水田に浮かぶホテル『SUIDEN TERRASSE』
日本有数の米どころ、山形県庄内地方にまるで水田に浮かんでいるように建つホテルがあります。その名も『SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE』。
周りを取り囲む田んぼの水面には、美しいホテルの建物と空に浮かぶ雲や夕陽が映り込み、まるでウユニ塩湖のような景色が楽しめると、多くのメディアやSNSで取り上げられています。
このホテルを運営するヤマガタデザイン株式会社は「山形庄内から、ときめこう」をビジョンに地域課題を解決する事業をデザインし、子どもたちも自らも希望を持てる社会の実現のために、街づくりを行うベンチャー企業です。
(引用:SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE)
ホテルの設計は世界的な建築家・坂 茂(ばん しげる)氏によるもので、田園風景に溶け込むホテルはほとんどが木造、そして窓が多く自然の光がやさしく差し込む、シンプルで温かみのある空間になっています。
晴耕雨読のための6つのコンセプト
SUIDEN TERRASSEのコンセプトは「晴耕雨読の時を過ごす、田んぼに浮かぶホテル」で、誰もが自然体で過ごせるよう随所にデザインの工夫があります。
1.空間:庄内の風景と調和した建築
客室は山形の中央にそびえる出羽三山(月山、羽黒山、湯殿山)の名前から取った「G棟:GASSAN」「H棟:HAGUROSAN」「Y棟:YUDONOSAN」の3つの棟からなります。3つの棟の中心にある共用棟のテラスは開放されており、お茶を飲んだり、本を読んだり、ただぼーっと水田からの風を感じて過ごしたり、日常から離れて癒しの時間を過ごせます。
2.本:オトナもコドモ コドモもオトナ
ホテル内のライブラリー蔵書数は約2000冊。フロントのすぐ裏にあるライブラリーには、「自然や生き物」「世界を見渡す」「未来について考える」など独自の10つのテーマを元に選書された本が並びます。この本棚は宿泊客に限らず、地域の住人も自由に来て本を読むことができます。
もう一つの宿泊客専用のライブラリーは、夜の24時まで利用可能で、お風呂上りに時間を忘れて本の世界に没頭できます。
3.食:地産地消と自慢の米
“Farm to Table” がテーマで、旬の食材が新鮮なうちに提供されます。朝食ビュッフェでは、有機農業に取り組む自社農場で採れた野菜のサラダや、山形の郷土料理がずらり。主食のお米はもちろん庄内産のつや姫の玄米と白米、そして雪若丸の白米の3種類があり、どのおかずでどのごはんを食べようか迷ってしまいました。
肉に魚に野菜、そして米。食材の宝庫と言われる庄内で、地産地消と素材の良さにこだわり抜いた、風土と季節を感じられるお料理です。
4.農:つくる現場と食べる人をホテルがつなぐ
提供される野菜の一部は自社農場で育てたもの。無農薬など栽培基準にこだわった人にも環境にもやさしい農業を実践しており、宿泊客を対象とした収穫体験が開催されるときにはゲスト自ら「農」を体感することができます。
また農と切り離すことができないのがお酒。ディナーの際には料理に合わせて様々な地酒が楽しめるのはもちろん、「SAKE LOUNGE」ではプリペイドカードを使って、自分で好きなお酒を選んで飲み比べを楽しむことができます。1杯500円で、2杯分以上からカードは購入可能です。
すぐ隣のライブラリーから本を持ってくることもできるので、お酒を飲みながら本や漫画を読みふけり、ついつい夜更かししてしまいました。
5.地域:水田とホテルで地域の内外を結ぶ
共用棟にあるライブラリー、レストラン、ショップは宿泊客以外も利用できるため、地域の方がふらっと訪れることも。ショップには厳選された山形・庄内産のお酒やおつまみ、地元の作家さんがてがけた工芸品がストーリーと共に並べられていて、ひとつひとつ眺めているだけで少しこの地域とつながったような気持ちになります。
また、今回私もそうでしたが、「SUIDEN TERRASSEに泊まってみたい」とホテルが目的となってここ鶴岡に人が来ることで、地域の中と外をつなぐハブとなっています。
6.癒:田んぼの中で至極のお風呂タイム
地下1,200mから汲み上げる源泉かけ流しの天然温泉は、3種類の浴室に別れており、日替わりで男湯と女湯が入れ替わります。
引用:SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE
露天風呂が気持ちいいのは言わずもがな、私が感動したのはサウナとその後の外気浴です。露天風呂の奥にあるサウナはセルフロウリュもできる本格的なフィンランド式サウナ。そこでじっくり汗をかいた後は、露天の水風呂にぐっと使ってから、ベンチに座って外気浴。
田んぼの間を抜けてきた爽やかな風を全身で受けながら、瞑想をする時間はこれまでに感じたことのない「整う」瞬間でした。サウナ好きの方も、サウナ未体験の方も、ぜひトライしてみてください!
当たり前の田園風景を「魅力」に変える
コーヒーを飲みながら、ホテルの窓から見える青い空と田んぼを眺めていて気付いたのは「この素晴らしい風景は、決して特別なものではなくて日本のあちらこちらに見られる当たり前の田園風景だ!」ということです。
どの農村にもある水田。しかし、そこに光を当てて、地域の風土や文化と結びつけ、またすっかりそうした景色や農的な暮らしから離れてしまった私たち現代人を惹きつける「晴耕雨読」の過ごし方のヒントをくれることで、沢山の人がこの場所に訪れています。
地域にあるものを見つめ直し、それを魅力に変えることの大切さを実感するとともに、自分の今の生活を見直して自然や自分と丁寧につながる時間を持ちたいなと気づかされる旅でした。
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