クリエイティブツーリズムと「ikibase」の融合による地方創生

サスタビでは、一つのテーマに対して複数のライターが様々な角度から探求する特集を組んでいます。
今回のテーマは、「クリエイティブツーリズム」です。オーバーツーリズムが叫ばれる今、「旅人=迷惑な存在」と感じている方も少なからずいらっしゃいます。
自分の暮らす街にやってきて、ごみをポイ捨てしたり、道を混雑させたり……
地域の方に「来てほしくない」と思われる行動をする旅人も、少なからずいます。しかし、旅人は本来、地域の方にポジティブな影響を与えられるはずです。
旅人が旅先の地域や文化を消費するだけではなく、地域住民と一緒に新しい価値を生み出す。
そんな新しい旅の姿勢について考えていきます。

第一弾:「創造的な観光」ってなに?クリエイティブツーリズム解説
第二弾:ライターの体当たり勉強記録!クリエイティブツーリズムについて初めて考えてみた
第三弾:国内クリエイティブツーリズム都市4選!おすすめのイベントも紹介

日本の課題とクリエイティブツーリズムの役割

日本では人口減少が進み、特に地方都市では地域活性化が大きな課題となっています。その中で「創造都市」や「クリエイティブツーリズム」という新しいコンセプトが注目されています。創造都市の概念は、地域の芸術や文化の力を活用し、訪問者がその地域で創作や体験を通じて深いつながりを持つ仕組みです。これにより、地域の独自性を際立たせ、持続的な観光価値を提供します。

ユネスコが認定する創造都市や日本の金沢市では、伝統工芸や現代アートが観光に新たな価値をもたらしています。しかし、金沢の例のように、観光客の増加が地域文化や生活環境に悪影響を及ぼす可能性もあります。そのため、地元住民との交流や本質的な文化体験を重視したクリエイティブツーリズムの考え方が求められています。

「ikibase」の紹介とクリエイティブツーリズムへの貢献

長崎県壱岐市に拠点を置く「ikibase」は、このクリエイティブツーリズムを体現する施設です。2021年にアーティスト・イン・レジデンスとして運営を開始した「ikibase」は、島内外のアーティストに創作の場を提供し、地域住民や観光客との創造的な交流を推進しています​。

「ikibase」の活動は、アーティストが壱岐島で滞在し、その土地の自然や文化をインスピレーションに作品を制作することに焦点を当てています。これにより、地域住民はアートを通じて新たな視点で壱岐島の魅力を再発見でき、観光客にとっても地域固有の文化を深く体験できる機会となります。

「オータムセッション」とその取り組み

「ikibase」の象徴的なプロジェクトとして、毎年秋に開催される「オータムセッション」が挙げられます。2024年には10月16日から11月30日まで行われ、国内外からアーティストが参加しました。このセッションでは、滞在するアーティストたちが壱岐の自然や文化と触れ合いながら制作活動を行い、その成果を一般向けの展示やワークショップを通じて公開しました​。

たとえば、メルボルンを拠点とするアーティストAileen Ngが壱岐島の景観をテーマに壁画を制作したり、ドイツ出身の音楽家Kitsuneが島内で採集した音を元に音楽を作り上げるプロジェクトを展開しています。このような取り組みは、訪れる観光客に壱岐の豊かな文化や自然を新しい角度で体験する機会を提供しています。

地域文化と観光の共生を目指して

「ikibase」は単なるアーティストの滞在場所にとどまらず、地域と外部の人々がアートを介して交流するコミュニティの場として機能しています。滞在中のアーティストたちは、ワークショップや展示会を通じて地域住民や旅行者と直接的な交流を行い、壱岐島全体を巻き込んだ文化的イベントを実施しています。このような活動は、地元の価値を高めるだけでなく、持続可能な観光モデルの実現にも貢献しています​。

また、滞在アーティストが地域住民と共同で制作する作品やイベントは、一過性の観光ではなく、リピーターを生むきっかけとなります。クリエイティブツーリズムの中核を担う「ikibase」の活動は、壱岐市の観光資源としての可能性を大きく広げています。

「ikibase」が示す未来

地方都市の観光まちづくりにおいて、クリエイティブツーリズムが持つ可能性は非常に大きいです。「ikibase」の取り組みは、地域文化を維持しながら新しい価値を創造するモデルケースとなっています。このようなアプローチが全国各地に広がることで、地域ごとの独自性を活かした持続可能な観光が実現するでしょう。

壱岐島の「ikibase」は、地方創生におけるアートの可能性を示すだけでなく、観光客と地域住民双方に深い満足感を提供する新しい観光の形を提案しています。

特集「クリエイティブツーリズム」の記事の第五弾は、下記からご覧いただけます(2025年2月15日公開)

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