かめることが必要です。虚構の世界を生きないよう、たくさんの人に旅に出て本当の情報を知ってほしいと思います。

―SNSなどでも、嘘の情報が飛び交っていますよね。
そんな中で自分の足と時間を使って旅に出ることに、意義があります。人との出会いが生まれるのも、旅ならではです。現地をよりリアルに理解し、そこに暮らす人々と交流することで親近感がわきます。そのような相互理解をすることで、信頼関係が生まれ、社会全体の平和が訪れるのではないでしょうか。

―旅にはいろいろな効用がありますが、サスタビではどんな旅の仕方を目指していますか?
現地で暮らすような旅です。「旅=観光地巡り」と思っている方も多いですが、有名どころをまわるだけの旅は、発見が少ないです。観光地に行ったとしても、時間をかけてゆっくり見て、どんな人が住んでいるのか、何を食べているのか、何を楽しんでいるかなど観察すると、たくさんの発見があります。交流を通じて関係性が深くなることで、旅先の人々と自分たちの違いを感じ、直面している課題やその乗り越え方、工夫の方法を学ぶと、自分の街に取り入れられます。

違いだけでなく、共通点も多いことがわかりますよね。例えばどの国でも家族を大事にしたり、おいしいものを楽しそうに食べている姿が見られます。文化や宗教が違っても、人間の本質的な部分は変わりません。

古くからある邸宅を訪問

―旅に出た人は、どんな風に自分の街に還元できるのでしょうか?
旅をすると価値観に変化があります。それが生活の中に変化が染み出て、じわっと周りに影響するものです。旅先で出会った人に「こういう考え方の生き方の方がいいな」と思うことがあれば、日々の決断に現れるので、それが社会に変化を与えます。

世界を旅してきて、帰ってきてから生き方が変わったということはよくあります。もっと頑張ろうと思う人もいればのんびりいこうと変わる人もいて、方向性はそれぞれですが、いずれにせよプラスの影響を受けています

―旅に出て価値観が変わるという経験は、たしかに多くの人にありますよね。
そういう現象は数千年前からあります。例えばミャンマーからインドに行くと、仏教からヒンドゥー教、イスラム教に少しずつ変わります。イスタンブールからヨーロッパに入る時は、教会もイスラム寺院文化もあり、文化がグラデーションで変化していくことを感じるものです。国境できっかり何かが変わることはなく、多様性と許容、ダイバーシティとインクルージョンが大切です。

サステナブルな旅を実践する人のためのプラットフォームを目指す

―サスタビの今後の展望について教えてください。
私たちは、旅人のためのプラットフォームを目指しています。以前、サステナブルな旅人たちの交流の場を作りたいと思ってユーザーがやり取りできる機能をつけていたのですが、なかなか上手くいきませんでした。だから、再度トライしたいと思っています。旅に関するメディアやサービスは多々ありますが、サステナブルな旅の情報交換をする場はありません。その一方でサステナブルな旅を実践する人は増えているので、そんな旅人たちのためのプラットフォームを作りたいです。

車でさっと移動せず、町を歩くこともサステナブルな旅になる

―どのような形で実現されそうですか?
まだわかりませんが、もしかするとオンラインではなくリアルで集まって情報交換をすることが必要かもしれないと思っています。SNSなどはとても有益ですが、インターネット上だけでの交流に限定するのかどうかは、もっと考える必要があります。いずれにせよ、私たちが「サステナブルな旅はこうあるべきだ」と押し付けることはありません。自分たち自身も学びながら、模索していきたいです。そこでわかったことをサスタビ情報を発信して、ユーザーの方に「こんな旅があるんだ」と見つけてもらえる場にしていきたいです。

サスタビがサステナブルな旅人のプラットフォームとなれば、旅人と事業者のどちらもが喜ぶサービスを展開できると思います。旅人が何を求めているのか、事業者が何を求めているのかをしっかりヒアリングし、どんなサービスができるか考えたいです。例えば事業者の課題を旅人に伝えて、それについて多くの地域を知っている旅人が気軽にアイディアを出せる場を作れたらよいのではないかと考えています。

―そういったサスタビの形を実現するため、必要なものはありますか?
IT化は必須です。これからの旅は個人化していって、旅自体がIT化されていくのではないでしょうか。現状でも、旅の間にGoogle Mapを使って情報を調べたり、ブラウザからレストランを予約したりしますよね。どんなシステムを作れば、サステナブルな旅をサポートできるのかを考えていきたいです。

旅人や事業者の方をサポートできるサスタビを実現していく

―最後に、サステナブルな旅に興味を持つ方々にメッセージをお願いします。
サステナブルな旅とは何かの答えは、ありません。一人ひとりが「何がサステナブルな旅なのか」と考えてもらえたらと思っています。ただ、旅は楽しむことが大切です。どんどん色んな地域に行って、新しい文化や人々との出会いを味わってください。また、もし関心があればぜひサスタビで情報をぜひ発信してください。お問い合わせも大歓迎です。サスタビはまだまだ発展途上のサービスなので、みなさんからのご意見をどんどんいただきながら進化させて、もっと旅人に寄り添うサービスを提供したいと思います。

 

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