【前編】では、減少の一途を辿る人口問題について整理しました。
今回は、その人口減少のさなかで模索されてきた、解決策や再生策についてみていきます。とくに、交流人口から関係人口へと至る流れを整理して、「旅×関係人口」の可能性について考えていきましょう!
交流人口
1980年代半ば、第2期の人口減少にあたる時代に注目されたのが「交流人口」でした。1987年に制定された『第四次全国総合開発計画』(いわゆる四全総)において、「交流ネットワーク構想」が提唱されたことと深く関係しています。
地域の担い手(主体)による個性的な地域づくりを進めること、交通機関を整備し人の出入りを容易にすること、そして外部の人びとと地域の人びととの交流機会をつくること。その3点が、交流ネットワーク構想の基本方針でした。
その具体的な方策として実施されたのが、都市農村交流です。都市と農村の姉妹都市提携や、農業・漁業体験による交流、山村留学など多様な形態で都市自由民と農村住民との「交流」が目指されました。
交流人口≒観光客?
他方で交流人口は、その実態から、「観光客」と同義の存在に過ぎないのではないかという疑念を向けられていきます。農山漁村では、そうした交流事業の多くが人びとの無償の労働によって賄われており、結果としていわゆる「交流疲れ」が生じたとされます。
また本来、交流人口としてやってくる都市住民には、単なる遊びや観光のためにくる一時的滞在者としてではなく、地方の農業や漁業や地域づくりの担い手として、すなわち農山漁村の人びとと対等な関係にある責任主体として来訪してもらうことが理想とされていましたが、実情はそううまくはいきませんでした(松宮2011)。
交流人口としてやってくる主体は、短期型の観光客と何ら変わらない実態を引き起こしているのではないか。地域との信頼関係やパートナーシップを結ぶのではなく、地域を別の形で観光商品化しているのではないか。そのようにして「交流疲れ」をはじめとする問題が露見するなかで、交流人口ではない「地域との関わり方」が模索されていったのであり、そこで注目されたのが「関係人口」だったのです。
定住人口と交流人口のあいだにある、関係人口
関係人口は、定住人口でも交流人口でもない、「第3の人口」とも称されます。
関係人口という言葉は、2016年ごろから広まりをみせてきました。同時期には、雑誌『ソトコト』編集長の指出一正による『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ社、2016年)や田中輝美『関係人口をつくる――定住でも交流でもないローカルイノベーション』(木楽舎、2017年)などが出版されています。
定住人口は、地域に移住することを前提とした概念であるために、人びとは1つの地域としか関係を結ぶことができません。その結果、定住人口の希求は全国的に減少傾向にある人口の争奪ゲームに陥ってしまいます。
他方で交流人口では、地域の担い手づくりになかなか繋がらない現状があります。そうしたなかで、「定住するか否か(定住するか、交流するだけか)」という二者択一ではない多様な「関係」のあり方の可能性が、「関係人口」として模索され始めてきたということでしょう。
関係人口を政府として公式に定義した『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書』(総務省、2018)では、関係人口は「長期的な「定住人口」でも短期的な「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」と説明されています。ポイントは、「長期的でも短期的でもない」というところ、および「多様に関わる」というところにありそうです。
なお、総務省による「関係人口ポータルサイト」(https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html 2023年6月3日最終確認)では、関係人口は次のように説明されています。
「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」。以下の図はわかりやすいですね。
地域と多様に関わるひとつの方法としての旅/観光
さて、旅という方法で関係人口と結びついていくうえで考えなければならないのは、既存の交流人口が「観光」と結びついて理解されている点についてでしょう。
総務省の説明から読み取ることができるのは、「交流人口=観光=短期的」という図式であり、観光では、地域と肯定的な関係を結ぶことができないということです。
しかし、「関係人口としての観光」ないしは「関係人口としての旅」は本当にあり得ないのでしょうか?「観光」という言葉がここでやや否定的なニュアンス(と言っては言い過ぎかもしれませんが、既存の図式からは、「観光からは何も生まれない」という認識の存在をうかがい知ることができるでしょう)で用いられていることを、再考していくことはできないのでしょうか。
おそらくまず先に問い直すべきは、「旅/観光=短期的」という点かもしれません。
一時的、一回的で、刹那的な来訪としての旅/観光がそこでは想定されています。どこかから急にやってきて、食べ物や文化を「消費」し、満足して帰ってしまう(そして二度と再訪してこない)旅人/観光者の姿がそこにはあります。
「関係する」ための旅
旅や観光をつうじて、地域と関わる。それはたとえば、リピーターとして何度も来訪する、地域に中長期的に来訪する、ワーケーションの場として、旅先の地域を自分の仕事場にする、などの方法によって実現することができますね。「短期的・一回的・刹那的」ではない旅/観光のあり方はたくさんあるはずです。
そして、もう一歩考えを先に進めるとすれば、「関係するための旅」という方法もあるでしょう。「旅や観光という目的」があって、その過程で地域と「関わる」のではなく、「地域と関わるという目的」があって、その「手段としての旅」がある、という発想の転換です。
その転換によって、これまで「旅」とは考えられてこなかった様ざまな事柄を、「新しい旅」として捉えなおすことができるように思います。地域で行われているボランティア活動に参加する、地域のイベントに参加する、地域で一定期間生活をしてみる…等々、「え、それも旅になるの?」と周りが驚くような、新しい旅のあり方を考え、実践していくことが「関係人口としての旅」を作り出していくと言えるでしょう。
また、もちろん、従来通りの旅/観光であっても、地域と「関係する」ことは様々に可能なはずです。SNS等をつうじて地域と関係を維持することや、定期的に来訪することもできるはず。地域と「関係する」ことの可能性が多様化してきているいま、旅/観光自体もどんどん新しいあり方へと更新していきたいですね。
サスタビでは、こうした意味での「新しい旅のあり方」を模索し、サイトを通じてみなさんに発信しています。ぜひ皆さんも一緒に、「え、こんなことも旅になるの?」という驚きを探してみてください(コメントや「スポット登録」などをつうじて、みなさんのアイデアも教えてください!)
「関係人口」に関連する他の記事や具体的な方法はこちらもぜひ!
参考文献
指出一正(2016)『ぼくらは地方で幸せを見つける』ポプラ社。
総務省(2018)『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書―「関係人口」の創出に向けて』(https://www.soumu.go.jp/main_content/000529409.pdf 2023年6月3日最終確認)
田中輝美(2017)『関係人口をつくる――定住でも交流でもないローカルイノベーション』木楽舎。
田中輝美(2021)『関係人口の社会学――人口減少時代の地域再生』大阪大学出版局。
松宮朝(2011)「農都交流」地域社会学会『新版 キーワード地域社会学』ハーベスト社。
この記事へのコメントはありません。