「旅をつくる」ことの、サステナブルな可能性
観光を構成するひとつひとつの行為は、じつは日常的な行為なのかもしれない。そうした着想をヒントに、「ある」旅から「つくる」旅への転換の可能性について、前編・中編をつうじて思考的に検討してきました。
従来型の旅や観光のあり方(2つの意味で「パッケージ化」された旅・観光)を解体し、自分で「旅をつくる」こと。その試みには、「旅が目的から手段に変化すること」と、「旅がコンパクトになること」という、サステナブルな旅の実現を考える土台となるような、重要な2つのメリットがありました。
手段としての旅:それは、旅を他者へとひらくことでもある
もちろん、旅や観光それ自体が全体としてもつ楽しさやワクワク感などが存在すること、つまり旅や観光はそれ自体に、目的としての価値をもつことは事実でしょう。他方、そこからもう一歩踏み込んで、旅や観光を通じて何かを達成するという考え方をすることができれば、旅それ自体の楽しさを味わいつつ、さらに「自他ともに有意義な何か」を達成することも可能になると考えられます。
この「自他ともに」というところが、ポイントです。サスタビが掲げる「サステナブルな旅」とは、旅の楽しさをめいっぱい楽しみながら、同時に、旅をつうじてサステナブルな社会の実現に貢献することができるような旅です。これは言い換えれば、「旅を目的としても手段としても、全力で楽しみ、味わう試み」にほかなりません。
そして、旅それ自体の楽しさを楽しもうとするだけ(旅が目的のまま)では、その楽しさや意義は自分にだけ意味があるものに留まってしまうことがほとんどです。旅をすること、それ自体が目的なのですから、その効果は旅をする自分自身にしかありません。
反対に、旅を手段として位置づけて、旅をつうじて何かを実現させようとする場合、その目的の部分には、自分のための目的や行為はもちろん、他者(他人、そして社会や環境など、広い意味で自分以外の様々なもの)のための行為も含むことができるのです。旅を旅だけで終わらせない。旅を自分事だけで終わらせない。そうして「旅をひらくこと」の先に、「旅をつうじてサステナブルな社会をつくる」というスローガンの実現が待ち受けているのであり、そのために第一に取り組まねばならないのが、旅を目的から手段にすることなのです。
コンパクトな旅は、リピーターにつながる
もうひとつ、「旅をつくる」ことの論理的かつ実践的なメリットとしてあるのが、「旅がコンパクトになる」というものでした。何かを食べる、何かを体験するといった個別具体的な目的を設定し、それを中心に据えた旅を計画・構想することで、旅を最適化することが可能になりますね。それは言い換えればコンパクトな旅であり、環境負荷や社会負荷を最小化するサステナブルな旅と結びついていると思われます。
コンパクトな旅では当然、「あれもこれも」というわけにはいきません。しかし、だからこそ、そこにリピートする余地が残されるともいえます。「次はあれをしたい」「今度は○○に挑戦してみたい」と、また再訪の計画を立てればよいのです。毎回の旅をコンパクトに、最小限にし、複数回その場所を訪れる。そのつど変化する地域の表情を知ったり、地域の人との交流を深めたり広げたりする。つまりコンパクトな旅をつくることは、いわゆる「交流人口」や「リピーター」の増加とも結びついているのです。
「旅をつくる」ハードルはきっと高くない
とはいえ、つねに「旅をつくりつづける」のは大変です。また、「つくられた旅」がその瞬間から「既につくられた旅」すなわち「ある旅」になってしまうとすれば、そのような切迫感に追い立てられた旅・観光の創造は、どこかせわしないものに聞こえます。
「つくる」というのはおそらく、完全なオリジナルを創造する、という意味で捉えるべきではないでしょう。「ある」ものにちょっと付け足すとか、少し角度を変えてみるとか、そうした「ちょっとしたこと」が大切なのかもしれません。
地域とともに。サスタビとも、ともに。
また、旅を「誰とつくる」のか、という観点も重要でしょう。私の記事では、旅は協働作業にほかならないという点について一貫して考えてきました(例えばこちらの記事を参照)。「旅をつくること」も他の旅人や地域の人びとと協働的に取り組むべきものであり、言い換えれば、旅をつくる段階、すなわち旅をする前の段階からすでに旅の協働作業は始まっているのです。
でも、どこかへ行きたいと思い立った時や、何かしたい事が見つかったときに、どこへ行けばいいのか、その場所で何ができるのか、その場所にはどんな人がいるのか‥‥‥そうした、これまで記事で述べつづけてきた「個別具体的なこと」を自力で探し出すことは大変です。
とくに協働作業として「旅をつくる」ためには、他の旅人の経験談や、地域で様々なサステナブルな取り組みをしている事業者やオーナーらの「生の声」に触れる必要があるでしょう。
サスタビでは、「サスタビに行く」の諸記事や、「サスタビを知る」の「体験レポート」といったコンテンツをつうじて、そうした「生の声」を届けるべく取り組みをつづけています。取材をもとに、事業者や地域の人びとの考えや活動の背景、地域のさまざまな現状を伝えながら、同時にいち旅人として感じたことや経験をつづっています。そこからは、地域や、紹介されている「○○さん」「△△氏」たちが観光や旅とどう向き合っているのかをうかがい知ることができるでしょう。
※そのようにして、「地域による観光との向き合い方」を旅人が知ることの重要性については、下の記事で詳しく述べています。
【前編】では、オーバーツーリズムの基礎知識や、これまで採られてきたオーバーツーリズム対策の現状について検討してきました。 現状、オーバーツーリズムに関する対策の多くは、①政策的な観点から、かつ②観光客を受け入れる側の視点から検討されてきた側面があるようにうかがえます。つまり問われてきたのは、条約や...前編はこちら https://sustabi.com/blog/6161/ 「ローカル」 この言葉を聞いて肌感覚で私たちが思い浮かべるのはおそらく、地域らしさとか、地域の伝統や文化や歴史、地域住民の生活風景、といった、どことなく温かみを感じるような事柄だと思います。 旅は、一側面において...観光者を受け入れる人々はホスト、観光者のことはゲストとしばしば表現されます。観光について学術的に検討してきた観光研究の分野では、これらは重要なキーワードとなってきました。また一般的にも、馴染みのある表現なのではないでしょうか。 今回の記事では、「ホスト/ゲスト」の理想的な関係性、あるいはサステナブ...
それらの記事は、きっとあなたが「旅をつくる」うえでのヒントになると思います。紹介されている事業者や施設を「自分ならどう訪れるか」想像してみるのもよいですし、「別の地域で、類似した活動をしている人はいないかな?」と、自分で調べる際の手がかりにもなるかもしれません。また実際に連絡を交わしてみたり、訪れてみたりすることで、あなたと彼らとの個別具体的な関係がスタートします。
次はどんな旅にしようか。どんな旅をつくってみようか。地域とともに旅をつくるという意識と想像力について、ぜひ考えてみてほしいと思います。また、困ったときや情報が知りたいときにはぜひ、サスタビを覗いてみてください。あなたと地域とを、そしてあなたと他の旅人とをつなぐお手伝いができたらと思います。地域とともに、旅人とともに、そして、サスタビともともに。旅をつくっていきましょう。
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