旅の楽しさを社会にひらく!サステナビリティと楽しさを考える

「旅の楽しさ」は変化してきた

旅(Travel)という言葉の語源には、じつは「苦痛」や「苦労」といった意味があります。危険にさらされる可能性がつねに旅人の周囲をとりまき、心身の疲れや痛み、不安とともにあるもの。それが、旅の中心的な意味でした。

近代における移動手段や宿泊施設の整備は、旅がもつそうしたスリリングな側面をだんだんと和らげ、旅は、多くの人が気軽に楽しむことができるものへと変わってきました。

「旅は楽しいものである」という認識はその意味で、旅が本来もっていた本質的な特徴というよりかは、旅やそれをとりまく仕組みの変化のなかで前面に出てきた特徴のひとつであると言えるでしょう。

とはいえ、いまを生きる私たちにとっては基本的に、旅はとても楽しいものですよね。初めて訪れる場所の新鮮さや、新しいものに対するワクワク感。旅の達成感や自己成長。旅には他に代えがたい楽しさがあるからこそ、こんにちまで続いてきたのだと思われます。

一方で旅の楽しさは、とくに現代では、旅がもたらす負の影響の原因としても位置づけられつつあります。楽しさばかりを追求することで、他者に迷惑をかけたり、地球環境への配慮を忘れてしまったり。旅は楽しいものだけど、楽しさばかりではいけないそのような意識が少しずつ了解されてきているのではないでしょうか。

苦痛や鍛錬と結びついていた旅から、楽しさと結びついてきた旅へ。そして昨今では、旅は自身の影響に関する反省と結びついているように思われます。このように、旅(そして旅の楽しさ)は、時代や社会的な背景の中でその意味が変化しているのです。

「旅の楽しさ」は捨て去らずに……

でも、旅の楽しさが変化の中で生じてきた(つまり最初からあったのかは不確かでありうる)からといって、旅の楽しさが「まやかし」や空虚なものであると考える必要はありません。変化の中に置かれてきたということは、これから私たちの手でよりよく変化させていくことが可能であるということでもあるからです。

コラム:このように、何かが「構築されている」(つまり起源からそこにあったわけではないということ)あるいは変化しているという事実が、私たちに落胆をもたらすものではなく、むしろこれからの変化や構築に開かれていることを積極的に捉え直す視点を与えてくれる可能性をもつものだ、という視点については、松村圭一郎(2017)『うしろめたさの人類学』(ミシマ社 https://mishimasha.com/books/9784903908984/)の議論を念頭に置いて述べています。

観光/ツーリズムやサステナビリティの文脈では「かつてからある○○を守ろう、維持しよう」という目標がしばしば叫ばれますが、何かを守る/維持するというとき、その守られる/維持される対象をどのように捉えるべきなのか(本質的なもの、変化しているもの、創造されたものetc.)をクリティカルに問い直すことは観光とサステナビリティの問題にとって重要な作業となるでしょう。

同時に、旅の楽しさの極端な追求が環境負荷やオーバーツーリズム等の問題を引き起こしてきたからといって、楽しさを完全に捨て去る必要があるわけではないと思われます。楽しくなければおそらく誰もが好んで取り組まないでしょうし、楽しさを適切に追求することは、旅をつうじてサステナブルな社会をつくるうえで必要不可欠な要素になってくるはずです。

楽しい旅を、楽しくない、たとえば真面目な旅に変える必要はおそらくありません。変えるべきは「楽しさの中身」であり、追求すべきは「どうしたら楽しさとサステナブルが両立するのか、サステナブルな楽しさとはどのようなものか」を想像し考えることなのです。

自分だけが楽しければよい?

サステナブルな旅における楽しさをどのように想像しなおせばよいか。

今回の記事で提案したいのは、旅の楽しさを社会にひらくことであり、自分一人だけで消化されない楽しさをつくることの可能性についてです。

旅の楽しさは、具体的にはどのようなものがあるでしょうか――たとえば、旅をつうじて新しいことを発見する楽しさ、美味しいものを食べる楽しさ、地域の人と交流する楽しさ、写真を撮る楽しさ、旅程を計画する楽しさ、体験アクティビティに参加する楽しさ……

どうでしょう、旅における従来の楽しさは、旅人一人に完結しているように思えてきませんか?旅において、楽しいのは自分であり、経験や発見や反省をするのも自分一人(あるいは一緒に旅をするグループ)。旅の楽しさがシェアされるのは、多くが旅の後や最中に更新されるSNSにある程度限られる。それが、これまでの旅の楽しさだったのではないでしょうか。いわば、楽しさの単位が旅人に置かれてきたのが、従来の旅の楽しさだったといえそうです。

楽しさの単位を、自分から他者へと置きなおす

そこから一歩踏み出し、旅をつうじて自分も楽しいし、地域や社会、そしてそこで出会う他者にも楽しさや何かしらの良い影響がもたらされる、そのような「ふくらみのある楽しさ」を構想してみるのはどうでしょうか。楽しさの単位を「自分」から「他者」へと置きなおすこと、楽しさを自分から他者や社会へとひらくことで、旅とそこに関わるすべての主体が楽しさのふくらみに触れることができるような旅。それはきっと、サステナブルな旅となると思われます。

旅の中で、地域の人や地域の取り組みに参加し、一緒に何かに取り組んでみることなどが、具体例として挙げられるでしょう。誰かと一緒に何かをしたり、旅先の地域が抱えている課題やニーズに応答したりすることで、旅人自身も達成感や喜び、経験を培えるとともに、地域にとってもメリットや喜びが生じるような旅。旅の中で地域やその場所の自然、経済、文化に貢献するとともに、旅人自身も何かを発見できるような旅。

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旅はおそらく、環境や社会への負の影響を不可避にもたらしてしまいます。移動し、何らかの活動をし、消費をする以上は、おそらくそれは仕方のないことです。したがって、「ほんとうにサステナブル社会をつくりたいならば、旅をやめるべきだ」という考えを持つ人もいることでしょう。

他方で、旅は社会に対する肯定的な影響ももたらす可能性を秘めています。交流や相互理解、新たな発見のきっかけを生むのも旅です。もちろん、断絶や不理解や偏見を生むのもまた旅です。良い影響と良くない影響、そのどちらもおそらく可能性として有しています。

だとすれば、悪い影響を理由に禁止したり見限ったりすることは簡単ですが、その前に、良い影響を最大化し良くない影響を最小化する方法を根強く模索することが大切だと、筆者は(そしてサスタビは)考えています。それがサステナブルな旅を考えることなのだと思います。

コラム:新型コロナウイルス感染症の影響下で、観光/旅はいっそう冷ややかな目を向けられてきました。しかしそのような状況の中で、それでも観光や旅の可能性を容易く手放すべきではない、という主張や議論も練られてきています。たとえば遠藤英樹編(2021)『アフターコロナの観光学:COVID-19以後の「新しい観光様式」』(新曜社)などを参照してみてください

旅をしながら、何かに貢献したり、手伝ったり、サステナブルな取り組みに挑戦してみたりする、この新しい旅のあり方こそが、サスタビが提示するサステナブルな旅だといえるでしょう。

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これまでの旅から一歩踏み出して、「自分も旅をつうじて何かサステナブルなことに取り組んでみたい」とあなたが思ったときは、ぜひサスタビの「サスタビ編集部 おすすめ情報」や「スポット イベント」をチェックしてみてください。旅の中で参加できるサステナブルな取り組みについて紹介しています。

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