1週間“無料”で滞在できる!?イタリア・人口約600人の地域が旅人に教えてくれること

前回記事「シビックプライドとはなにか?旅人も地域を担うために」では、こんにちの観光・地域づくりにおいて注目されているキーワード「シビックプライド」について、その概要や背景を整理しました。

今回の記事では、このシビックプライドを考えるにあたってとても興味深い取り組みをしている、イタリアのとある小さな地域についてご紹介します。

この地域の実践は、私たち旅人が旅先の地域とどのように向き合うべきか、地域に対して旅人として何ができるのか、といった問題について大きなヒントを教えてくれます。

人口約600人、サン・ジョヴァンニ・イン・ガルド

イタリアでは、行政区画の最小単位を示す「基礎自治体」のことをコムーネ(comune)と呼びます。

今回の舞台となるサン・ジョヴァンニ・イン・ガルドSan Giovanni in Galdo)は、イタリア南部、モリーゼ州カンポバッソ県というところに位置する、人口約600人の小さなコムーネ。ローマやナポリからの所要時間はおよそ2時間。

https://molise.guideslow.it/localita/san-giovanni-galdo/

https://molise.guideslow.it/localita/san-giovanni-galdo/

2020年7月、この地域の文化団体アミーチ・デル・モッルット(Amici del Morrutto)は、地域が抱える過疎化の改善と新型コロナウイルス感染症の影響によって不振となった地域の観光再振興を目的として、なんと地域外の人びとであればだれでも応募できる「1週間の無料滞在プロジェクト」を実施したのです。

「モリーゼ州を自分に贈ろう」キャンペーン

この無料滞在プロジェクトは、米国紙『ニューヨークタイムズ』の特集「2020年に訪れるべき52の場所」にモリーゼ州が選ばれたことをうけて開始された「モリーゼ州を自分に贈ろう」(Give Yourself Molise)というキャンペーンの一環として実施されました。内容は、2020年7月4日~10月3日までの期間、応募し当選した人がサン・ジョヴァンニ・インガルド内に約40ヶ所ある宿泊施設で1週間無料滞在することができるというもの。

しかも宿泊施設はホテルではなく、個人が所有する家屋や空き家を再活用した家屋であり、より現地の生活に近い体験をすることができます。

無料滞在プロジェクトは6月に募集が開始されてから、わずかの期間で世界中から8,000件以上の応募を集めるなど大反響となりました(1)

応募条件の特徴

応募動機

旅人が地域に対して何をギフトすることができるのか。その問いを考えるうえでこの無料滞在プロジェクトが興味深い理由は、同プロジェクトが応募者に定めるその条件にあります。

まず、応募できる者は、モリーゼ州在住者でない者。また、モリーゼ州に家屋を所有していたり、州内に親族が生活している人も同じく応募することができません。

つまり、生活圏としてモリーゼ州に親しんでこなかった人びとなど、いわば「モリーゼ州にとっての”ヨソ者”」がその対象であるといえます。

そして注目すべきなのは、応募者の選考にあたって応募者の「応募動機」を重視している点です。

外部者の視点を取り込み、地域を再発見する

なぜこのモリーゼ州に滞在したいと思ったのか。モリーゼ州で興味のあるところや、好きなものはあるか。滞在中にはどのようなことをしてみたいか。応募者は、モリーゼ州について情報収集をし、自分にとっての地域の魅力を見つけ出そうとします。

加えて応募者はそれらの情報を文章にして、他者にも伝わるように表現しなければなりません。しかも選考を勝ち抜くためには、他の人も書いていそうなありきたりの内容ではなく、「自分だけの」地域の魅力や可能性が書き連ねられたものである必要がある……

そうして出来上がった応募動機の情報は、モリーゼ州の側にとって宝の山のような情報となるのです。地域外の人びとがモリーゼ州についてどう思っているのか、どんな魅力や期待を感じているのか。あるいは、どのような改善の余地があるのか。普段はなかなか知り得ないそうした情報を大量に集めることができたといえます。

そのメリットのうえで、1週間の無料滞在をつうじてモリーゼ州をさらに知ってもらったり、地場産品を購入してもらったりできるほか、滞在後にはモリーゼ州について感想を発信してくれることも期待できるのですから、モリーゼ州にとってこのプロジェクトは一石数鳥の取り組みだったといえるでしょう。

https://molise.guideslow.it/localita/san-giovanni-galdo/

ヨソ者の視点は集めることが難しい

自らの地域を外部者の視点を用いて客観的に捉えなおし、地域の再発見や魅力開拓を進めるうえで、ヨソ者の視点は大いに役立ちます。しかし、ヨソ者の視点を集めることは通常、簡単ではありません。

なぜなら地域を客観的に捉え直してくれるようなヨソ者は、普段はその地域に特に関心を持たない人びとだからです。そんな人びとに「自分の地域についてアレコレ考えてくれ、意見をくれ」と言っても動いてもらうことはなかなか難しいでしょう。

「1週間の無料滞在のプレゼント」は人びとの注目や関心を集めるうえで画期的なアイデアだったのです。

旅人の声を、もっと地域に届けよう!

このプロジェクトのような取り組みが広がれば、他の地域も、地域のPRをしながらヨソ者の視点を集め、地域おこしや魅力開拓を推進することができそうですね。もちろん旅人にとっても1週間の無料滞在はひじょうに魅力的です。

じっさいこのプロジェクトに携わった文化団体の方も、過疎化にあえぎ空き家を数多く抱える他の国や地域にもこの取り組みが採用されることを望んでいると述べています(2)。

とはいえ、旅人の側もいつまでも「他の地域でも無料滞在キャンペーンが始まらないかなぁ……」と待っているだけではダメでしょう。無料滞在はたしかに画期的な発想ですが、私たち旅人はこれを機に、その取り組みが地域にもたらすメリットを普段からギフトできるような旅人になる必要があるのではないでしょうか。

そこで提案したいのが、「旅人の声をもっと地域に届ける」ということです。前回の記事でも紹介したように、旅人の声が地域の魅力発見やシビックプライドの醸成に重要な役割を握るのであれば、私たちはもっともっと声を届けていくべきでしょう。

旅ブログやSNSでの経験の共有を、もっとたくさん、もっと詳しく発信していくこと。加えて、「自分だけ」が感じた地域の魅力や面白さを、文字や写真、映像をつうじて他の旅人や地域の人びとに伝えていくことが重要です。

旅のアトだけでなく、旅のマエでも。

モリーゼ州の事例で集まった旅人の声(応募動機)のほとんどは、モリーゼ州から遠く離れた地に住む、モリーゼ州を訪れたことのない人びとのものでした。そんな人びとでも地域について調べ、魅力を発見し、それを言葉にして地域に届けることができたのです

だとすれば、旅人の声の発信は「地域に旅で訪れるマエ」であっても可能だと言うことができるでしょう。旅のマエであっても、旅で訪れようと思っている地域やいずれ訪れてみたいなと思っている地域について「ここに行ってみたい」「この場所で○○をしてみたい」「この地域の△△なところが魅力的だなぁ」と言語化し発信することは可能であり、そうしたひとつひとつの声が地域にとって再発見や魅力開拓のヒントになるのです。

「今度はどこを旅してみようかな」と考え中の旅人のみなさん。ぜひ、その計画の過程もまたブログやSNS等で発信してみませんか?

おわりに

今回の記事では、イタリア南部モリーゼ州の、とある町の取り組みから旅人が学ぶべきことについて考えてみました。

今回の記事で触れた「旅マエでの発信」は、「サスタビ20ヶ条」における「02 新しい見どころを発見しよう」「03 事前に歴史・文化をしらべておこう」「20 サステナブルな活動を友達とシェアしよう」と密接に関わっています。それぞれの内容についてもぜひチェックしてみてくださいね。

また、旅のマエでもし地域のサステナブルな魅力を発見できたときには、ぜひ「サスタビスポット」にも登録して、地域の人びとや他のサスタビユーザーにも教えてください。

旅人の声を、もっと地域に、旅人に、届けていきましょう!

(1)https://www.independent.co.uk/travel/news-and-advice/italy-free-holiday-applications-san-giovanni-in-galdo-molise-a9680306.html

(2)前掲

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