【静岡】山焼きで守る黄金色の大草原・細野高原ガイド

東伊豆の小さな風待ち港・稲取

サスタビ編集部で静岡県は東伊豆の静かな港町・稲取を訪れました。旅の目的は、複数の空き家をリノベーションした地域に溶け込む宿泊施設『湊庵(so-an)』に泊まること。稲取の暮らしを体感してきました。
【静岡県】人生の風を待つ場所、伊豆稲取

今回は湊庵のスタッフでもあり、伊豆半島ジオパークの認定ガイドでもある藤田さんによる細野高原ハイキングツアーについてレポートします。

黄金色の大草原・稲取細野高原

伊豆半島は2018年に「ユネスコ世界ジオパーク」に登録され、半島全体に様々な地形のジオサイト(ジオパークの大地のなりたちがわかる見どころ)があります。その一つが稲取細野高原です。

引用:湊庵 / so-an 藤田さんの記事より

稲取の街中から山側へ車で約15分。標高約400m~800mの丘陵地には広大な草原が広がります。その面積は東京ドームおよそ26個分(125ha)。秋になると一面にすすきの穂がなびく黄金色の大草原となり、他にはない絶景だと地元の方も自慢する稲取の風物詩です。

細野高原は約80万年前~20万年前に噴火していた伊豆の大火山・天城山の一部です。もともとは一つの山だったところが、長い年月の中で浸食され、取り残されたのが細野高原なのです。下層には「稲取泥流」と呼ばれる水はけの悪い地層があるため、高原の中には静岡県の文化財に指定されている4つの湿原が生まれ、多様な湿原植物や水生昆虫・トンボなどが見られます。

人との共生の中で守られてきた地形

そんな火山に抱かれた動植物の宝庫ともいわれる細野高原ですが、自然とこのような地形が維持されているわけではありません。

草原は放っておくと低木が茂り、時間と共に林、森へと遷移していきます。植生が変わり、背の高い木々が増えると、地面には日光が入らなくなり、育つことのできない植物や生き物がでてきます。こうした木々の侵入や害虫の増殖を防ぎ、草原を維持するために稲取では毎年山焼きが行われています。

そもそも草原は、茅葺き屋根を作るための茅(すすき)を取るための「茅場」として、日本各地で人の手で管理されていました。稲取では田んぼに不向きな土地が多かったこともあり、通常は稲藁を使う畑の肥料や牛馬の飼料の代わりとしてもすすきが活用されました。今でもみかん畑の保湿/保温材や肥料として利用されているそうです。近年は需要の減少や人手不足が原因で多くの茅場が放棄され、草原が失われつつありますが、細野高原では数百年にわたって山焼きを続け、豊かな草原を維持しているのです。

引用:湊庵 / so-an 藤田さんの記事より

伊豆の最年少ジオガイドと行く細野高原ツアー

藤田さんは伊豆半島ジオパーク推進協議会の最年少認定ガイドとして、細野高原の自然や文化について伝える仕事をしています。

東京で自然環境を学ぶ専門学校に通い、卒業後は自然の魅力を伝えたいと考えていた時に、東伊豆で地域おこし協力隊の募集があることを知りました。移住してきた稲取については「豊かな自然環境の中でも、細野高原は格別です。また、生活と近い場所に、海も、山も、川もあって、ふとした時に恵まれているなと感じます。小さな幸せがたくさんちりばめられた場所です。」と語ります。

藤田さんの細野高原ガイドツアーは、(一社)東伊豆町観光協会が行う約4時間のハイキングツアーのほかに、湊庵に宿泊するゲスト向けのオリジナルツアーがあります。今回は湊庵オリジナルツアーをお願いしたので、麓から山頂手前の8割ほどは車でビューンとショートカット。残り僅かの山道を25分ほどかけて歩きました。

秋の涼しい風の中ならハイキングもよいですが、梅雨明けの猛暑の中ではこれが限界…!それでも青々とした草原と青い海、その向こうに見える伊豆諸島の絶景を楽しみながらの山歩きはとても心地が良かったです。

植物のことや虫のことを聞くとなんでも答えてくれることから「藤ペディア」とも呼ばれている藤田さん。足元の草花を指さして「これは食べられます」と教えてくれたり、鳥の鳴き声からその種類を教えてくれたり、小石を一つ拾い上げ、その色や特徴から火山とのつながりを見せてくれたり。

その土地の自然に精通している方と一緒に行くからこそ、気づけること、見えるものが沢山あり、面白さは倍増でした。

観光から、一緒に地域を守る関係へ

そんな自然豊かな細野高原も、管理者の高齢化・後継者不足により景観の維持が難しくなっているのだそうです。

毎年秋になると周囲の草を刈り取る「防火帯」作りを行い、2月に経験豊富な年長者を中心に町中から100人以上が参加して、1日がかりで草原に火を放ち、山焼きを行います。しかし年々山焼きをする範囲を減らしており、草原の一部には低木が茂っていました。

引用:湊庵 / so-an 藤田さんの記事より

全国でも減少している草原という景観、そこにしか生息することのできない希少な動植物、そして山焼きという文化そのものを守っていくためには若者や地域の外の人の力が必要だと藤田さん。そのためにも、まずは稲取という地域を知ってほしいという想いで、宿「湊庵」を営んでいます。

ホテルに泊まって観光して終わりではなく、地域に溶け込む宿を通じて、共に暮らし、地域を守る関係性へとつながっていく。日本有数の観光地・伊豆半島の小さな港町で見つけたサステナブルな旅の形でした。

ジオパーク伊豆半島の黄金色の大草原・稲取細野高原

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