【長野県】寒天の里・茅野 風土に結び付いた伝統産業を守る【前編】

寒天の里・長野県茅野ってどんなところ?

サスタビでもこれまで何度か取り上げてきた『ちの旅』。遂にサスタビ編集部が実際に『ちの旅』を利用して、茅野の暮らしと人々の魅力をたっぷり感じられる日帰りツアーに参加しました。

▶『ちの旅』について詳しくはこちら

その中でも、茅野の特産品である「寒天」の工場見学ツアーについてご紹介します。

茅野は国内随一の寒天の名産地。町のいたるところに「寒天の里」と書かれたのぼりが立っています。正直なところ私は「か、寒天…?なんだか地味な特産品だなぁ…。」という大変失礼な感想を持ってしまいました。

が、しかし!この1時間後、私は寒天と茅野の風土の結びつきを知り、寒天の可能性に魅了され、山ほどお土産を買って帰るのでした。この記事を読めばきっと、みなさんも茅野に行って、その目で寒天づくりを見たくなるはず。

いざ、寒天工場見学|有限会社イリセン

今回お邪魔したのは、茅野市にある有限会社イリセンの工場と直売所。案内してくれたのは4代目社長の茅野さんです。

200年以上続く茅野の地場産業・寒天づくりは、この土地の気候と風土に強く結びついた伝統産業です。しかし他の多くの伝統産業と同様に、寒天産業も衰退しつつあり、多くの課題を抱えています。そこで伝統の製法を受け継ぎながらも、新たな視点を取り入れて、時代に合わせた改革を進めているのがイリセンなのです。

「地域に根差した伝統の食を守りたい、そして産業も、地域全体も盛り上げていきたい。」そんな若き社長・茅野さんの想いと共に、寒天のこれまでとこれからについて、体験を通じて教えていただきました。

そもそも寒天って?ところてんとは違うの?

はじめに、寒天について教えてもらいます。寒天は、天草という海藻を原料に作られる食品で、みなさんに馴染みがあるのは寒天ゼリーや牛乳寒天などではないでしょうか。これらは寒天を加熱して溶かし、再度固めた加工品です。

もとの寒天は乾燥した製品で、その形状から ①棒寒天(角寒天)②糸寒天(細寒天)③粉寒天(工業寒天)に分けられます。私たちがスーパーなどで見かける寒天のほとんどは粉寒天で、これは工場で作られたものです。

一方、茅野市をはじめ諏訪地域で作られる棒寒天や、岐阜県で作られる糸寒天は、自然の寒さを利用して乾燥させる伝統的な天然製法を用います。ちなみに、この棒寒天・糸寒天を乾燥させる前の段階のものがところてんになります。

なぜ海のものを長野の山麓で作る?

ここで気になるのが「なぜ海藻をわざわざ長野まで運んで寒天を作るのか?」ということ。これには茅野を含む諏訪地方の気候が大きく関係しています。

①凍てつく冬と晴天率

茅野の冬は寒いです。夜間は-20度になることもあったのだとか!

冬には畑も凍るため農産物はできませんが、そんな「凍みる」地域だからこそ、凍み豆腐、凍み大根といった保存食が伝統的に作られてきました。

棒寒天こそがその代表で、夜の厳しい寒さの中で寒天が凍り、日中には気温が上がって解ける。それを2週間繰り返すことで水分が抜けて棒寒天が出来上がります。これを冷蔵庫で人工的に作ることはできないため、諏訪地域でしか棒寒天は作れないのです。(糸寒天は-2,3度でも凍るため岐阜でも作ることができますが、棒寒天は―8度を下回らないと凍らないのだそうです。)

また、茅野は寒さは厳しくても晴天率が高いため雪が少なく、内陸のカラッとした気候も寒天を干すのに適しています。寒天を並べて干す様子は、茅野をはじめ諏訪地域の冬の風物詩なんだとか。

引用:茅野市

②純度の高い美味しい水

寒天づくりのスタートは、原料となる天草を洗うところからはじまります。このとき使う水がその後の味を左右するため、不純物が少なく、美味しい茅野の地下水が寒天づくりに適しているのです。

③養蚕の歴史とのつながり

寒天づくりに使われる道具のほとんどは、昔から変わっていません。イリセンの工場でも、80年の歴史の中で寒天を冷ますための容器が途中でプラスチック製のものに変わった以外、大きな鍋や型枠などはみな創業当時の道具なんだそう。

中でも、寒天を干すのに使う竹籠はもともとお蚕さんのための籠だったもので、諏訪地域が養蚕を行う地域だったことも関係しています。

プラはすぐに劣化してしまいますが、丁寧に使うと木や竹はうんと長持ちするのです。こんなところにも伝統とサステナビリティを見つけることができます。

長い長い寒天づくりの工程

寒天を作るには、天草を洗うのに丸一日、大きな釜を沸かすのに9時間、そこから煮込んで取り出すのに一晩かかり、乾かすのに2週間。

その各工程の中に、苦労や工夫がたくさん見られるのですが、それは実際にツアーに参加してのお楽しみ。

ところてんと寒天を食べ比べ

工場見学の後は、ところてんと寒天を実食!今までは甘味としてしか食べたことのなかった寒天を、麺や具、さらにスナック菓子と新しい食べ方で紹介してもらい、編集部メンバーもすっかりはまってしまいました!

守るべき伝統のやり方と、時代に合わせた改革と

寒天づくりは寒さが要です。冬の間に1年分を作らなければいけないので、工場に住み込みで一晩中作業をし、一つの工場で20人程が分担して働くのが一般的だそうです。しかし、過酷な寒さとハードな働き方ゆえ、担い手は年々減ってきているのが現状です。

イリセンさんでもこの作業工程は変えていませんが、現在の従業員数はなんと3人!その秘密は作業工程の改革と、新しい売り方にあります。

干場の常設による負担の軽減

通常は冬のシーズンに入るときに、田んぼに木の骨組みを組んで寒天の干場を設営します。春が来たらまたこれを崩して、田植えに備えます。

しかしイリセンでは高齢化に伴い耕作放棄地となった田んぼを借りて、寒天の干場を一年中作ることにしました。これにより毎年の作業量を大きく減らし、その分の時間を寒天づくりに回すことができるようになりました。

体験事業と新しい寒天の売り出し方

加えて、体験事業をはじめたり、これまでにない新しい発想で寒天の作り方・売り出し方を考案し、寒天産業の可能性を広げています。

イリセンの先入観にしばられない工夫とアイディアについては後編で詳しくお伝えします。
後編に続く

【長野県】伝統産業を攻めて拡げる寒天屋・有限会社イリセン【後編】

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